読書感想文(関田涙)

関田 涙(せきた・なみだ)

『未来惑星ザルドス』ジョン・ブアマン

Zardoz(1974)John Boorman, Bill Stair

未来惑星ザルドス』は、『007/ダイヤモンドは永遠に』でジェイムズ・ボンド役を降板したショーン・コネリーが出演した低予算のSF映画です。
 元々はバート・レイノルズが主演する予定だったのが、病気のため、コネリーに代わったそうです。
 それがよかったのか、悪かったのか……。「ポニーテール、赤いおむつ、膝まである革のブーツ、口ひげ、胸毛もじゃもじゃ」というコネリーのおかしな格好をみると複雑な気持ちになります。

 監督のジョン・ブアマンは小説も書いていて、映画公開時には邦訳もされました(写真)。
 当時のことはよく分かりませんが、映画も小説もそれほど話題にならなかったのではないでしょうか。勿論、カルト的人気というレベルにも達していませんでした。
 カルト映画になれなかったのは、思ったよりまとも(真面目)な内容だったからと思われますが、それについては後述します。

「まえがき」によると、ブアマンは、一九七二年に『未来惑星ザルドス』を小説として書き終えていたそうです。それを徐々にシナリオに近づけ、映画の撮影後は、逆に小説の形に戻していったとのこと。
 とはいえ、ブアマンは作家ではないので、色々と問題があるのですが、それについても後で述べるとして、まずはあらすじから。

 西暦二二九三年、撲滅戦士のゼドは、神ザルドスの頭部を象った石像に乗り、永遠人の住むヴォーテクスに侵入します。ゼドたちは、永遠人のための穀物を作らされており、それに疑問を感じたためです。
 しかし、ゼドはすぐに永遠人に囚われ、三週間後に処刑されることになってしまいます。そこでゼドは、死にたいという欲求を持つ永遠人を従え、反乱を起こしますが……。

 パスクァーレ・フェスタ・カンパニーレサミュエル・フラーのように小説も書く映画監督とは異なり、ブアマンは出版に値する小説を書くレベルには達していないと思います。
 一応、ビル・ステアという人が協力したようですが、分かりにくさはいささかも減じていません。

 一人称と三人称が無邪気に混じるのはまあいいとして、用語が曖昧なのが困ります。例えば、「野蛮人」は、ゼドたちのことを指したり、さらにその下の人々を指したりします。SFにおいて、特殊な用語はきちんと定義しないと読者が混乱してしまいます。そもそもタイトルの「ザルドス」自体、何を示すのか、明確には書かれていません。同様に「無感覚人」「離反人」というのもよく分からない……。
 また、これは訳者の問題ですが、「Zardoz」はL・フランク・ボームの『オズの魔法使い(The Wonderful Wizard of Oz)』から取られているのに、何の説明もなく「オズ 法」とだけ訳してあります。これでは、よほど勘のよい人でないとチンプンカンプンでしょう。

 情景描写が極めて少ないのも困った点です。
 映像化が前提なのでしょうが、未知の惑星におけるSF小説でそれをやられると、どんな世界なのか想像することができず、途方に暮れてしまいます。

 そうした欠点をくぐり抜けても、小説を読むべき理由は、映画では描かれなかった(あるいは僕が読み取れなかっただけ?)設定が小説にあるからです。
 それは「永遠人は、なぜ永遠の命を獲得したか」なのですが、まずは順を追って説明します。

 永遠人は永遠の命を手に入れただけでなく、ゼドたちにザルドスという神の存在を信じ込ませ、奴隷のように使役してきたことが分かります。
 オズの偉大な魔法使いの正体が冴えない小男だったように、ザルドスも神などではなかったのです。

 一方で、永遠人たちは、眠ることも、生殖行為もなく、退屈しきっています。おまけに、自殺しても永遠堂に、勝手に再生されてしまいます。
 人間らしく生きることを望む者にとって、ゼドは永遠堂を破壊してくれる救世主となります。

 そもそも永遠人が不死を獲得した理由は、文明崩壊の危機に陥った人類が、惑星という巨大な箱舟で、長い時間をかけて恒星間航行をし、新たな星に辿り着こうとしているからです。
 このことは映画では説明されていなかったと思います。

 さらに、ゼドは永遠人によって作られた人間で、彼らを滅ぼすことは予め遺伝子に組み込まれていたのです。要するに、彼は袋小路に陥ったときの自爆装置というわけです。
 やはり生物にとって不死は不自然であるので、その仕組みを破壊して新しい命を育んでゆこうという結末に至ります。

 わけが分からないまま読み進んでみると、意外に真面目なところに着地してしまったというのが正直な感想です。その癖、リアリティがなさすぎるので、ちっとも心に響きません。
 どうせ荒唐無稽なのであれば、もっと笑える方へ向かって欲しかったと思います。そうすれば、同年に公開されたジョン・カーペンターの『ダーク・スター』のように多くのファンを獲得できたかも知れませんね。

未来惑星ザルドス』筒井正明訳、立風書房、一九七四