読書感想文(関田涙)

関田 涙(せきた・なみだ)

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YouTubeを始めました。 オリジナルのショートショートを朗読(音声合成)しています。 ジャンルは、SF、ホラー、ミステリー、ファンタジー、ユーモアなどのエンターテインメント系です。 中学受験の算数で使われる「特殊算」の解説もしています。 www.youtub…

書名一覧

絶版、品切重版未定、残部僅少、限定版、自費出版、高価な本、非売品など、少しだけ手に入れにくい本の感想文を書いています。ほとんどが海外文学、翻訳小説です。

『怪船マジック・クリスチャン号』テリー・サザーン

The Magic Christian(1959)/Flash and Filigree(1958)Terry Southern 作家としては『キャンディ』、脚本家としては『博士の異常な愛情』『イージー・ライダー』『シンシナティ・キッド』『007/カジノ・ロワイヤル』『バーバレラ』(※)などの代表作…

『宇宙の漂流者』トム・ゴドウィン

The Survivors(a.k.a. Space Prison)(1958)Tom Godwin トム・ゴドウィンといえば、何といっても短編「冷たい方程式」(1954)が有名です。 これは次のような物語でした。 ひとり分の燃料しか積んでいない小艇に、密航者が紛れ込んでいました。それは美少…

『ホンドー』ルイス・ラムーア

Hondo(1953)Louis L'Amour 一九八四年、中央公論社は、片岡義男監修による「ペーパーバックウエスタン」という叢書を突如、刊行し始めました。 ところが、西部小説ファンの期待に反して、たった五冊を出版しただけで消え去ってしまいました(※1)。 この…

『スカトロジー・ダンディスム』セルジュ・ゲンズブール

Evguénie Sokolov(1980)Serge Gainsbourg『スカトロジー・ダンディスム』(写真)は、天才にして変態のセルジュ・ゲンズブールが書いた自伝的小説です。 彼は音楽家以外にも、画家や映画監督、俳優としても活躍した正に時代のアイコンでしたが、作家として…

『盗まれっ子』キース・ドノヒュー

The Stolen Child(2006)Keith Donohue 取り替え子(チェンジリング)とは、人間の子どもがさらわれ、代わりに妖精やゴブリンなどの子どもが置いてゆかれるという西欧の民俗伝承です。 国や地域、時代によって、呼び名もパターンも様々ですが、異界の者は成…

『日時計』クリストファー・ランドン

The Shadow of Time (a.k.a. Unseen Enemy)(1957)Christopher Landon ミステリーや犯罪小説は余り読まない上、世代ではないため、植草甚一が監修した「クライム・クラブ」という叢書は一冊も持っていません。 にもかかわらず、その後、創元推理文庫に入っ…

『小説アイダ』ガートルード・スタイン

Ida: A Novel(1941)Gertrude Stein ガートルード・スタインはアメリカ人ですが、二十世紀初頭にパリに移住すると、亡くなるまでそこで暮らしました。スタインが開いたサロンには若き芸術家たちが集まり、彼女はそのパトロンのような存在になります。 パブ…

『もし川がウィスキーなら』T・C・ボイル

If the River Was Whiskey(1989)T. C. Boyle ペン/フォークナー賞を受賞した『World's End』や、映画『ケロッグ博士』の原作者として知られるT・C・ボイル(※)は、今に至るまで膨大な量の短編を書いています。 日本でも三冊の短編集が刊行されており、…

ミステリーっぽい短編小説

海外の、ミステリー作家以外が書いたミステリーっぽい短編小説を紹介しています。

『軽蔑』アルベルト・モラヴィア

Il disprezzo(1954)Alberto Moravia アルベルト・モラヴィアは十七歳のとき、『無関心な人びと』を書き始め、二十二歳で出版すると、イタリア文学史上最大といってよい反響を齎します。 一時ファシスト政権に弾圧されるものの、第二次世界大戦後は話題作を…

海外文学におけるハゲ

注:二〇一九年九月二十七日に書いた記事に、新しいもの(NEWマーク付)を随時追加しています。そのたびに日付を更新します。 人生において、死、性、病、恋愛、人間関係と同じくらい悩ましい問題であるにもかかわらず、文学は「ハゲ」をきちんと扱ってこな…

『原子の帝国』『銀河帝国の創造』A・E・ヴァン・ヴォークト

Empire of the Atom(1957)/The Wizard of Linn(1962)A. E. van Vogt A・E・ヴァン・ヴォークトの長編シリーズの翻訳は、各二冊ずつ出版されています。 「イシャー」シリーズ:『イシャーの武器店』『武器製造業者』 「非A」シリーズ:『非Aの世界』…

『幾度もペドロ』アルフレード・ブライス=エチェニケ

La pasión según San Pedro Balbuena, que fue tantas veces Pedro, y que nunca pudo negar a nadie(1977)Alfredo Bryce Echenique アルフレード・ブライス=エチェニケの『幾度もペドロ』(写真)が、ペルーの新しい文学といわれてから早五十年が経ちまし…

『ローラ殺人事件』ヴェラ・キャスパリー

Laura(1943)Vera Caspary ヴェラ・キャスパリーの『ローラ殺人事件』(写真)は、オットー・プレミンジャー監督の同名映画の人気が高いようです。 映画も悪くはありませんが、小説に比べると平凡な出来です。『ローラ殺人事件』の邦訳は一九五五年に刊行さ…

『魔の配剤』『魔の創造者』『魔の生命体』『魔の誕生日』『終わらない悪夢』ハーバート・ヴァン・サール

Pan Books of Horror Stories(1959-1984)Herbert van Thal「ソノラマ文庫海外シリーズ」には「恐怖の一世紀」のほかに、もうひとつホラーのアンソロジーシリーズがあります。 それが、ハーバート・ヴァン・サール編の『Pan Books of Horror Stories』です…

つながる海外文学 ―初心者におすすめする連想読書法

「これから海外文学を読んでみたいと思っているけど、何を読んでよいのか分からない」方のために「つながりで選ぶ海外文学」を紹介しています。

『恋のエチュード』アンリ=ピエール・ロシェ

Deux Anglaises et le continent(1956)Henri-Pierre Roché アンリ=ピエール・ロシェは画商や美術評論家で、豊富な恋愛体験をもとに二冊の自伝的小説を書きました。 処女作『突然炎のごとく(原題:Jules et Jim)』(1953)(写真)は、フランソワ・トリ…

『異形の愛』キャサリン・ダン

Geek Love(1989)Katherine Dunn キャサリン・ダンの『異形の愛』(写真)の原題にある「ギーク(geek)」とは、見世物小屋で鶏を食いちぎって生き血をすする芸人のことです。 訳者の柳下毅一郎によると「geekという言葉を、その芸をあらわすものとして最初…

『缶詰横丁』ジョン・スタインベック

Cannery Row(1945)John Steinbeck 終戦の年に発表されたジョン・スタインベックの『缶詰横丁』(写真)は、戦争文学ではありません。 当時の読者の多くは『月は沈みぬ』のような作品を期待していたそうですが、スタインベックはカリフォルニア州モントレー…

『恋人たち』フィリップ・ホセ・ファーマー

The Lovers(1952)Philip José Farmer フィリップ・ホセ・ファーマーの『恋人たち』(写真)は、ふたつの点で革新的なSFといわれています。 それまでほとんど扱われてこなかった「セックス」と「宗教」を取り入れたためです。 宗教に関しては、ユダヤ教を…

『歳月のはしご』アン・タイラー

Ladder of Years(1995)Anne Tyler アン・タイラーは、主にアメリカの中流階級の家庭、熟年夫婦、中高年の男女を描く作家で、本国だけでなく、日本でも人気があります。 分類すると、家族小説や家庭小説になりますが、実は家族のなかで居場所をみつけられな…

『ゴルフ奇譚集』ジャン・レイ

Les Contes noirs du golf(1964)Jean Ray 数多あるスポーツのなかでも、ゴルフが特に文学と相性がよいのは、現役でプレイする人数の多さと多様性にあるのではないでしょうか。 ゴルフに取り憑かれた、いわゆる「ゴルきち」たちは、誰の身近にも存在します…

『モンキー・ワイフ』ジョン・コリア

His Monkey Wife: or, Married to a Chimp(1930)John Collier ジョン・コリアといえば、日本においては『炎のなかの絵』や『ジョン・コリア奇談集』などによって、「切れのよい怪奇・幻想の短編を得意とした作家」として認識されているのではないでしょう…

『作者を探す六人の登場人物』ルイジ・ピランデルロ

Sei personaggi in cerca d'autore(1921)Luigi Pirandello メタフィクションとは単なる作中作ではなく、フィクションに関するフィクションであり、自己言及や自己批判の機能を有します。 メタシアター(メタドラマ)も同様で、ライオネル・エイベルによる…

『暗い森の少女』ジョン・ソール

Suffer the Children(1977)John Saul スティーブン・キングやピーター・ストラウブよりやや遅れて登場したジョン・ソールのデビュー作が『暗い森の少女』(写真)です。 この小説は米国でベストセラーになったためか、早くも翌年には翻訳されています。 二…

『六番目の男』フランク・グルーバー

Fort Starvation(1953)Frank Gruber フランク・グルーバーは、ミステリーを中心に数多くの作品を残したパルプ作家で、日本ではジョニー・フレッチャーとサム・C・クラッグのコンビが活躍するシリーズが最も有名でしょうか。こちらは現在でも未訳の作品が…

『ポドロ島』L・P・ハートリー

L. P. Hartley L・P・ハートリーの『ポドロ島』(写真)は「KAWADE MYSTERY」の一冊として刊行されました。 KAWADE MYSTERYは装幀もイラストも可愛いのですが、マイナーな作家が多かったせいか、二年ほどでなくなってしまいました(わずか十一冊刊行された…

『バートルビーと仲間たち』エンリーケ・ビラ=マタス

Bartleby y compañía(2000)Enrique Vila-Matas 僕は以前から、作品を生み出さなくなった芸術家に興味がありました。 形として残さなくなったのか、創造すること自体をやめてしまったのか、はたまた、別の形を選択したのか。 人によって事情は異なるでしょ…