読書感想文(関田涙)

関田 涙(せきた・なみだ)

ロシア

『白い犬』ロマン・ガリー

Chien blanc(1970)Romain Gary 僕は文庫本が大好きなので、古書店にゆくと一目散に翻訳小説の文庫コーナーを目指します。 若い頃は、サンリオSF文庫、ハヤカワ文庫、創元文庫などに探求書が多かったのですが、それらは割と簡単にみつかりました。戦前に…

『酔いどれ列車、モスクワ発ペトゥシキ行』ヴェネディクト・エロフェーエフ

Москва — Петушки(1973)Венедикт Ерофеев ヴィネディクト・エロフェーエフの散文詩『酔いどれ列車、モスクワ発ペトゥシキ行』(写真)は一九七〇年頃に書かれ、サミズダート(地下出版)で人々に読まれていました。 正式な出版は一九七三年イスラエルにお…

『黄金の仔牛』イリフ、ペトロフ

Золотой телёнок(1931)Ильф и Петров イリフ、ペトロフの『黄金の仔牛』(※1)(写真)は、『十二の椅子』で孤軍奮闘したにもかかわらず、あっさりと殺されてしまったオスタップ・ベンデルを蘇らせて、再び活躍させた作品です。 ベンデルは人気キャラクタ…

『十二の椅子』イリフ、ペトロフ

Двенадцать стульев(1928)Ильф и Петров イリフ、ペトロフは、ロシアのユーモア作家。変な表記で分かるとおり、イリヤ・イリフ(Иья Ильф)とエウゲニー・ペトロフ(Евгений Петров)の共同ペンネームです。 原書をみると著者名は「Ильф и Петров」「Ильф …

『これからの一生』エミール・アジャール

La Vie devant soi(1975)Émile Ajar(Romain Gary) ロマン・ガリーはロシア生まれで、フランスに帰化した作家・映画監督です。映画ファンにとっては、ジーン・セバーグの夫といった方が分かりやすいかも知れません。 彼は一九五六年に『自由の大地』で、…

『ゴロヴリヨフ家の人々』ニコライ・シチェードリン

Господа Головлёвы(1875-1880)Никола́й Щедрин ロシア人の独特なセンスはほかの国の人には理解しにくいため、インターネット上でよくネタにされます。当然ながら、ヘンテコさは文学にも表れています。 ロシア文学というと、フョードル・ドストエフスキーや…

『トラストDE』イリヤ・エレンブルグ

Трест Д.Е.: История гибели Европы(1923)Илья Эренбург イリヤ・グリゴーリエヴィチ・エレンブルグの『トラストDE』(写真)は、日本において、一体、何回出版されたことでしょう。 一九二九年の新潮社『世界文学全集』をはじめとして、民主評論社、修…

『消されない月の話』ボリス・ピリニャーク

Повесть непогашенной луны(1925)Борис Пильняк 春陽文庫というと、探偵小説、時代小説、大衆小説などを思い浮かべる人もいると思いますが、戦前は「春陽堂文庫」という名で、国内外の文学作品を刊行していました(春陽堂文庫、日本小説文庫、世界名作文庫…

『最後の一線』ミハイル・アルツィバーシェフ

У последней черты(1912)Михаил Петрович Арцыбашев ふと気づくと、昨年、一昨年とロシア文学を一冊も扱っていませんでした。これほどの大国の文学に、二年以上も触れなかったことに自分でも驚いています(感想を書いていないだけで読んではいるけど)。 …

『われら』エヴゲーニイ・ザミャーチン

Мы(1927)Евге́ний Ива́нович Замя́тин エヴゲーニイ・イワーノヴィチ・ザミャーチンの『われら』(写真)の訳本は、一九七〇年に講談社より刊行され、後に文庫にもなりました。その後、岩波文庫に移りましたが、現時点では品切れのようです。 ま、岩波文庫…

『ヴェルリオーカ』ヴェニアミン・カヴェーリン

Верлиока(1982)Вениами́н Алекса́ндрович Каве́рин ヴェニアミン・アレクサンドロヴィチ・カヴェーリンは、当時(ヨシフ・スターリンが死去したとき)忘れられた作家であったミハイル・ブルガーコフの復活に尽力したことでよく知られています。 未完だった…

『大理石』ヨシフ・ブロツキー

Мрамор(1984)Ио́сиф Бро́дский ソ連から米国に亡命し、一九八七年にノーベル文学賞を受賞したヨシフ・ブロツキーは、少々変わった経歴の持ち主です。 彼は、ソ連時代(自らは前世と呼ぶ)、共産主義国家建設のために有益な働きを何ひとつしない徒食者とし…

『オブローモフ』イワン・ゴンチャロフ

Обломов(1859)Иван Aлeксандрович Гончаров 今年は、絵に描いたような寝正月でした。 お年玉をもらう歳じゃないのでソーシャルゲームの課金もできず、誘ってくれる友だちもおらず、食料の調達にコンビニへゆく以外は外出せず、ベッドを離れない日々……。 そ…

『旅に出る時ほほえみを』ナターリヤ・ソコローワ

Захвати с собой улыбку на дорогу(1965)Наталья Викторовна Соколова『旅に出る時ほほえみを』は、カバーイラストが地味すぎたこと(何が描かれているのか、よく分からない)、聞いたこともない作家だったこと、その上、帯に「地底潜行する怪獣17Pとその…

『星の切符』ワシーリィ・アクショーノフ

Звёздный билет(1961)Василий Аксёнов アレクサンドル・ソルジェニーツィンが『イワン・デニーソヴィチの一日』で文壇デビューしたのが一九六二年。ワシーリィ・アクショーノフの『星の切符』(写真)は、その前年に出版されました。 両者とも、当時はとて…

『虹』ワンダ・ワシレフスカヤ

Tęcza(1942)Wanda Wasilewska ポーランドからソ連に亡命し、スターリンと不倫の噂があったワンダ・ワシレフスカヤは、作家というより共産主義の活動家、政治家としての方が有名かも知れません。 また、小説はポーランド語で書かれていますが、ロシア語に訳…

『ナボコフのドン・キホーテ講義』ウラジーミル・ナボコフ

Lectures on Don Quixote(1983)Vladimir Nabokov 僕が読んだ小説の数なんて高が知れています。多めに見積もっても、精々五千冊といったところでしょう。 それでこんなことを書くのは烏滸がましいのですが、もしオールタイムベストを選べといわれたら、ミゲ…

『カメラ・オブスクーラ』『マグダ』『マルゴ』ウラジーミル・ナボコフ

Камера Обскура(1933)/Magda(1934)/Laughter in the Dark(1938)Владимир Набоков, Vladimir Nabokov 生涯で好きな作家を三人あげろといわれたら、三人目くらいに入ってきても全く不思議じゃないのがウラジーミル・ナボコフ(※1)。 ロシア語と英語で…

『騎兵隊』イサーク・バーベリ

Конармия(1926)Исаак Бабель「読書感想文」では、なるべく様々な国・時代の小説を扱いたいと思っているのですが、ついつい米国の作家が多くなってしまいます。元々英米文学を読む比率が高いこともありますが、もうひとつの理由として、出版社の問題があり…