読書感想文(関田涙)

関田 涙(せきた・なみだ)

イングランド

『モンキー・ワイフ』ジョン・コリア

His Monkey Wife: or, Married to a Chimp(1930)John Collier ジョン・コリアといえば、日本においては『炎のなかの絵』や『ジョン・コリア奇談集』などによって、「切れのよい怪奇・幻想の短編を得意とした作家」として認識されているのではないでしょう…

『ポドロ島』L・P・ハートリー

L. P. Hartley L・P・ハートリーの『ポドロ島』(写真)は「KAWADE MYSTERY」の一冊として刊行されました。 KAWADE MYSTERYは装幀もイラストも可愛いのですが、マイナーな作家が多かったせいか、二年ほどでなくなってしまいました(わずか十一冊刊行された…

『残虐行為展覧会』J・G・バラード

The Atrocity Exhibition(1970)J. G. Ballard 一九六〇年代、ニューウェーブと呼ばれる新しいSF小説が生まれました。その代表的な存在がJ・G・バラードです。 彼によると、それまでのSFは狭く、制約された領域で、宇宙や未来を舞台にした単調な形式…

『唇からナイフ』『クウェート大作戦』ピーター・オドンネル

Modesty Blaise(1965)/Sabre-Tooth(1966)Peter O'Donnell ピーター・オドンネルの「モデスティ・ブレイズ」シリーズは、小説より先に漫画が刊行され、人気を博しました(作画は、ジム・ホールダウェイ。彼の死後は、エンリケ・バディア・ロメロに交代し…

『山彦の家』T・F・ポイス

T. F. Powys T・F・ポイスの『山彦の家』(写真)は、昭和十年(一九三五年)に『ポイス短篇選集』として健文社より刊行された短編集の再編集版です。どちらも収録作品は同じです(全二十八編)。『山彦の家』は、『The House With the Echo』『Fables』『…

『失なわれた虹とバラと』ネヴィル・シュート

The Rainbow and the Rose(1958)Nevil Shute 講談社の「ウイークエンド・ブックス」は、一九六六年から一九七〇年まで刊行された叢書です。「“面白さ”と“たのしさ”を世界から集めた」というよく分からないキャッチコピーが書かれています。要するに「週末…

『さまよえる宇宙船』スティーヴ・ジャクソン

Starship Traveller(1984)Steve Jackson 先日、スティーヴ・ジャクソン(※)とイアン・リビングストンの『火吹山の魔法使い』を何十年かぶりに遊び返しました。 サイコロと紙と鉛筆を用意して、数値を加減したり、チャートをメモしたり、マッピングしたり…

『未来惑星ザルドス』ジョン・ブアマン

Zardoz(1974)John Boorman, Bill Stair『未来惑星ザルドス』は、『007/ダイヤモンドは永遠に』でジェイムズ・ボンド役を降板したショーン・コネリーが出演した低予算のSF映画です。 元々はバート・レイノルズが主演する予定だったのが、病気のため、…

『流砂』ヴィクトリア・ホルト

The Shivering Sands(1969)Victoria Holt(a.k.a. Eleanor Alice Burford) 以前、古い角川文庫を探してブックオフ巡りをしていると書きましたが、最近はそれも余り楽しくなくなってしまいました。 そもそもブックオフは新古書店のため、「比較的最近に刊…

『ナイトメアキャッスル』ピーター・ダービル=エヴァンス

Beneath Nightmare Castle(1987)Peter Darvill-Evans ゲームブックは、一九八〇年代に大流行しました。 日本では、社会思想社より「ファイティングファンタジー」が「アドベンチャーゲームブック」として、創元推理文庫より「ソーサリー」が「スーパーアド…

『劣等優良児』P・G・ウッドハウス

The Coming of Bill(1919)P. G. Wodehouse 二〇一八年、美智子さまが、皇后での最後の誕生日において「ジーヴスも二、三冊待機しています」とおっしゃられました。 それをきっかけに、突如としてP・G・ウッドハウスブームが巻き起こりました。美智子さま…

『バリー・リンドン』ウィリアム・メイクピース・サッカレー

The Luck of Barry Lyndon(1844)William Makepeace Thackeray 産業革命の起こったヴィクトリア朝(一八三七〜一九〇一)は、イギリスの黄金時代といわれます。また、この時代は芸術が大きく花開いたことでも知られています。 文学においても、今では「文豪…

『イヴの物語』ペネロピ・ファーマー

Eve: Her Story(1988)Penelope Farmer トパーズプレスの「シリーズ百年の物語」は六冊しか刊行されませんでした。 ラインナップをみると、ミステリー、スリラー、SF、ファンタジーなので、ハヤカワ文庫や創元文庫に近い線を狙ったのかも知れません。実際…

『おっぱいとトラクター』マリーナ・レヴィツカ

A Short History of Tractors in Ukrainian(2005)Marina Lewycka マリーナ・レヴィツカの処女作『おっぱいとトラクター』(写真)は、ボランジェ・エブリマン・ウッドハウス賞やウェイバートン・グッドリードアワードを受賞しています。 ウッドハウス賞を…

『アリスの教母さま』『アーモンドの樹』『まぼろしの顔』ウォルター・デ・ラ・メア

Walter de la Mare 詩人であり児童文学者でもあるウォルター・デ・ラ・メアの童話や絵本は、幻想的な作風のためか大人にも人気があります。 岩波少年文庫や福音館文庫といった児童文庫から刊行されているデ・ラ・メアはロングセラーなので、今でも安価で購入…

『ヴァテック』ウィリアム・ベックフォード

Vathek(1786)William Beckford ウィリアム・ベックフォードの『ヴァテック』には、様々な翻訳本があります。 古くは春陽堂の世界名作文庫が矢野目源一訳で刊行し、後に生田耕作の補訳で奢灞都館からも出版されています。ほかにも、小川和夫による『異端者…

『審判』バリー・コリンズ

Judgement(1974)Barry Collins いきなりですが、物語のさわりを記します。 第二次世界大戦中、ドイツ軍は、南ポーランドにある修道院の地下室に、ロシア軍の捕虜七人を素っ裸で閉じ込め、水も食料も与えず置き去りにします。 二か月後、ふたりの兵士が生き…

『海ふかく』ウィリアム・ホープ・ホジスン

Deep Waters(1967)William Hope Hodgson『海ふかく』(写真)は、アーカムハウスから刊行されたウィリアム・ホープ・ホジスンの短編集です。 ホジスンは第一次世界大戦で戦死したので、死後五十年後の出版ということになります。一時は忘れられた作家にな…

『恋を覗く少年』L・P・ハートリー

The Go-Between(1953)L. P. Hartley L・P・ハートリーは、近年の日本において「ポドロ島」のイメージが強いため、怪奇小説家だと思っている方が多いかも知れません。けれども、一般的には『恋を覗く少年(恋)』(写真)(※1)で知られる作家です。これ…

『積みすぎた箱舟』ジェラルド・ダレル

The Overloaded Ark(1953)Gerald Durrell ナチュラリストのジェラルド・ダレルは、一九四七年から一九四八年の六か月間、友人の鳥類学者ジョン・イーランドとともに英領カメルーンに滞在しました。目的のひとつはアフリカそのもの、そしてもうひとつが密林…

『最後の晩餐の作り方』ジョン・ランチェスター

The Debt to Pleasure(1996)John Lanchester 英国の新聞「オブザーバー」でレストラン批評などの記事を書いていたジョン・ランチェスターの処女長編が『最後の晩餐の作り方』(写真)です。 社会経験が豊富な新人作家の処女作は、内容よりも技巧で勝負する…

『真夜中の子供たち』サルマン・ラシュディ

Midnight's Children(1981)Salman Rushdie サルマン・ラシュディの『真夜中の子供たち』(写真)は「ブッカー賞のなかのブッカー賞(Booker of Bookers)」に選ばれた名作にもかかわらず、日本ではほとんど評判にならず、文庫化もされず、現在、品切れ中で…

『未来少女アリス』ジェフ・ヌーン

Automated Alice(1996)Jeff Noon 二〇〇三年、ハヤカワ文庫FTの二十五周年を記念して「プラチナ・ファンタジイ」という叢書が作られました。 その後、「プラチナ・ファンタジイ」は、なぜか文庫から単行本に移り、二〇〇九年に消滅した模様です。 当時、…

『シンドバッドの海へ』ティム・セヴェリン

The Sindbad Voyage(1983)Tim Severin ジョン・バースの『船乗りサムボディ最後の船旅』の主人公サイモン・ウィリアム・ベーラーは、船に同乗させて欲しいとティム・セヴェリンに交渉するものの断られ、やむなく自ら船を出すことになります。その結果、『…

『黒の召喚者』ブライアン・ラムレイ

The Caller of the Black(1971)Brian Lumley ブライアン・ラムレイは、H・P・ラヴクラフトが亡くなった年(死の九か月後)に生まれた作家です。 生まれ変わりかどうかは知りませんが、彼もクトゥルフ神話に魅せられ、後に書き手となったラヴクラフティア…

『心霊博士ジョン・サイレンスの事件簿』アルジャーノン・ブラックウッド

John Silence, Physician Extraordinary(1908)Algernon Blackwood 前回の『幽霊狩人カーナッキの事件簿』に続き、オカルト探偵シリーズである、アルジャーノン・ブラックウッドの『心霊博士ジョン・サイレンスの事件簿』(写真)を取り上げます(※)。 カ…

『幽霊狩人カーナッキの事件簿』ウィリアム・ホープ・ホジスン

Carnacki, The Ghost-Finder(1913)William Hope Hodgson オカルト探偵といえば、ブラム・ストーカーのエイブラハム・ヴァン・ヘルシング、シェリダン・レ・ファニュのマルチン・ヘッセリウス、E&H・ヘロンのフラクスマン・ロウ、ロバート・E・ハワード…

『魚雷をつぶせ』ジョルジュ・ランジュラン

Torpillez la torpille(1964)George Langelaan 早川書房の叢書「異色作家短篇集」で個人短編集が刊行された十七人の作家の、それ以外の書籍を取り上げようと思い立ちましたが、最も選択肢が少ないのがジョルジュ・ランジュランです(※)。 何しろ『蠅』以…

『笑ガス』P・G・ウッドハウス

Laughing Gas(1936)P. G. Wodehouse このブログで、P・G・ウッドハウスを取り上げるのは三回目となります。 ウッドハウスは二〇〇五年に突如、数多くの書籍が翻訳されました。あれよあれよという間に本棚がウッドハウスで埋まり、欣喜雀躍しました。 し…

『シンデレラの呪われた城』ダフネ・デュ・モーリア

Rebecca(1938)Daphne du Maurier「はて。ダフネ・デュ・モーリアに、そんなタイトルの作品があったっけ?」と思われた方もいらっしゃることでしょう。 しかし、ちょっと考えれば、答えは導き出せます。ポプラ社文庫(現:ポプラポケット文庫)の可愛らしい…