読書感想文(関田涙)

関田 涙(せきた・なみだ)

『ミュータント』ルイス・パジェット

Mutant(1953)Lewis Padgett

 昨年末、ヘンリー・カットナーの「ギャロウェイ・ギャラガー」シリーズ全五作を一冊にまとめた『ロボットには尻尾がない』が出版されました。未訳は一編だけだったとはいえ、一九四〇年代に書かれた変なSFを今さら刊行してくれるなんてこの企画に絡んだ人の頭がおかしいとしか思え感謝しかありません。
 カットナーが現代の若者の心に響くかどうかは分かりませんが、おっさんのテンションは確実にあがります。

 というわけで今回は、前回紹介できなかった「ボールディ」シリーズを取り上げます。
 幸い、このシリーズは『ミュータント』(写真)としてまとまっています。プレミアがついておらず、安価で購入できるのも嬉しいところです。

 ボールディ(丸坊主)とは、核戦争で被爆し、体毛がなくなった代わりに超能力(読心力と遠隔精神感応力)を持った人々のことです。ボールディの多くはかつらを被り、超能力をなるべく使わないようにして暮らしていますが、自分たちこそ進化した人類だと考え、普通の人間を駆逐しようとする過激なグループ「パラノイド」や、奇形の狂人らがいます。
 彼らがどう生きたのかを年代記の形でまとめたのが『ミュータント』です。単純な連作ではなく枠物語になっており、外側にいる二百年後の世界の「私」が感応移植された記憶を遡るという構造になっています。

 ミュータントやエスパーが迫害されるSFの先駆としてA・E・ヴァン・ヴォークトの『スラン』があり、同テーマのSFにジョン・ウィンダムの『さなぎ』などがあるものの、『ミュータント』は「人間対ボールディ」の構図を描いているわけではありません。社会に溶け込み、パラノイドと戦い、人類と共存する未来を夢みるボールディの姿は、むしろゼナ・ヘンダースンの「ピープル」に似ている気がします。
 多くのテーマを内蔵した深みのある作品ですが、カットナーにしては笑いの少ない点が評価の分かれるところかも知れません。

笛吹きの子」The Piper’s Son
 エド・バークハルターは人間社会に溶け込むため、細心の注意を払って生活しています。「心のなかを読まれる」と警戒する人間を刺激しないよう、重要なポストには就かず、決闘を申し込まれても巧みに避けてきました。しかし、息子のアルは、選民思想を持ち、人間たちを見下している様子です……。
 ボールディはあからさまに迫害されてはいませんが、何かが起これば攻撃され兼ねない危うい立場にいます。いわば差別される者が、周囲に気を遣って暮らす様が描かれるわけです。
 ところが、爆弾は人間ではなく、身内のなかにありました。息子に代表される新しい世代のボールディ、そして過激なパラノイドがそれです。シリーズの今後の波乱を感じさせる序章といったところです。

三びきのめくらの鼠」Three Blind Mice
 ボールディにしては珍しく肉体を鍛え、狩猟を生業とするデイヴ・バートンは、ある日、スウ・コノートという女性の思考波を捕えます。彼女に三人のパラノイドの存在を聞かされ、メリッサ・カーという別のボールディの助けを借り、三人を倒しますが……。
 正常なボールディとパラノイドの対立の構図が明らかになりますが、ボールディにはもう一派、奇形の狂人たちが存在し、彼らが重要な役目を果たしそうなことも示唆されます。

獅子と一角獣」The Lion and the Unicorn
「野良犬」を名乗るアウトローの集団のなかにリンカーン・コディ(リンク)という青年がいました。彼は自分がボールディであることを知らずにいましたが、バートンに諭され、ボールディたちと暮らし始めます。超能力を維持するためボールディ同士が結婚することがよしとされていましたが、リンクの選択は意外なものでした。
 普通の人類に寄ってゆくつもりであれば超能力はなくなる方がよいのですが、そうなるとパラノイドと戦えなくなります。ボールディの葛藤は、コウモリや中間管理職のそれのようです。

ビロードを着た乞食」Beggars in Velvet
 ボールディは、野良犬、周波帯変換ヘルメットを装着したミュートと手を組んでセコイアという町のパラノイドを抹殺する計画を立てます。しかし、エドの孫であるハリー・バークハルターは、ある女性パラノイドに心を奪われてしまいます。
 ボールディはパラノイドと敵対していますが、最終目的は両者とも同じく、普通の人類を皆殺しにすることなのです。それがパラドックスとして存在してしまうのがボールディの精神的な弱点です。解決する糸口となるのが、リンクと一般人の間に生まれたボールディの子どもたちですが……。
 また、憎むべき敵とはいえ、個人としてのパラノイドに心惹かれることもあるわけです。このように、章が進むごとに事態がより複雑になってくるのが『ミュータント』の魅力のひとつです(新しい設定が次々に追加されて混乱させられるともいえるが……)。

ハンプティ・ダンプティ」Humpty Dumpty
 人類と結婚して、すべてをテレパスにするにはボールディの数が少なすぎるため、人類を無理矢理テレパスに変える感応誘導機が作られます。それが上手くゆかない場合は、非テレパスのみが感染するウイルスを散布する黙示録作戦を実行しなければなりません。
 リンクの子であるジェフ・コディは、ポラメンスという科学者が非テレパスが超能力を得ることのできるウイルスを開発したことを知りますが、パラノイドのリーダーであるジャスパー・ホーンは人類を殲滅することにこだわります。
 展開が段々と荒唐無稽になってきますが、SFアクションではなく、飽くまでボールディの苦悩を描く作品なので、突っ込みは無用です。
 それはともあれ、差別や迫害がなくならないことから分かるとおり、人間とは異質なものを認めることができない生物なのです。そんな彼らの究極の望みは、全人類がひとつに融合されることでしょう。

『ミュータント』浅倉久志訳、ハヤカワSFシリーズ、一九六四

→『ボロゴーヴはミムジイ』『御先祖様はアトランティス人』『世界はぼくのもの』ヘンリー・カットナー