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読書感想文(関田 涙)

関田 涙(せきた・なみだ)

『ジャングル・ブック』『続ジャングル・ブック』ラドヤード・キプリング

イングランド

The Jungle Book(1894)/The Second Jungle Book(1895)Joseph Rudyard Kipling

ジャングル・ブック』と聞くと、ウォルト・ディズニーの遺作であるアニメーション映画を思い浮かべる人が多いと思います。幼少時の僕も、映画の絵本版で『ジャングル・ブック』と出合いました。
 一方、ラドヤード・キプリングの原作が「短編集(詩を含む)であること」、そして「正編・続編の二冊あること」は、どれくらい知られているでしょうか(※1)。

 そもそも映画の主人公であるモーグリは、すべての短編に登場するわけではなく(十五編中八編がモーグリもの)、また、すべてがジャングルの話でもありません(北の海の話が二編ある)。
 無関係の短編が混じっていると子どもたちが混乱すると考えたのか、児童向けの翻訳本は、正編・続編よりモーグリが登場する話だけを抜き出してまとめたものがほとんどです。
 しかも、モーグリものは時系列がバラバラで、原著どおりだと物語が前後してしまいます。そのため、分かりやすく順番を入れ替えた本まであります。
 一方、大人向けの本(角川文庫など)では正編は完訳されていますが、続編が訳されていません。
 というわけで、『ジャングル・ブック』は選んだ邦訳本によって、印象が大きく異なる作品となってしまったのです。

 僕が知る限り、ユニークな前書きや詩を含む正編・続編を完訳した本は「学研世界名作シリーズ」5、6巻しかありません。
 巻末広告によると、この叢書は「世界の名作児童文学を完訳でおさめた決定版」とのことで、その心意気が嬉しいですね(※3)。
 ただし、この二冊は、古書価格が高騰気味で、おまけに児童書はコンディションのよいものが少ないのが難点です。だからといって、図書館の除籍本などには手を出さない方が無難です。そういった本には愛着が湧きませんから、多少値段は高くても、函つきの美品を手に入れた方が後悔しないでしょう。

 なお、偕成社文庫の『ジャングル・ブック〈第二部〉』、あるいは『キプリング インド傑作選』には、青年になったモーグリが登場する「ラクにて(ラクの中)」が収められています。
 青年といっても後日談ではなく、実は「ラクにて」は『ジャングル・ブック』より前に書かれた、いわばプトロタイプです。設定も微妙に異なったりして、キプリングの試行錯誤がみえて面白いので、併せてお読みになるとよいかと思います。

 さて、今回は、正編七編続編八編、そして番外編一編の計十六編の感想をすべて記載します〔(モ)はモーグリもの〕。
 おまけに、毎年、恒例となっている「小学生の夏休みの読書感想文」としても使える形式にしてみました(※4)。

モーグリのきょうだいたち」Mowgli's Brothers(モ)
 インドのジャングルで、オオカミに拾われた人間の子モーグリは、クマのバルー、クロヒョウのバギーラらの力を借りて成長してゆきます。しかし、悪いトラのシア・カーンや彼にそそのかされた若いオオカミたちと対立してしまいます。モーグリは、人間にしか使えない「火」の力でシア・カーンを追い払いますが、その代わりにジャングルを捨て、人間の世界に帰らなければならなくなってしまいます。
 モーグリは人間だから、オオカミたちにきらわれたのでしょうか。自分たちとちがっているからといって、いじめるのはよいことではありません。その人のよいところをさがしてあげるのがいいと思います。

カーの狩り」Kaa's Hunting(モ)
 モーグリがオオカミの群れを離れる前のお話です。ジャングルの嫌われ者のサルたち(バンダー・ログ)にさらわれたモーグリを救い出すため、バルーとバギーラは、サルの天敵ニシキヘビのカーに協力を依頼します。
 バルーのいいつけを守らなかったモーグリは、サルたちにさらわれてしまいます。強い三匹がすぐに助けにきてくれましたが、モーグリはめいわくをかけたばつを受けなければなりませんでした。きびしいけれど、ジャングルで生きていくには、おきてを守らなければいけないのです。

トラ! トラ!Tiger! Tiger!(モ)
 ジャングルを後にして、人間の村にもどったモーグリ。水牛の番をしているとき、シア・カーンが襲ってくることを知ります。モーグリは仲間のオオカミや水牛、そして知恵を駆使して、カーンを倒しました。しかし、魔術を使うと噂され、村を追い出されてしまうのです。
 モーグリは、人間の世界では生きていけず、ジャングルにもどってきてしまいます。住みなれた場所や仲間が好きなのはわかりますが、人間は冷たいとか、ずるいといってあきらめてしまわずに、人とも仲よくする努力をしてほしいです。

白アザラシ」The White Seal
 ベーリング海に住むアザラシたち。白い毛皮のコチックは、ある日、大勢の仲間が人間に捕まり、皮を剥がれるのを目撃してしまいます。それから、人間のこない島を探すコチックの旅が始まります。
 コチックは、仲間にばかにされても、たったひとりで世界中の海を旅して、ついに人間のこないひみつの海岸をみつけました。自分を信じて、あきらめずに努力すれば、夢はかなうんだなあと思いました。

リッキ・ティッキ・タービRikki-Tikki-Tavi
 マングースのリッキは、飼い主の命をねらうコブラの夫婦ナッグとナガイナと戦います。
 リッキは、まだ子どもなのに、ゆう気があってえらいと思います。ゆう気だけでなく、知恵もあります。コブラをたおすだけでなく、コブラのたまごまで、きちんとつぶして、子どもが生まれないようにするのです。

象つかいのトゥーマイ」Toomai of the Elephants
 小さなゾウ使いのトゥーマイは、ある夜、仲よしのゾウ、カーラ・ナッグの後をつけ、何百頭ものゾウの集会を目撃します。ゾウたちは、そこでダンスを踊っていたのです。
 ゾウには死に場所があって、そこへこっそり死ににいくという伝説があります。ゾウのダンスをみたトゥーマイは、仲間のゾウ使いたちからそんけいされることになりました。ひみつのおどりをみせてくれたのは、ゾウがトゥーマイをみとめてくれたしょうこだからです。

女王さまの召使」Her Majesty's Servants
 軍隊で働く動物たち(ラクダ、ウマ、ラバ、ウシ、ゾウ)が深夜に井戸端会議をします。みんなは一体、誰のために働いているのでしょう。
 イギリスは、動物たちも人間と同じように女王さまの命令にしたがうから、すごいんだぞ。アフガニスタンの王さまもびっくりです。

「恐怖」のおこり」How Fear Came(モ)
 日照りが続くジャングル。わずかに残った水飲み場に集まった動物たちを前に、長老であるゾウのハティが昔話を始めます。トラが皆から嫌われるようになった理由、ジャングルに恐怖がもたらされた理由が語られます。
 動物たちが一番おそれているものは人間です。だから、「人間を殺してはいけない」というジャングルのおきてがあります。人間は力が弱いのに、どうしてこわがるのでしょうか。それは、人間が仕返しをする生きものだからです。ひとりでも殺せば、おおぜいの人間がジャングルにやってきて、関係のない動物まで殺してしまうのです。

プルーン=バガートの奇跡」The Miracle of Purun Bhagat
 バラモンに生まれたプルーン=バガートは、努力してインドの首相になりました。しかし、彼はある日、すべてを捨て、僧侶として生きることを決めたのです。そして、ヒマラヤの村に腰を落ち着けます。
 めいそうするバガートのまわりには、いろいろな動物がやってきます。嵐の夜、山くずれがおこることを教えてくれたのも動物たちでした。そのおかげで、バガートは村人たちをすくうことができたのです。

村をのんだジャングル」Letting in the Jungle(モ)
 人間たちはモーグリを追い出すに飽き足らず、彼を殺そうとジャングルにやってきます。また、モーグリの両親は、悪魔の子を産んだことで火あぶりにされようとしています。モーグリは、そんな人間たちをこらしめるため、ある計画を立てます。
 どんなにひどいことをされても、モーグリは人間を殺したくありません。でも、このままでは自分が殺されてしまいます。そこでモーグリは、ジャングル中の動物の力をかりて、村をこわすことにしました。畑をふみにじり、家をはかいして、人間たちを追い出してしまったのです。村があった場所は、今ではすっかりジャングルになっています。

死体ひきうけ人たち」The Undertakers
 川岸に住むワニ、ジャッカル、ハゲコウは死体の片づけ屋です。岸辺に集まって、年老いたワニのマガーの昔話に耳を傾けます。マガーは、三十年も前に食い損なった白人の子どものことを後悔するのですが、何と成長したその子に撃ち殺されてしまいます。
 川に橋がかかってしまったせいで、ワニのえもの(人間)はへってしまいました。でも、ワニは人間どうしのあらそいで生まれた死体を食べてあげます。殺人者は、もっとかんしゃしたほうがいいと思います。

王のアンカス(象つき棒)」The King's Ankus(モ)
 サルが暮していた廃墟には大量の財宝が隠されていました。宝の番人であるコブラとの戦いに勝ったモーグリは、象つき棒を持ち帰りますが、それは呪われたアンカスでした。
 象つき棒の取りあいをした人間は、六人も死んでしまいました。でも、それは象つき棒のせいではなくて、よくの深い人間が悪いのです。また、人が死ぬとこまるので、モーグリは棒を、もとの宝の山にもどします。

キケルン」Quiquern
 飢えに苦しむイヌイット。少年コツコは少女は過酷な狩りに出かけます。そこで出会ったのはイヌの化けものキケルンでした。
 キケルンの正体は、コツコのイヌでした。頭がおかしくなって逃げ出したイヌが、もとにもどってコツコたちを、えものがたくさんいるところまでつれていってくれたのです。そのなかには、コチックの仲間もいるのでしょうか……。

赤犬」Red Dog(モ)
 トラよりもオオカミよりも恐ろしい赤犬ドールの群れ。モーグリは、カーの知恵を借りて、ドールを一網打尽にする作戦を立てました。
 ハチ、ヘビ、オオカミが協力してドールをやっつけるところは、まるでサルカニ合戦みたいです。ドールは強いけれど、頭がよくないので、モーグリたちにはかないません。けれど、このたたかいで、オオカミの元リーダーのアケーラが死んでしまいます。

春のかけ足」The Spring Running(モ)
 ジャングルに春がやってきました。十七歳になったモーグリの心は、なぜか落ち着きません。そんなとき、母親に再会し、人間の世界に戻る決心をします。
 モーグリはジャングルをはなれたくないのに、足がかってに人間のところへ引っぱっていきます。やっぱり、人間は人間の世界でくらすようにできているのです。でも、ジャングルの仲間は、いつまでもモーグリをたすけてくれると約束します。

ラクにて」In the Rukh(モ)
 森林監督官のギズボンは、不思議な青年モーグリと出会います。モーグリは、ほとんど裸で、ジャングルのことなら何でも知っています。やがて、モーグリは執事の娘に恋をしますが……。
 このお話のモーグリは、まだジャングルでオオカミとくらしています。そこへ、およめさんと赤ちゃんまできて、とても楽しそうです。

※1:キプリングは児童文学者というイメージが強いものの、実は短編に秀でた作家である。
 例えば、ショーン・コネリー主演で映画化された『王になろうとした男』(※2)も原作は短編。また、ホルヘ・ルイス・ボルヘス編の「バベルの図書館」にもキプリングの短編集『祈願の御堂』がラインナップされている。
 特に後期の短編は印象がかなり異なるので、ぜひ一度手に取ってみて欲しい。入門編としては、安価かつ初期から後期までの短編が満遍なく収められた『キプリング短篇集』(岩波文庫)がお勧め(「モロウビー・ジュークスの不思議な旅」が好き)。

※2:「王になろうとした男」は、『諸国物語』や『キプリング インド傑作選』(「王を気取る男」)で読める。なお、清流出版の『王になろうとした男』(原題は『An Open Book』)はジョン・ヒューストン監督の自伝なので、お間違えなく。

※3:一方で、同じく「完訳版」を謳った偕成社文庫には、多くの本と同様、モーグリものしか収められていない。番外編を含むのが売りなのかも知れないが、これをもって『ジャングル・ブック』の「完訳」とするのは明らかにインチキなので、うっかり購入してしまわないよう注意が必要。「全集」と銘打って、収録漏れ多数のものはいくらでもあるが、それとは意味合いが違う。

※4:しつこいけど、冗談ですよ。


ジャングル・ブック』学研世界名作シリーズ5、西村孝次訳、学習研究社、一九七四
『続ジャングル・ブック』学研世界名作シリーズ6、西村孝次訳、学習研究社、一九七四