Захвати с собой улыбку на дорогу(1965)Наталья Викторовна Соколова
『旅に出る時ほほえみを』は、カバーイラストが地味すぎたこと(何が描かれているのか、よく分からない)、聞いたこともない作家だったこと、その上、帯に「地底潜行する怪獣17Pとその発明者に独裁制の嵐が!」という意味不明の惹句が書かれていたことが、変なもの好きな僕の心をとらえました。
実際、今でも資料がほとんどなく、ナターリヤ・ヴィクトーロヴナ・ソコローワが、どんな人なのかよく知りません。モスクワのゴーリキー文学研究所を出ていたり、モスクワで暮らしていたりしたそうですが、出身はイサーク・バーベリと同じオデッサのようです。
なお、『旅に出る時ほほえみを』は、かつて大光社から出ていた「ソビエトS・F選集〈1〉」に『怪獣17P』というタイトルで収録されていました(併録はリンマ・カザコーワの「実験」)。
金属製なのに生肉を食い、人語を解す怪獣17P。
その開発者である〈人間〉は、怪獣を利用しようとする国家総統に反抗し、怪獣の「特殊眼」を壊し、設計図を破棄してしまいます。
裁判にかけられた〈人間〉は、「忘却の刑」を受けます。これは、国外追放され、あらゆる書物や記録から名前を抹消され、人々は彼の名を口に出すことも許されないというものでした。
SFというより、大人向けの寓話です。
どこの国の、いつ頃の物語なのか明記されていない(二十世紀、ヨーロッパのどこか)こと、固有名詞を持たない登場人物(〈人間〉〈見習工〉など)が多いことからも、それは明らかです。
作中の「総統」がスターリンを指すのか、あるいは未来の独裁者を予言しているのかは分かりませんが、これも「雪どけ」以後の新しいロシア文学であることは間違いないでしょう。
〈人間〉は、怪獣、そしてルルジットという爆弾を科学の進歩のために作りましたが、同時にそれが兵器として使用されることも承知していました。
彼は一見、研究に没頭する学者肌の男にみえます。けれど、実のところは、名誉欲旺盛な俗物であるようにも読めるのです。
最初、〈人間〉は、死刑を求刑され、後に国外追放に減刑されました。
しかし、彼にとって、それは「減刑」ではありません。名前を奪われ、国を追われたことは死刑よりも遥かに残酷な罰なのです。
ヨーロッパを彷徨う〈人間〉に追い討ちをかけるようなできごとが続きます。〈人間〉は、古新聞によって、怪獣を創造したという称号すら別の者に奪われていることを知ります。また、「鏡」を用いて怪獣とコンタクトを取るものの、最早、怪獣にとっても〈人間〉の存在は大きくないことを悟るのです。
一体、〈人間〉は、何のために〈怪獣〉を作り出したのでしょうか。
そして、〈怪獣〉は、国家に何を齎すのでしょうか。
その答えは、容易には導き出せません。
いや、ひょっとすると、「旅に出る時ほほえみを」という歌の歌詞は、どこの国にも属さず、何者でもなくなった〈人間〉が、そうした俗事に悩まされなくなったことを祝福しているのかも知れません。
追記:二〇二〇年一月、白水社から復刊されました。
『旅に出る時ほほえみを』草鹿外吉訳、サンリオSF文庫、一九七八
サンリオSF文庫、サンリオ文庫
→『マイロン』ゴア・ヴィダル
→『どこまで行けばお茶の時間』アンソニー・バージェス
→『深き森は悪魔のにおい』キリル・ボンフィリオリ
→『エバは猫の中』
→『サンディエゴ・ライトフット・スー』トム・リーミイ
→『ラーオ博士のサーカス』チャールズ・G・フィニー
→『生ける屍』ピーター・ディキンスン
→『ジュリアとバズーカ』アンナ・カヴァン
→『猫城記』老舎
→『冬の子供たち』マイクル・コニイ
→『アルクトゥールスへの旅』デイヴィッド・リンゼイ
→『蛾』ロザリンド・アッシュ
→『浴槽で発見された手記』スタニスワフ・レム
→『2018年キング・コング・ブルース』サム・J・ルンドヴァル
→『熱い太陽、深海魚』ミシェル・ジュリ
→『パステル都市』M・ジョン・ハリスン
→『生存者の回想』ドリス・レッシング
→『マラキア・タペストリ』ブライアン・W・オールディス
→『この狂乱するサーカス』ピエール・プロ
→『バドティーズ大先生のラブ・コーラス』ウィリアム・コツウィンクル
→『どこからなりとも月にひとつの卵』マーガレット・セントクレア
→『ジョン・コリア奇談集』ジョン・コリア
→『コスミック・レイプ』シオドア・スタージョン
→『この世の王国』アレホ・カルペンティエル
→『飛行する少年』ディディエ・マルタン
→『ドロシアの虎』キット・リード
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