読書感想文(関田涙)

関田 涙(せきた・なみだ)

ドイツ

『異郷の闇』『殺るときは殺る』ヤーコプ・アルユーニ

Happy Birthday, Türke!(1985)/Ein Mann, ein Mord(1991)Jakob Arjouni ヤーコプ・アルユーニは、ドイツのミステリー作家で、トルコ人探偵カヤンカヤを主人公としたシリーズで知られています。 トルコ人を主役にしたせいか、アルユーニは長い間、「トル…

『鉛の夜』ハンス・ヘニー・ヤーン

Die Nacht aus Blei(1956)Hans Henny Jahnn ハンス・ヘニー・ヤーンはドイツの作家ですが、第一次世界大戦の際は入隊を避けるためノルウェーに逃げ、ナチス政権が同性愛者を迫害すると今度はデンマーク領のボーンホルム島に逃れました。 バイセクシャルの…

『ピッチサイドの男』トーマス・ブルスィヒ

Leben bis Männer(2001)Thomas Brussig トーマス・ブルスィヒはドイツ民主共和国(東ドイツ)出身の作家です。 ベルリンの壁崩壊前後の東ドイツをテーマにすることが多いものの、アンナ・ゼーガースの『第七の十字架』などと異なり、ライトな作風が特徴で…

『猫橋』ヘルマン・ズーデルマン

Der Katzensteg(1890)Hermann Sudermann ヘルマン・ズーデルマンの『猫橋』は、明治三〇年頃に戸張竹風による抄訳『賣国奴』として日本に初めて紹介されました。 田山花袋も『カッツェンステッヒ』の邦題で翻訳したそうですが、まとまった形では発表されて…

『レクトロ物語』ライナー・チムニク

Geschichten vom Lektro(1962)/Neue Geschichten vom Lektro(1964)Reiner Zimnik 美術学校出身のライナー・チムニクは「イラストも自分で描く児童文学者」というより「文章も書く画家」といった方がよいかも知れません。実際、文よりも絵の比率の方が高…

『牡猫ムルの人生観』E・T・A・ホフマン

Lebens-Ansichten des Katers Murr nebst fragmentarischer Biographie des Kapellmeisters Johannes Kreisler in zufälligen Makulaturblättern(1819, 1821)E. T. A. Hoffmann E・T・A・ホフマンの「A」は、モーツァルトと同じ「アマデウス」です。そ…

『ピーター=マックスの童話』ピーター・マックス

The Peter Max Land of Red, Land of Yellow, Land of Blue(1970)Peter Max サイケデリック(Psychedelia)とは、幻覚剤(LSDやマジックマッシュルームなど)によって齎される感覚をモチーフにしたサブカルチャー(アート、音楽、ファッションなど)で…

『二人の女と毒殺事件』アルフレート・デーブリーン

Die beiden Freundinnen und ihr Giftmord(1924)Alfred Döblin アルフレート・デーブリーンは、最近になって叙事詩『マナス』や短編集『たんぽぽ殺し』などが刊行されるなど、日本ではちょっとしたブームになっています。しかし、何をおいても読んでおきた…

『ランゲルハンス島航海記』ノイロニムス・ノドゥルス・フリーゼル

Paralektikon - welches ist Abriß & Versuch einer umständlichen Historie von der Anlage und Umwelt der Langerhans'schen Insulae(1984)Neuronimus Nodulus Friesel「読書感想文」といいつつ、このブログは、コンプのためのリスト作りとか、中身の分…

『ケストナーの「ほらふき男爵」』エーリッヒ・ケストナー

Erich Kästner erzählt(1965)Erich Kästner ほらふき男爵ことカール・フリードリヒ・ヒエロニュムス・フォン・ミュンヒハウゼンは、十八世紀のプロイセンに実在した貴族です。 ミュンヒハウゼン男爵は、ほら話が得意で、館に招いた客たちに荒唐無稽な冒険…

『象は世界最大の昆虫である』ヨハン・ゲオルク・アウグスト・ガレッティ

Das größte Insekt ist der Elefant(1965)Johann Georg August Galletti ヨハン・ゲオルク・アウグスト・ガレッティは、十八世紀生まれのドイツの歴史学者で、四十もの著作があるそうです。しかし、今日、それらは完全に忘れ去られ、死後に刊行された失言…

『気球乗りジャノッツォ』ジャン・パウル

Des Luftschiffers Giannozzo Seebuch(1801)Jean Paul ジャン・パウルの代表作『巨人』は、四巻に分けて出版されましたが、読者サービスとして各巻に付録がつけられたそうです。で、第二巻の付録が、この『気球乗りジャノッツォ』(写真)です。 岩波文庫…

『第七の十字架』アンナ・ゼーガース

Das siebte Kreuz(1942)Anna Seghers 絶版本の感想を書いていて、改めて感じるのは「復刊される本が案外と多い」ってことです。このブログで取り上げた書籍も、かなりの数が復刊されたり、久しぶりに重版がかかったりしています。「海外文学は売れない」と…

『カタリーナの失われた名誉』ハインリヒ・ベル

Die verlorene Ehre der Katharina Blum oder Wie Gewalt entstehen und wohin sie führen kann(1974)Heinrich Böll『カタリーナの失われた名誉』(写真)はドイツの作家ハインリヒ・ベルのベストセラーで、映画化もされました(映画の邦題は『カタリーナ…

『愉しき放浪児』ヨーゼフ・フォン・アイヒェンドルフ

Aus dem Leben eines Taugenichts(1823)Joseph von Eichendorff 古典ですので、様々な出版社から発行されていますが、安価で入手しやすいのは岩波文庫版です。一九三八年に発行され、一九五二年に改訳され、一九九一年に復刊されています(※1)。現在は品…

『御者のからだの影/消点』ペーター・ヴァイス

Der Schatten des Körpers des Kutschers(1952)/Fluchtpunkt(1961)Peter Weiss 僕は素人なので、つい話が俗っぽくなりますが、ペーター・ヴァイスといって真っ先に思い出すのは、やたらと長いタイトルの本があるってことです。『サド侯爵の演出のもとに…