読書感想文(関田涙)

関田 涙(せきた・なみだ)

アメリカ

『ベートーヴェン通りの死んだ鳩』サミュエル・フラー

Mort d'un pigeon Beethovenstrasse(1974)Samuel Fuller 前回、触れたチャールズ・ウィルフォードの『拾った女(Pick-Up)』(1954)は映像化が不可能な小説ですが、サミュエル・フラー監督には同名の邦題を持つ映画があります〔原題は『Pickup on South S…

『炎に消えた名画』チャールズ・ウィルフォード

The Burnt Orange Heresy(1971)Charles Willeford チャールズ・ウィルフォードは「ホーク・モーズリー」シリーズのヒットにより、一九八〇年代に再評価の進んだペーパーバックライターです。 しかし、寧ろそれ以前のノンシリーズにこそ傑作が隠れていたこ…

『悪魔に食われろ青尾蠅』ジョン・フランクリン・バーディン

Devil Take the Blue-Tail Fly(1948)John Franklin Bardin ニューロティックスリラーとサイコスリラーを分類する際は、その作品が作られた年代を基準にするとよいかも知れません。一九四〇年代に流行したのがニューロティックスリラーで、一九六〇年代以降…

『劣等優良児』P・G・ウッドハウス

The Coming of Bill(1919)P. G. Wodehouse 二〇一八年、美智子さまが、皇后での最後の誕生日において「ジーヴスも二、三冊待機しています」とおっしゃられました。 それをきっかけに、突如としてP・G・ウッドハウスブームが巻き起こりました。美智子さま…

『スーパールーキー』ポール・R・ロスワイラー

Super Star!(1983)Paul R. Rothweiler 今年もプロ野球の季節がやってきました。 春先の楽しみは何といってもルーキーの動向です。鳴り物入りで入団したにもかかわらず期待に応えられない選手がいる反面、ドラフト下位で入団した選手が思わぬ活躍をすること…

『ルネサンスへ飛んだ男』マンリー・ウェイド・ウェルマン

Twice in Time(1957)Manly Wade Wellman 人づき合いが苦手な僕にとって、孤独を癒やしてくれる芸術を生み出す作家、音楽家、映画監督、漫画家などは生きてゆく上でなくてはならない存在です。 なかでも、最も感謝しているのは翻訳家かも知れません。何しろ…

『ドロシアの虎』キット・リード

Tiger Rag(1973)Kit Reed(a.k.a. Kit Craig, Shelley Hyde) キット・リードはフェミニストSF作家で、過去三度アザーワイズ賞(旧ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア賞)の候補になっています。 短編に秀でたタイプ(※)とのことですが、我が国で刊行…

『ケンタウロス』ジョン・アップダイク

The Centaur(1963)John Updike ジェイムズ・ジョイスは、二十世紀初頭のダブリンにホメロスの『オデュッセイア』を対応させた『ユリシーズ』を執筆しました。 他方、ジョン・アップダイクは一九四〇年代のペンシルベニア州シリングトン(アップダイクの故…

『ミュータント』ルイス・パジェット

Mutant(1953)Lewis Padgett 昨年末、ヘンリー・カットナーの「ギャロウェイ・ギャラガー」シリーズ全五作を一冊にまとめた『ロボットには尻尾がない』が出版されました。未訳は一編だけだったとはいえ、一九四〇年代に書かれた変なSFを今さら刊行してく…

『地下街の人びと』ジャック・ケルアック

The Subterraneans(1958)Jack Kerouac ジャック・ケルアックは、紛れもなくスピードスターです。 彼の特徴は、思いついたことを一気呵成に書き上げることで、そのスタイルは「即興」と呼ばれました。 出世作の『路上(オン・ザ・ロード)』は元々、紙をつ…

『裸者と死者』ノーマン・メイラー

The Naked and the Dead(1948)Norman Mailer ノーマン・メイラーの『裸者と死者』(写真)は刊行されるや否や大反響を呼び、翌年には日本でも翻訳出版されました(改造社)。 第二次世界大戦を描いたアメリカ文学としては、ジョセフ・ヘラーの『キャッチ=2…

『キラー・オン・ザ・ロード』ジェイムズ・エルロイ

Killer on the Road(originally published as "Silent Terror")(1986)James Ellroy ジェイムズ・エルロイの『キラー・オン・ザ・ロード』(写真)は、「ロイド・ホプキンス」三部作と「LA」四部作の間に出版されたノンシリーズの長編です。 エルロイの…

『スクリーン』バリー・N・マルツバーグ

Screen(1968)Barry N. Malzberg 以前、『決戦! プローズ・ボウル』を取り上げたときは、バリー・N・マルツバーグについてほとんど知識がなく、SF作家であることくらいしか知らなかったのですが(※1)、その後、ちょっと変な本を入手したので紹介した…

『ハロウィーンがやってきた』レイ・ブラッドベリ

The Halloween Tree(1972)Ray Bradbury 意外なことに『ハロウィーンがやってきた』(写真)は、レイ・ブラッドベリが初めて書いた児童向けの長編小説だそうです。 といっても、ブラッドベリは『たんぽぽのお酒』や『何かが道をやってくる』といった作品で…

『月は地獄だ!』ジョン・W・キャンベル

The Moon is Hell!(1950)John W. Campbell ジョン・W・キャンベルはSF作家にして、SF誌の編集長でもあります。実作よりも編集の方で活躍したとのことで、日本でいうと福島正実みたいな感じでしょうか。 最も有名な作品は、映画『遊星よりの物体X』の…

『女になりたい』リタ・メイ・ブラウン

Rubyfruit Jungle(1973)Rita Mae Brown リタ・メイ・ブラウン(※1)は、フェミニズム作家で、公民権運動やLGBTの社会運動にもかかわってきました。テニス選手のマルチナ・ナブラチロワのかつての恋人、ボブ・ディランの「Rita May」(※2)のモデルと…

『黒い黙示録』カール・ジャコビ

Revelations in Black(1947)Carl Richard Jacobi カール・リチャード・ジャコビ(※)は寡作のせいか、日本では単著がひとつしか出ていません。その貴重な一冊が『黒い黙示録』(写真)です。 短編を量産しないタイプの作家(例えば、スタンリイ・エリン)…

『悪魔の収穫祭』トマス・トライオン

Harvest Home(1973)Tom Tryon ホラー小説はほとんど読まないので、偉そうなことはいえませんが、トマス・トライオンの『悪魔の収穫祭』(写真)は伝説級の傑作だと思います。 これが書かれたのは一九七三年。スティーブン・キングが『キャリー』でデビュー…

『タバコ・ロード』アースキン・コールドウェル

Tobacco Road(1932)Erskine Caldwell アースキン・コールドウェルは第二次世界大戦前に人気のあった作家で、戦後は影が薄くなってしまいました。ノーベル賞を受賞し、今なお読まれているウィリアム・フォークナーやジョン・スタインベックなどと比較すると…

『詳注版 月世界旅行』ジュール・ヴェルヌ、ウォルター・ジェイムズ・ミラー

The Annotated Jules Verne: From the Earth to the Moon(1978)Jules Verne, Walter James Miller SFの父ジュール・ヴェルヌの「大砲クラブ」三部作(※1)は、以下の作品から成っています。1 『De la Terre à la Lune』(1865)2 『Autour de la Lune…

『これは小説ではない』デイヴィッド・マークソン

This Is Not a Novel(2001)David Markson デイヴィッド・マークソンは『ウィトゲンシュタインの愛人』で注目された後、「マークソンの四部作(ノートカードカルテット)」と呼ばれる作品群を発表しました。それが以下の四作です。 『Reader's Block Dalkey…

『プリティ・リーグ』サラ・ギルバート

A League of Their Own(1992)Sarah Gilbert『プリティ・リーグ』は一九九二年に公開された映画で、そのノベライズが本書(写真)です。「プリティ・リーグ」という言葉は日本オリジナルで、米国には現実にも虚構にもそのような固有名詞はありません。原題…

『愛の果ての物語』ルイザ・メイ・オルコット

A Long Fatal Love Chase(1995)Louisa May Alcott(as A. M. Barnard) ルイザ・メイ・オルコットは、「若草物語」シリーズや『八人のいとこ』『花ざかりのローズ』など少女小説の作者として知られています。 オルコットの特徴は心温まるエピソードと明る…

『トコ博士の性実験』マルコ・ヴァッシー

Mind Blower(1972)Marco Vassi マルコ・ヴァッシーは、ポルノグラフィを中心に執筆した作家です。といっても、単なる官能小説家ではなく、実験的な作品が多いため、ヘンリー・ミラーと比較されることが多い……と書くと、不吉な予感がする方もいらっしゃるで…

『太った女、やせた女』メアリー・ゲイツキル

Two Girls, Fat and Thin(1991)Mary Gaitskill メアリー・ゲイツキルは少女の頃、「将来は娼婦になる」と宣言して両親を驚かせた(※1)とか。その後、娼婦ではなくストリッパーになり、それ以外にも麻薬の売買、暴力事件、高校退学、家出、精神病院に入院…

『完全版ピーナッツ全集』チャールズ・M・シュルツ

The Complete Peanuts(2004-2016)Charles M. Schulz 二〇二〇年十一月の配本で、チャールズ・M・シュルツの『完全版ピーナッツ全集』全二十五巻+別巻が完結しました。 このブログでは絶版や非売品など普通の書店で入手できない本の感想を書いており、本…

『ボロゴーヴはミムジイ』『御先祖様はアトランティス人』『世界はぼくのもの』ヘンリー・カットナー

Henry Kuttner(a.k.a. Lewis Padgett) ヘンリー・カットナー(※1)は二十近い筆名を用いたことで知られています。そのせいで、知らない作家が登場すると「またカットナーの変名か」と思われたそうです。 筆名のなかには妻であるC・L・ムーアとの合作ペ…

『ぬいぐるみさんとの暮らし方』グレン・ネイプ

The Care and Feeding of Stuffed Animals(1983)Glen Knape 今の若い人は信じられないかも知れませんが、僕の子どもの頃は「男が少女漫画や少女向け小説を読むのは恥ずかしいことだ」という風潮がありました。 そのため、小学生のときから付録つきの少女漫…

『黄金の谷』ジャック・シェーファー

The Pioneers(1954)Jack Schaefer 以前の記事で、『新鋭社ダイヤモンドブックスの「西部小説シリーズ」(※1)は十四巻まで予告されたものの、確認できるのは六冊のみ』と書きましたが、最近になって七冊目を発見しました。 恐らく最後の配本だったであろ…

『夜の森』ジューナ・バーンズ

Nightwood(1936)Djuna Barnes 一九二〇年代のパリは狂騒の時代(Les Années Folles)と呼ばれ、各国から様々なジャンルの芸術家が集まりました。 文学者ではアーネスト・ヘミングウェイやF・スコット・フィッツジェラルドの名が真っ先にあがりますが、女…