読書感想文(関田涙)

関田 涙(せきた・なみだ)

『ナイトメアキャッスル』ピーター・ダービル=エヴァンス

Beneath Nightmare Castle(1987)Peter Darvill-Evans

 ゲームブックは、一九八〇年代に大流行しました。
 日本では、社会思想社より「ファイティングファンタジー」が「アドベンチャーゲームブック」として、創元推理文庫より「ソーサリー」が「スーパーアドベンチャーゲーム」として刊行されたのをはじめ、他社からも様々なゲームブックが出版されたのです。
 そのブームは本当に凄くて、ファミコン用ゲームソフトのゲームブック化は勿論、サンリオ文庫からは女性向けのラブロマンスのゲームブックまで出ていたくらいです。

 ここでいうゲームブックとは、数多くのパラグラフが順不同に並べられており、読者は選択肢から選んだり、サイコロの目に従ったりしながら、指示された数字のついたパラグラフを読み進めてゆくというものです。
 物語を楽しむとともに、ゲームである以上、クリアを目指すことになります。

 最も有名なシリーズである「ファイティングファンタジー」は、スティーヴ・ジャクソンとイアン・リビングストンによって始められ、後に様々なライターが参加することになりました。
 原書は五十九冊ありますが、日本版である「アドベンチャーゲームブック」は三十三巻まで刊行されました(※)。

ファイティングファンタジー」という名前からは「剣と魔法を用いて冒険するヒロイックファンタジー」を想像する方が多いと思います。実際、タイタンという異世界が舞台となるファンタジーがシリーズの中心ではありますが、実はそれ以外のジャンルも含まれています。
 ファンタジーの次に多いのがSFで、さらにはホラーまで存在したのです。

 ピーター・ダービル=エヴァンスの『ナイトメアキャッスル』(写真)は、『地獄の館』と並ぶ貴重なホラー作品です。
 ただし、『地獄の館』が現代ホラーなのに対し、『ナイトメアキャッスル』は剣と魔法の世界のホラーになります。

 剣に熟達した戦士である「君」は、クール大陸のニューバーグに旧友のトールダー男爵を訪ねます。しかし、何者かに襲われ、ニューバーグ城に監禁されてしまいます。
 どうやら城の地下に封印した悪魔ザカーズが復活したらしく、町には得体の知れない怪物が歩き回り、さらにはトールダー男爵も囚われていました。
「君」は、敵を倒し、旧友や町の人々を救わなくてはなりません。

 これが背景で、その後のストーリーは選択肢によって変わってきます。
ファイティングファンタジー」は基本的に、「しばらく進まないと選択が正しかったのか判断がつかない」「分岐点が多すぎて、間違えたとき、どこまで戻ればよいか分からなくなる」という点が難易度を上げています。
 それを避けるためには、辿ってきた番号をメモしておくのがよいでしょう。面倒な場合は、栞を複数枚用意して、重要な選択肢と思われるところに挟んでおくのが便利です。

 どう考えてもおかしい選択、例えば、商品をくすねたり、いきなり剣で斬り掛かったり、怪しいものがあるのに調べずに立ち去ったりしなければ、ニューバーグ城に潜入するまでは順調に物語を進めることができると思います(ただし、よく分からないアイテムのなかには、持っていない方がよいものもあるので注意)。
 ちなみに、本作はパラグラフジャンプもパズルもなく、正しいエンディングはひとつのみです。

 問題は、「ファイティング」というだけあって、サイコロによる戦闘で敵を倒してゆかなければならない点です。
 勝てないからといって、コンピュータRPGのようにレベル上げもできないし、敵に合わせた必勝法も存在しないため、運を頼りにひたすら賽を振らなければならないのです。
 尤も、戦闘や運だめし、アイテムについては、ズルができます。要するに、サイコロなど振らず、すべて「勝ったこと」「運がよかったこと」「アイテムを手に入れたこと」にして先に進んでしまえばよいのです。

 しかし、サイコロによるランダムの要素を排除すると、選択肢のみの単純なゲームブック(子ども向けの『きみならどうする?』など)のようになり、折角の進化を放棄してしまうことになります。
 コンピュータRPGしかやったことがない人にとって、成長システムがないのはかなり辛いでしょうが、我慢して取り組むとゲームブックならではの醍醐味を味わうことができます。
 とはいえ、ゲームを始める前に決める「原点数」は低いと話にならないので、振り直ししてもよいと思いますが……。

 ゲームブックなので、クリアに至る展開は書くわけにはいきません。その代わり、『ナイトメアキャッスル』の一番の魅力を最後に述べておきます。
 それは実をいうと、多彩で、残酷なバッドエンドなのです。

「君」は、体を真っ二つにされたり、気が狂うまでナイフで痛めつけられたり、見知らぬ場所に飛ばされ戻ってこられなかったり、体が何百もの黒焦げの破片になったり、生体実験によって怪物にされたり……と選択を誤るたびに悲惨な目に遭います。
 何度も何度も殺されるなんて、普通のホラー小説や映画ではまず味わえません。ループものやメタフィクション、夢オチでもない限り、バッドエンドのホラーでも死ぬのは一回のみですから。

 ホラーの楽しみのなかには「現実にはあり得ない、とんでもない方法で殺される」というのがあります。
 その対象の多くは脇役ですが、なかには感情移入できる主人公こそ残虐な方法で殺されて欲しいというマゾヒストもいるでしょう。
 そういう方に『ナイトメアキャッスル』はうってつけの作品です。「ちょこっと間違えただけで、こんなひどい殺され方をしなくちゃならないのか!」という理不尽さを満喫できます。

 本来の楽しみ方とは少し違いますけれど、一風変わったホラーを求めている方はぜひどうぞ。

※:「ファイティング・ファンタジー・コレクション ~レジェンドの復活~」(二〇二二年発売)に34巻が収録される。

『ナイトメアキャッスル』アドベンチャーゲームブック25、柿沼瑛子訳、社会思想社、一九八八

ゲームブック
→『さまよえる宇宙船』スティーヴ・ジャクソン

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