読書感想文(関田涙)

関田 涙(せきた・なみだ)

『六番目の男』フランク・グルーバー

Fort Starvation(1953)Frank Gruber

 フランク・グルーバーは、ミステリーを中心に
多くの作品を残したパルプ作家で、日本ではジョニー・フレッチャーとサム・C・クラッグのコンビが活躍するシリーズが最も有名でしょうか。こちらは現在でも未訳の作品が刊行され続けており、間もなく全十四長編の翻訳が出揃いそうです。


 ウエスタン小説の方は、『六番目の男』(写真)や『叛逆者の道』などが翻訳されていますが、いずれも半世紀以上前のことです。
 いくらグルーバーの人気が衰えていないといっても、今後、西部小説が翻訳される可能性は極めて低いと思われます。唯一の望みは、作品が映画化されることでしょうか。

 実際、『六番目の男』もジョン・スタージェス監督によって一九五六年に映画化されています。
 原作の原題は『Fort Starvation(飢餓の砦)』で、映画の原題は『Backlash』ですが、邦題はどちらにも関係ありません。

『六番目の男』は、西部小説にミステリーの要素を盛り込んだ作品です。
 ちなみに、グルーバーは、それとは逆の小説も書いています。西部開拓時代の謎を、現代の探偵が解き明かすのが『バッファロー・ボックス』です。

 一八六一年、アルフレッド・オーピントン中尉はユタの山の小さい砦に、手足がバラバラになった五つの遺体を発見します。インディアンが砦を包囲し、飢えた五人はとも食いの末、亡くなったと思われます。
 九年後、オーピントンの元に、ジョン・スレーターという青年がやってきます。彼は飢餓の砦で死んだ男の息子だといいます。父親の手紙によると、砦にいたのは金の採掘者たちで、六万ドルもの金を掘り当てていました。しかも、そこには五人ではなく、六人の男がいたそうです。
 その後、スレーターは飢餓の砦の遺族をひとりずつ訪ね、砦で何が起こったのか、そして、六番目の男の正体と行方を解き明かそうとします。

 中心に魅力的な謎を据えていますが、勿論それだけで引っ張るわけではありません。スレーターは訪ねてゆく先々でトラブルに巻き込まれるため、連作短編のような趣もあります。
 ガンファイトあり、恋愛あり、インディアンとの争いありと、エンターテインメントの要素が、これでもかというくらい詰め込んであるので、飽きずに読み進めてゆくことができます。

 さらに、軍隊の組織形態や内情、『シェーン』などでお馴染みの牧畜業者と開拓農民の争いなどもしっかり描き込んであります。
 面白いのは、私立探偵が登場することです。
 アラン・ピンカートンが探偵局を設立したのが十九世紀半ばですから、彼を真似た探偵が、西部のあちこちの町に存在したのかも知れません。保安官の手助けをしたり、場合によっては悪党と手を組んでのでしょう。
 このように、ほかの西部劇では余り触れられない部分まで書かれているのは、西部史に詳しいグルーバーならではという感じがします。

 アーネスト・ヘイコックスの『大平原』ほどではないにしろ、分量の割に登場人物が多く、筋が錯綜しているため、小説としてはとても読み応えがあります。逆にいうと、単純な西部小説を読んでスカッとしたい人には不向きかも知れません。
 また、肝腎の「六番目の男」は、怪しい人物がひとりしかいないので、見破るのは容易でしょう。

 ネタバレになるため、詳しく書けないのですが、僕が最も興味を惹かれたのは、スレーターとヒロインの距離感です。
 熱愛させることができないという作品の構成上の制約があります。だからこそ、ふたりの恋をどう収めるかが腕のみせどころなのです。
 期待しながら読み進めると、あれよあれよという間に話が進んでしまいます。そして、ラスト一頁で強引にケリをつけたグルーバーの潔さには、思わず笑ってしまいました。

『六番目の男』尾坂力訳、ハヤカワ・ポケット・ブックス、一九五六

エスタン小説
→『ループ・ガルー・キッドの逆襲』イシュメール・リード
→『ビリー・ザ・キッド全仕事マイケル・オンダーチェ
→『勇気ある追跡』チャールズ・ポーティス
→『砂塵の町』マックス・ブランド
→『大平原』アーネスト・ヘイコックス
→『西部の小説
→『幌馬車』エマーソン・ホッフ

Amazonで『六番目の男』の価格をチェックする。