読書感想文(関田涙)

関田 涙(せきた・なみだ)

フランス

『マルタン君物語』マルセル・エイメ

Derrière chez Martin(1938)Marcel Aymé マルセル・エイメの『マルタン君物語』は、原書が刊行された翌年(昭和十四年)に早くも『人生斜斷記』(写真)の邦題で翻訳されています(鈴木松子訳)。 江口清訳の方は、筑摩書房の「世界ユーモア文学全集」「世…

『ヴィオルヌの犯罪』マルグリット・デュラス

Les Viaducs de la Seine-et-Oise(1959)/L'Amante anglaise(1967)/L'Amante anglaise(1968)Marguerite Duras マルグリット・デュラスの『ヴィオルヌの犯罪』(写真)には、モデルとなった殺人事件があります。一九四九年に、アメリー・ラビュー(Améli…

『日曜日の青年』ジュール・シュペルヴィエル

Le Jeune homme du dimanche et des autres jours(1955)Jules Supervielle 自宅から車で二十分くらいのところに、老夫婦が経営している古本屋があります。チェーン店でも専門店でもない小さな店舗で、足の踏み場もないほど雑然と本が積みあがっている店で…

『小間使の日記』オクターヴ・ミルボー

Le Journal d'une femme de chambre(1900)Octave Mirbeau『小間使の日記』(写真)といえば、ルイス・ブニュエル監督、ジャンヌ・モロー主演の映画(1964)を思い浮かべる人が多いかも知れません。 しかし、小説が初めて邦訳されたのは大正十二年(一九二…

『責苦の庭』オクターヴ・ミルボー

Le Jardin des supplices(1899)Octave Mirbeau オクターヴ・ミルボーは、正統王朝派のジャーナリストとして活動を開始し、後にアナーキズムに傾倒し、小説や戯曲を著しました。 ブルジョア、権力者、聖職者、民衆などあらゆる者を憎んだミルボーは、過激で…

『飛行する少年』ディディエ・マルタン

Un Garçon en l'air(1977)Didier Martin インターネットが普及する前の話ですが、フランス文学は英米文学に比べ情報が少ないせいか、得体の知れない小説を、つい買ってしまうことがありました。このブログで取り上げたものでは『先に寝たやつ相手を起こす…

『これからの一生』エミール・アジャール

La Vie devant soi(1975)Émile Ajar(Romain Gary) ロマン・ガリーはロシア生まれで、フランスに帰化した作家・映画監督です。映画ファンにとっては、ジーン・セバーグの夫といった方が分かりやすいかも知れません。 彼は一九五六年に『自由の大地』で、…

『ストーリーナンバー』ウージェーヌ・イヨネスコ

Conte numéro: Pour enfants de moins de trois ans(1969, 1970, 1971, 1976)Eugène Ionesco ウージェーヌ・イヨネスコは過去に、小説(『孤独な男』)と戯曲(『授業/犀』)を取り上げたので、今回は絵本を紹介します。『ストーリーナンバー』(写真)は…

『屠殺屋入門』ボリス・ヴィアン

L'Équarrissage pour tous(1950)Boris Vian 以前にも書いたとおり、高校生の頃、フランス文学にかぶれていました。 志賀直哉じゃありませんが、フランス語で書かれた文学は格上と考えていたんですね。ひとつの国を特別視するなど無知故の思い込みに過ぎま…

『ヂャック』アルフォンス・ドーデ

Jack(1876)Alphonse Daudet アルフォンス・ドーデの『ヂャック(ジャック)』(写真)を読むきっかけとなったのは森茉莉でした。 茉莉の息子の山田𣝣(じゃく)と同じ名前のせいか、彼女のエッセイに度々登場します。例えば……。「息子の家から公然と移動し…

『火の娘たち』ジェラール・ド・ネルヴァル

Les Filles du feu(1854)Gérard de Nerval ジェラール・ド・ネルヴァルの『火の娘たち』(写真)は、彼が自殺する前年に刊行された最後の書籍です。また、このブログでは珍しく、誰もが知っている古典でもあります。 といって、長編でも、同一のテーマに沿…

『魚雷をつぶせ』ジョルジュ・ランジュラン

Torpillez la torpille(1964)George Langelaan 早川書房の叢書「異色作家短篇集」で個人短編集が刊行された十七人の作家の、それ以外の書籍を取り上げようと思い立ちましたが、最も選択肢が少ないのがジョルジュ・ランジュランです(※)。 何しろ『蠅』以…

『スイミング・プール』フランソワ・オゾン

Swimming Pool(2003)François Ozon フランソワ・オゾン監督の『スイミング・プール』は、ひどい映画でした。 人物造形もストーリーも滅茶苦茶で、最初から回収する気のない謎を投げっ放して終わるという質の悪さが目立ちます。「どう解釈しようが自由」な…

『世界珍探検』ピエール・アンリ・カミ

La famille Rikiki(1928)/Cami-Voyageur ou Mes aventures en Amérique(1927)Pierre Henri Cami このブログで取り上げる三冊目のピエール・アンリ・カミは、『世界珍探検』(写真)(※1)です。 ブログの書名一覧をみていただくと分かるとおり、僕は「…

『のんぶらり島』ジャック・プレヴェール

Lettre des îles Baladar(1952)/Contes pour enfants pas sages(1947)Jacques Prévert ジャック・プレヴェールといえば、映画『天井桟敷の人々』の脚本、あるいはシャンソン『枯葉』の歌詞で有名です。 詩や児童文学でも高い評価を得ており、日本でも数…

『おにごっこ物語』『もう一つのおにごっこ物語』マルセル・エイメ

Les Contes du chat perché(1934-1946)Marcel Aymé マルセル・エイメの『Les Contes du chat perché』には数多くの邦訳があり、邦題も様々です(『おにごっこ物語』『牧場物語』『ゆかいな農場』『猫が耳のうしろをなでるとき』など)。「chat perché」は…

『二人の女と毒殺事件』アルフレート・デーブリーン

Die beiden Freundinnen und ihr Giftmord(1924)Alfred Döblin アルフレート・デーブリーンは、最近になって叙事詩『マナス』や短編集『たんぽぽ殺し』などが刊行されるなど、日本ではちょっとしたブームになっています。しかし、何をおいても読んでおきた…

『火山を運ぶ男』ジュール・シュペルヴィエル

L'Homme de la pampa(1923)Jules Supervielle ジュール・シュペルヴィエルは、詩や短編小説の評価も高いのですが、日本では澁澤龍彦が訳した長編小説『ひとさらい』Le Voleur d'enfants(1926)が最もよく知られています。 子どもをさらってきて疑似家族を…

『授業/犀』ウージェーヌ・イヨネスコ

Eugène Ionesco 前回のスワヴォーミル・ムロージェックに続き、今回はウージェーヌ・イヨネスコの戯曲を取り上げてみます。 イヨネスコもムロージェック同様、劇作家としての方が圧倒的に有名で、白水社から「イヨネスコ戯曲全集」全四巻が発行されています…

『恋人たちと泥棒たち』トリスタン・ベルナール

Amants et voleurs(1905)Tristan Bernard 出帆社の「ユーモア文学傑作シリーズ」(※1)は、一九七五年十一月から一九七六年十月の一年間に、以下の本が出版されました。『悪戯の愉しみ』アルフォンス・アレー『ルーフォック・オルメスの冒険』ピエール・…

『数』フィリップ・ソレルス

Nombres(1966)Philippe Sollers 作家でもあり思想家でもあるフィリップ・ソレルスは、雑誌「テル・ケル」や「アンフィニ」の主催者としても知られています。 彼の作風を一言でいうと、前衛的で難解。処女長編の『奇妙な孤独』、日本では文庫化もされた『女…

『聖アントワヌの誘惑』ギュスターヴ・フローベール

La Tentation de saint Antoine(1874)Gustave Flaubert ギュスターヴ・フローベールといってすぐに思い浮かぶのは『ボヴァリー夫人』『感情教育』『サランボー』『紋切型辞典』といった作品たちでしょう。 そんな彼が何度も何度も書き直し、三十年もの歳月…

『この狂乱するサーカス』ピエール・プロ

Delirium Circus(1977)Pierre Pelot 先日、古いハヤカワ文庫を整理していたとき、「文庫創刊10周年 総点数1000点突破! ダイナマイト1000」と書かれた帯をみつけました(一九八〇年刊行のスタニスワフ・レムの『泰平ヨンの航星日記』やスタンリイ・エリン…

『完全犯罪売ります』ユベール・モンテイエ

De quelques crimes parfaits(1969)Hubert Monteilhet 僕の読書は浅くて狭いので、滅多に手を出さないジャンルが結構あります。例えば、恋愛小説、ポルノグラフィ、ミステリー、ホラーなどは余程のことがない限り読みません。 別に毛嫌いしているわけでは…

『夜鳥』モーリス・ルヴェル

Les Oiseaux de nuit(1913)Maurice Level 訳者の田中早苗(女性に非ず)は、モーリス・ルヴェルに惚れ込み、大正時代に「新青年」誌に翻訳を発表し続けました。それをまとめた本が『夜鳥』で、一九二八年に春陽堂から刊行されました。『夜鳥』というタイト…

『ヴィーナス氏』ラシルド

Monsieur Vénus(1884)Rachilde ラシルド(本名マルグリット・ヴァレット・エームリ)は、アルフレッド・ジャリ唯一の女友だちで、『超男性ジャリ』という評伝も翻訳されているせいか、日本ではジャリとの関連で語られることが多いようです。 まずは、この…

『熱い太陽、深海魚』ミシェル・ジュリ

Soleil chaud, poisson des profondeurs(1976)Michel Jeury サンリオSF文庫の特徴のひとつとして、日本人にとって馴染みの薄いフランスのSFを数多く紹介してくれたことがあげられます(※1)。 『馬的思考』アルフレッド・ジャリ 『五月革命'86』ジャ…

『大脱出』アンリ・グゴー

Le Grand Partir(1978)Henri Gougaud 前回取り上げたアンナ・ゼーガースの『第七の十字架』と同じく脱獄小説です。 けれど、共通するのはそれだけ。『第七の十字架』がナチ党の支配に抵抗した硬質な文学作品であるのに対し、こちらはアルフォンス・アレー…

『氷のスフィンクス』ジュール・ヴェルヌ

Le Sphinx des Glaces(1897)Jules Verne 以前、『ロビンソン・クルーソー』や『ドン・キホーテ』のパロディや続編をいくつか取り上げて感想を書きましたが、その第三弾として、エドガー・アラン・ポーの『ナンタケット島出身のアーサー・ゴードン・ピムの…

『でぶの悩み』アンリ・ベロー

Le Martyre de l'obèse(1922)Henri Béraud 身体的特徴(デブ、ハゲ、チビ、ブスなど)をあげつらう笑いは、最も低俗といわれます。「道徳的にけしからん」とか「差別だ」などというわけではなく、幼稚園児にもできる程度の低さと、発展性のなさがその理由…