注:二〇一七年十月十二日に書いた記事に、新しい長編を随時追加しています。そのたびに日付を更新します。
僕は昔から、他人とかかわり合うのが苦手です。
実生活では、生きてゆくためにやむを得ずある程度のつき合いをしていますが、インターネット内では一切の交わりをやめてしまいました(昔は少しやっていた)。
ブログ、ツイッター、インスタグラムで様々なボタンを押してくださる方がいらっしゃいますが、こちらは何もお返しできません。アクセス数やフォロワー数を増やすことや、読書を通じてコミュニケーションを取ることが目的ではなく、本を探している人の役に立ちたいと考えているだけですので、ご理解いただけると幸いです。
そんな人間がいうのも何ですけれど、つながりはとても大切だと思います。
何の話かというと、勿論、読書についてです。
海外文学(翻訳小説)の愛好者を増やすには、若い方にその魅力を訴えることが重要なのは論を俟ちません。
ですから、「これから海外文学を読んでみたいと思っているけど、何を選んでよいか分からない」方のために「初心者におすすめする海外文学」のような記事を書きたいとずっと考えていました。
ところが、何を基準に、どんなジャンルから、何を選ぶのかは非常に難しい。
イメージとしては「ストーリー性があって、技巧に凝りすぎておらず、外国の文化や歴史が学べる」ようなものが相応しそうなのですが、そればかりを勧めるのはどうかという気もするのです。
はっきりいってしまうと、それらは映画や漫画でも代替可能です。例えば、衝撃的な結末を求め続けた人は、あるとき、「待てよ。これって小説じゃなくてもよくね」と気づき、もっと手軽に楽しめる映画などに軸足を移してしまうかも知れません。
それもあって、かつては「ジェイムズ・ジョイスかヘンリー・ジェイムズから始めるべき」と乱暴なことを書きましたが、さすがにそれも無茶な話で、長い間、どうしようかと頭を痛めていました。
で、思いついたのは「適当な本から始めて、次にその本と関連のあるものを選び、それをずっと繰り返したらどうか」というものです。
つまり、本の内容について云々するのではなく、「本を選ぶ楽しみ」「世界が広がる楽しみ」を若い方に感じてもらおうと思ったわけです。
……などと勿体ぶって書かなくとも、大抵の人はそんな風に、小さな手掛かりを元に未知の世界へ踏み込んでゆくのではないでしょうか。
というわけで、以下の流れは、ひとつのシミュレーションと思ってください。
読みやすく、入手しやすい名作から始めて、スリップストリーム、エンターテインメントなどジャンルを超えて自由に作品を選んでゆきたいと思います。
勿論、この流れに沿う必要など全くありません。読んでみたいと感じた本があったらまずは試してみて、その後は自分のルールで書物の森を探索されるとよろしいかと存じます。
僕の方は、終着点を決めず、ときどき続きを書き足してゆく予定です。
1 『トム・ソーヤーの冒険』マーク・トウェイン
The Adventures of Tom Sawyer(1876)Mark Twain
何度読み返したか分からないくらい好きな作品からスタートします。続編の『ハックルベリー・フィンの冒険』の方が評価が高いのですが、僕はこちらの方がお気に入り。少年時代の冒険は、やはり近い年齢の仲間がいてこそという気がするからです。『ハックルベリー・フィンの冒険』でも、トムが現れてからの方がワクワクします(トムは不要という意見もあるが……)。
→『ちょっと面白い話』『また・ちょっと面白い話』マーク・トウェイン
→『マーク・トウェインのバーレスク風自叙伝』マーク・トウェイン
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2 『ソロモン王の洞窟』H・ライダー・ハガード
King Solomon's Mines(1885)H. Rider Haggard
『トム・ソーヤーの冒険』では、インジャン・ジョーが隠れた洞窟(Mark Twain Cave、元々はMcDowell's Caveといった)が印象的です。そして、洞窟といえば何といっても『ソロモン王の洞窟』でしょう(こちらはCaveではなく、Mine)。アラン・クォーターメインというキャラクターを生み出した冒険小説の傑作で、今読んでもそのスピード感に痺れること請け合いです。
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3 『マイケル・K』J・M・クッツェー
Life & Times of Michael K(1983)J. M. Coetzee
クォーターメインは南アフリカのダーバンからスリマン山脈を超えてゆきましたが、カラードで口唇口蓋裂の青年マイケル・Kは、手押し車に病気の母親を乗せ、ケープタウンから農場を目指して旅立ちます。あらゆる暴力を受け止めるために生み出されたかのような主人公は、一見何もかも異様に思えますが、一方で人間らしく生きるとはどういうことか教えてくれる貴重な存在でもあります。
→『石の女』J・M・クッツェー
→『敵あるいはフォー』J・M・クッツェー
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4 『オブローモフ』イワン・ゴンチャロフ
Обломов(1859)Иван Aлeксандрович Гончаров
マイケル・Kは食物を摂取せず痩せ衰えてゆきました。タイプは違えど、オブローモフも無気力では負けていません。なおかつ彼は、これ以上なく清廉な人物でもあります。詳しくはこちら。
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5 『エマ』ジェイン・オースティン
Emma(1816)Jane Austen
読んでいて心配になるくらい弱々しいといえば、エマの父親も相当なものです。それはともかく、オースティンのヒロインのなかでは、エマが一番好き。『分別と多感』のマリアンは激しすぎるし、『高慢と偏見』のエリザベスは明るすぎるし、『マンスフィールド・パーク』のファニーは内気すぎるし、『ノーサンガー・アビー』のキャサリンは平凡すぎるし、『説得』のアンは地味すぎます。そんななかで、エマはすべてにおいてちょうどよいんですよね……って、これだけ違うタイプの主人公を書き分けたオースティンはやっぱすげーな。
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6 『よしきた、ジーヴス』P・G・ウッドハウス
Right Ho, Jeeves(1934)P. G. Wodehouse
エマの苗字はウッドハウス(Woodhouse)。といえば、英国が生んだ、もうひとりのラブコメディの大家P・G・ウッドハウスが思い浮かびます。取り敢えず一冊読んでみようという方には、彼の代表作である「ジーヴス」シリーズのなかでも最高傑作との声が高い『よしきた、ジーヴス』をお勧めします(個人的には『ウースター家の掟』がベスト)。短編のスピーディな展開もよいのですが、難問を溜めに溜めて最後にジーヴスが一気に解決するという本作の爽快感は格別です。
→「ゴルフ」シリーズ P・G・ウッドハウス
→『ヒヨコ天国』P・G・ウッドハウス
→『劣等優良児』P・G・ウッドハウス
→『笑ガス』P・G・ウッドハウス
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7 『八十日間世界一周』ジュール・ヴェルヌ
Le Tour du monde en quatre-vingts jours(1872)Jules Verne
正確にいうと、ジーヴスは執事(Butler)ではなく、従僕(Valet)です〔本人は、紳士の身の回りの世話をする紳士(Gentleman's Personal Gentleman)を名乗っている〕。ほかのフィクションをみてみると、カズオ・イシグロの『日の名残り』のスティーブンスは執事で、『八十日間世界一周』のジャン・パスパルトゥーは従僕となります。パスパルトゥーの主人フィリアス・フォッグは時間にやたらと厳しいのですが、そんな性格と裏腹に、彼の冒険は熱く激しい。
→『氷のスフィンクス』ジュール・ヴェルヌ
→『詳注版 月世界旅行』ジュール・ヴェルヌ、ウォルター・ジェイムズ・ミラー
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8 『ファウスト』ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ
Faust(1808, 1833)Johann Wolfgang von Goethe
フォッグは、クラブの仲間と八十日で世界一周をする賭けをしましたが、メフィストフェレスは、ファウスト博士を誘惑できるか、神と賭けをします。このレベルの古典は、さわりを知っていても、実際に読んでみることで新たな発見があるものです。
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9 『プークが丘の妖精パック』ラドヤード・キプリング
Puck of Pook's Hill(1906)Rudyard Kipling
『ファウスト第一部』ヴァルプルギスの夜の場面で登場する妖精パックは、ウィリアム・シェイクスピアの『真夏の夜の夢』からきているそうですけれど、キプリングもパックを狂言回しに使った子ども向けの歴史ファンタジーを書いています。優れた児童文学と取るか、植民地主義的と取るかは読者次第ですが、いずれにしても読んでおいて損のない作品であることは確かです。『Rewards and Fairies』という続編もあります。
→『ジャングル・ブック』『続ジャングル・ブック』ラドヤード・キプリング
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10 『10 1/2章で書かれた世界の歴史』ジュリアン・バーンズ
A History of the World in 10½ Chapters(1989)Julian Barnes
様々な手法を用いて書かれた世界史のパロディ。例えば、ノアの方舟について語るのは、妖精パックどころか、密航者であるキクイムシです。十と半分の章は、繰り返し、重なり合い、反響し、大きな流れを作ってゆきます。これはジョン・バースの短編集『びっくりハウスの迷子』にも似た方法ではないでしょうか。
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11 『高い城の男』フィリップ・K・ディック
The Man in the High Castle(1962)Philip K. Dick
歴史を大きく変えてしまうと「歴史改変SF」などと呼ばれてしまいます。主流文学を書きたかったディックは、この長編をSFと呼んでもらいたくなかったのでしょうね。第二次世界大戦で勝利したドイツが日本に対して「たんぽぽ作戦(核攻撃)」を計画するものの、それを実行するシーンを描かずに終えたところにディックの矜持を感じます。
→『ニックとグリマング』フィリップ・K・ディック
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12 『迷宮一〇〇〇』ヤン・ヴァイス
Dům o tisíci patrech(1929)Jan Weiss
『高い城の男』のホーソーン・アベンゼンは、ジュリアナが会ったときには既に高い城には住んでいませんでした。一方、『迷宮一〇〇〇』は、千階建てのミューラー館が舞台です。詳しくはこちら。
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13 『心の旅路』ジェイムズ・ヒルトン
Random Harvest(1941)James Hilton
『迷宮一〇〇〇』の探偵は記憶をなくして目覚めましたが、『心の旅路』の主人公はさらに凄い。第一次世界大戦で砲撃を受け、記憶を喪失し別人として生活します。しかし、その後、また事故に遭って、今度は元の記憶が戻り、逆に別人として暮らしていた記憶がなくなってしまいます〔コーネル・ウールリッチ(ウィリアム・アイリッシュ)の『黒いカーテン』(1941)と同じパターン〕。ご都合主義といってはいけません。これによって感動的な物語が生まれるのですから。
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14 『第二の顔』マルセル・エイメ
La Belle image(1941)Marcel Aymé
冴えない中年男のラウル・セリュジェがなくしたものは記憶ではなく、自分の顔でした。代わりに彼はハンサムな顔を手に入れますが、だからといって幸福になれるわけではありません。それどころか、元の顔に戻った後も様々な問題やわだかまりが残ります。
→『おにごっこ物語』『もう一つのおにごっこ物語』マルセル・エイメ
→『名前のない通り』マルセル・エイメ
→『マルタン君物語』マルセル・エイメ
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15 『生きていたパスカル』ルイジ・ピランデルロ
Il Fu Mattia Pascal(1904)Luigi Pirandello
間違って死んだことにされたパスカルは、別人として生きることにします。詳しくはこちら。
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16 『ブラス・クーバスの死後の回想』マシャード・ジ・アシス
Memórias Póstumas de Brás Cubas(1881)Machado de Assis
ブラス・クーバスは本当に死んでしまってから、回想録(単なる不倫の話)を書きます。死によってあらゆる束縛から自由になったことが彼を執筆へと向かわせたのです。
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17 『ボヴァリー夫人』ギュスターヴ・フローベール
Madame Bovary(1857)Gustave Flaubert
不倫を扱った文学においてはレフ・トルストイの『アンナ・カレーニナ』と双璧をなす傑作です。エンマではなく、シャルルに感情移入すると、また違ったものがみえてきます。
→『聖アントワヌの誘惑』ギュスターヴ・フローベール
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18 『マノン・レスコー』アベ・プレヴォ
Manon Lescaut(1731)Antoine François Prévost
男を破滅させる悪女というとマノン・レスコーを思い浮かべる人が多いと思います。しかし、実際読んでみれば、真の愛を求めたマノンの純粋さに驚かれることでしょう。
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19 『酔いどれ草の仲買人』ジョン・バース
The Sot-Weed Factor(1960)John Barth
マノンとシュヴァリエはアメリカへ向かいますが、同じ頃、メリーランドに渡ったのが桂冠詩人を自称するエベニーザー・クックでした。バースは、クックという実在の人物を使って、とんでもない物語を作り上げました。凄まじいボリュームですが、間違いなく読む価値はあります。
→『びっくりハウスの迷子』ジョン・バース
→『船乗りサムボディ最後の船旅』ジョン・バース
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20 『老いぼれグリンゴ』カルロス・フエンテス
Gringo viejo(1985)Carlos Fuentes
クックと逆に、米国を出てメキシコに向かったのが辛辣なジャーナリストのアンブローズ・ビアスです。彼の失踪は様々な虚構の題材となっていますが、きわめつけはこの小説でしょう。しかし、ビアスの謎云々よりも、フエンテスがアメリカ人の主人公を通してメキシコ革命や米墨関係を描いたことに意味があります。
→『脱皮』カルロス・フエンテス
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21 『失踪者』フランツ・カフカ
Der Verschollene(1912-1914)Franz Kafka
ビアスとは反対に、ドイツからアメリカにやってきたのが十七歳の少年カール・ロスマンです。この未完の小説は長い間『アメリカ』というタイトルで知られていました。また、遺稿を編纂したマックス・ブロートによって一部の草稿が無視されました。つまり、カールのみならず、タイトルも、小説自体も失踪していた不思議な作品です。
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22 『トリストラム・シャンディ』ロレンス・スターン
The Life and Opinions of Tristram Shandy, Gentleman(1760-1767)Laurence Sterne
カフカの長編はほとんど未完ですが、スターンの『トリストラム・シャンディ』と『センチメンタル・ジャーニー』も完結していません。しかし、四十代半ばの田舎牧師を一躍有名にしたどころか、その後何百年も読み継がれることになる天下の奇書にとっては、結末など無用です。
→『センチメンタル・ジャーニー』ロレンス・スターン
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23 『アフリカの印象』レーモン・ルーセル
Impressions d'Afrique(1910)Raymond Roussel
金持ちが自費出版したことで、生前ほぼ無視された奇想小説は、特殊な創作方法によって極めて規則正しく書かれていました。ルーセル自身、あの世にゆくまで理解されないと覚悟していたようです。
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24 『ブッシュ・オブ・ゴースツ』エイモス・チュツオーラ
My Life in the Bush of Ghosts(1954)Amos Tutuola
アフリカの奇想というと『やし酒飲み』を思い浮かべると思いますが、個人的には『ブッシュ・オブ・ゴースツ』の方が好きです。少年が七歳から二十四年間もブッシュのなかで、ひたすら酷い目に遭い続けます。ナイジェリア版のビルドゥングスロマンといえるかしらん。
→『文無し男と絶叫女と罵り男の物語』エイモス・チュツオーラ
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25 『かくも長き不在』マルグリット・デュラス、ジェラール・ジャルロ
Une aussi longue absence(1961)Marguerite Duras, Gérard Jarlot
同名映画の脚本です。パリでカフェを営むテレーズの前に現れた記憶をなくした浮浪者は、ゲシュタポに捕まり行方不明になった夫にそっくりでした。『ブッシュ・オブ・ゴースト』ほどではないとはいえ、夫の不在期間は十六年と、気の遠くなる時間が流れています。不当逮捕、記憶喪失、頭の傷など設定はベタですが、テレーズと男の間にはデュラスらしい濃密な空気が漂っています。
→『ヴィオルヌの犯罪』マルグリット・デュラス
→『破壊しに、と彼女は言う』マルグリット・デュラス
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26 『遠い水平線』アントニオ・タブッキ
Il filo dell'orizzonte(1986)Antonio Tabucchi
この小説で身元不明なのは、カルロ・ノボルディ(英語にするとNobody)と名乗る学生らしき青年の遺体です。死体置場の番人であるスピーノは、男の正体を執拗に追い求め……。究極の「自分探し」といえますが、「自分探し」と書くと途端に安っぽく感じられるのはなぜでしょう。
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27 『アメリカ鉄仮面』アルジス・バドリス
Who?(1958)Algis Budrys
事故に遭ったルーカス・マルティーノは仮面で顔がみえなくなりましたが、それ以前から「誰でもない者」でした。詳しくはこちら。
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28 『怪傑ゾロ』ジョンストン・マッカレー
The Curse of Capistrano(1924)Johnston McCulley
マスクで顔を隠した義賊ゾロは、後に米国で大流行するスーパーヒーローの特徴(「正体を隠している」「コスチュームがある」)をすでに備えています。勿論、エンターテインメント小説としても一級品なので、今読んでも十分ワクワクできるでしょう。
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29 『ジェシー・ジェームズの暗殺』ロン・ハンセン
The Assassination of Jesse James by the Coward Robert Ford(1983)Ron Hansen
西部の無法者ジェシー・ジェイムズと、彼を暗殺したボブ・フォード。ジェイムズは二桁の殺人を犯しながら義賊として神格化され、一方、フォードは卑怯者として惨めな一生を送ります。マスコミや大衆によって印象操作され、歴史として定着してしまう典型的な例としても興味深い。
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30 『カタリーナの失われた名誉』ハインリヒ・ベル
Die verlorene Ehre der Katharina Blum oder Wie Gewalt entstehen und wohin sie führen kann(1974)Heinrich Böll
真面目な一般女性のカタリーナは、マスコミの餌食となり、淫らな女性と報道されてしまいます。それが殺人事件を招くことに……。詳しくはこちら。
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31 『冷血』トルーマン・カポーティ
In Cold Blood(1965)Truman Capote
カポーティが、自分とよく似た境遇の殺人犯ペリー・スミスに過度に感情移入したことによって、ノンフィクションノベルという新しい文学形式が生まれました。スミスを犯罪に駆り立てたのは社会そのものであり、そう考えると、殺人は勿論、死刑も冷酷な(In Cold Blood)行ないといえます。
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32 『隣の家の少女』ジャック・ケッチャム
The Girl Next Door(1989)Jack Ketchum
加害者のルース・チャンドラーに「冷酷」という表現は相応しくない気がしますが、彼女もまた現代社会が生み出した怪物なのでしょう。『冷血』とは、実在した事件を元にしているという共通点もあります。エンターテインメントとして質が高いにもかかわらず、読み続けるのが苦痛で仕様がないといった経験は滅多にありません。
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33 『数』フィリップ・ソレルス
Nombres(1966)Philippe Sollers
読み続けるのが辛いといえば、この作品が極北ではないでしょうか。読了したというだけで、自分を褒めてあげたいです。詳しくはこちら。
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34 『嫌ならやめとけ』レイモンド・フェダマン
Take It Or Leave It(1976)Raymond Federman
ページ番号を意味する「ノンブル」とは、日本だけで用いられる用語で、フランス語の「Nombre」からきているといわれています。『嫌ならやめとけ』には「この物語のいかなる部分も順序をかえることができる。したがって頁数は無用であり、作者の自由裁量により数字は付さない」との注釈があります。
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35 『帝都最後の恋』ミロラド・パヴィチ
Последња љубав у Цариграду(1994)Милорад Павић
この小説は、タロットの大アルカナと同じ二十二の章に分かれています。最初から順に読むこともできますが、巻末のカードを用いた占いに従って読む順番を変えることもできます。それを可能にするのが巻頭に掲載されている細かい人物設定です。それには「あらすじ」まで含まれるため、物語がみえなくなることがないのです。
→『ハザール事典』ミロラド・パヴィチ
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36 『カードの館』スタンリイ・エリン
House of Cards(1967)Stanley Ellin
パリ、ローマ、ヴェニス、アルジェリアなどを舞台にしたサスペンス(サイコスリラーの要素もあり)。タロットカードの世界がモチーフになっていますが、タイトルの「House of Cards」には「砂上の楼閣」という意味もあります。
→『鏡よ、鏡』スタンリイ・エリン
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37 『ハイラム氏の大冒険』ポール・ギャリコ
The Adventures of Hiram Holliday(1939)Paul Gallico
主人公のハイラム・ホリデーは、中年の原稿整理係。有給休暇を使って旅行に出掛け、ロンドン、パリ、プラハ、ベルリン、ウイーン、ローマと渡り歩く冒険に巻き込まれます。実は彼、冴えないのは見掛けだけで、ヒーローと呼ぶに相応しい精神と肉体の持ち主なのです。
→『セシルの魔法の友だち』ポール・ギャリコ
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38 『サルガッソーの広い海』ジーン・リース
Wide Sargasso Sea(1966)Jean Rhys
シャーロット・ブロンテの『ジェーン・エア』に登場するエドワードの前妻バーサは、冴えないどころか不気味な狂人として描かれています。バーサと同様、西インド諸島出身のリースは、ヨーロッパ人の偏見と戦うためにこの小説を書きましたが、仕上がった作品は息をするのも苦しくなるような濃密な空気に満たされていました。
→『カルテット』ジーン・リース
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つづく