読書感想文(関田涙)

関田 涙(せきた・なみだ)

『天使の卵』『ロボット貯金箱』


 コバルト文庫(当時は、集英社文庫コバルトシリーズ)の海外SFアンソロジーといえば、何といっても『たんぽぽ娘』が含まれる「海外ロマンチックSF傑作選」(風見潤編。全三巻)が有名です。
 それに続いて刊行されたのが、今回紹介する「宇宙人SF傑作選」の『天使の卵』と、「ロボットSF傑作選」の『ロボット貯金箱』です。

 実は、もう一冊「タイムマシンSF傑作選」も企画されていましたが、出版されなかったようです。
 飽くまで勝手な推測ですが、コバルト文庫の読者は思春期の少女なので、ロボットSFが受けなかったのではないでしょうか。
 カバーには無骨なロボットが描かれており、内容も少女向けとはいい兼ねます。今思えば、先にタイムマシンの方を出版してもらいたかったですね。

 いや、そもそも「海外ロマンチックSF傑作選」も『天使の卵』も、苦みがあったり、シニカルだったりする短編が多いのです。とても少女に適しているとは思えないので、いずれにしても長続きはしなかったでしょうね。
 逆にいうと、大人の読書に堪える作品が揃っているし、ほかでは読めない短編もあるため、本格的なSFファンにこそ購入をお勧めします。

天使の卵写真
天使の卵」Angel's Egg(1951)エドガー・パングボーン

 一九五一年、メイン州で隠遁生活を送る動物学者のバナーマンは、UFOを目撃します。その後、鶏が青い卵を抱いているのに気づき、孵化させると、なかから人差し指大の天使(によく似たエイリアン)が誕生します。遥か宇宙からやってきた天使とテレパシーで語り合うバナーマン。
 天使は、生物の記録を完璧に保全することができます。記憶を抜かれた生きものの肉体は死にますが、それを集めることで人類が進歩する可能性があるといいます。
 記憶は古い方から徐々に失われてゆきます。記憶の保全を選んだバナーマンには一切の後悔がなく、幸福感に満ちています。天使は正に天国へと導いてくれる慈悲深い存在であり、人生にやり残したことがない(まだ五十三歳だが)彼にとっては、神が遣わしてくれたものに思えるのでしょう。
 命の終え方を考えさせられる良質なSFですが、ピチピチなコバルト文庫の読者に相応しいかといわれると、首を捻らざるを得ません……。
 なお、パングボーンの代表作である『A Mirror for Observers』は、ハヤカワSFシリーズと創元推理文庫から、同じ年に邦訳が出ています。邦題は、ハヤカワが『観察者の鏡』、創元が『オブザーバーの鏡』です。

ホップ・フレンド」Hop-Friend(1962)テリー・カー

 地球人の一部が火星に移民して約十年。ウォルト・マイケルスンは建築家として、火星に町を作ろうとします。そこへ現れた火星人は、ピョンと飛んできたかと思うと、テレパシーで一言二言話しかけると、サッと消えてしまいます。そんなやり取りをするうち、マイケルスンとひとりの火星人が友人になります。しかし、マイケルスンは、火星人が去ったばかりと思われる集合住宅地を発見します……。
 これだけしか書かれていないので、何が起こったのか分かりづらいのですが、恐らく次のようなことなのでしょう(ネタバレを防ぐため、伏せ字にします)。「火星人にとって、地球人は友人などではなく、勝手に火星の開拓を進める侵略者です。やがて、火星と地球の間では戦争が起こるはずです。そんなことも分からず、友情を結んだマイケルスンとひとりの火星人は、単なる変わり者なのです

わが家の異星問題」Look, You Think You've Got Troubles(1969)キャロル・カー

 ユダヤ人のヘクターは、娘と火星人が結婚したことを許せません。しかし、子どもが生まれると聞き、妻に説得され火星に向かいます。義理の息子はブロッコリーによく似た宇宙人で、ユダヤ教に改宗しつつ、自分たちの宗教も捨てていませんでした。
 結婚における宗教の違いをユーモアSFとして調理した作品です。笑えるのですが、これも全然コバルト文庫っぽくないよなあ。

ターレディ」Star Lady(1976)ジョージ・R・R・マーティン

 ほかの惑星からやってきたジェイニー・スモールという少女と、彼女と船で知り合った少年は、騙されて身分証を奪われてしまいます。スラムのポン引きヘアリー・ハルの仲間になった彼らは、スラムを牛耳る侯爵に立ち向かいます。
 固有名詞の説明が全くないため、はっきり分かりませんが、ハルはポン引きなので、ジェイニーに「スターレディ」という名前をつけて娼婦に、少年には「ゴールデン・ボーイ」という名で男娼をさせているようです。そもそも、最初のシーンでジェイニーは輪姦されるのですが、ハルはみているだけで助けてくれません。この本、コバルト文庫なんですよ……。

巨人の棲む星」Once There Was a Giant(1968)キース・ローマー

 重症者十名が入った冷凍保存装置を運ぶ途中、ヴァンガードという星に不時着したベアード・アルリックは、そこで巨人に出会います。重力が弱い惑星では体が大きくなるため、その巨人は地球人で、ジョニー・サンダーという名前でした。ふたりは貨物ポッドを探し、過酷な雪山を進んでゆきますが……。
 実はアルリックには真の目的があったのですが、気高く誠実な巨人と触れ合ううち、気持ちが大きく変化します。巨人の存在は謎に満ちており、行動原理もよく分かりません。「男はやると決めたことは、やり遂げなければいけない」という考えは立派ですが、そこに至った過程が描かれないため、モヤモヤが残ります。

『ロボット貯金箱』写真
ロボット貯金箱」Robots Have No Tails (1942)ヘンリー・カットナー

 こちらをどうぞ。
→『ボロゴーヴはミムジイ』ヘンリー・カットナー
→『ミュータント』ルイス・パジェット

アンドーヴァーの犯罪」Andover and the Android(1963)ケイト・ウィルヘルム

 副社長の座を狙うロジャー・アンドーヴァーですが、社長は、彼が独身であることを快く思っていません。そこで、ロジャーは、個人での所有を禁止されている女性のアンドロイドを裏から手を回して注文し、妻のふりをさせます。その後、秘密が漏れるのを恐れて、制作者を殺害しますが……。
 冒頭にロジャーの裁判が語られる、一種の倒叙推理。ネタバレになるので詳しくは書きませんが、倒叙ミステリーの構成と、SFの設定を見事に生かした傑作です(実際は罪を問うのは難しいが)。ウィルヘルムの日本オリジナルの短編集である『翼のジェニー』(アトリエサード)にも収録されているので、現在も手軽に読むことができます。

ロボットはここに」The Robots Are Here(1967)テリー・カー

 ロケットの設計をしているチャールズ・バーロウのバッグから、身に覚えのない電話番号のメモが出てきます。連絡してみると、ROBOTという会社につながり、五時にくるよう指示されます。その会社にはロボットしかいませんでした。
 彼らは未来からきたロボットで、人類が滅亡しないよう危険な行動を管理したり、敢えて事件を起こしたりしているといいます。いつの間にかロボットによって管理される社会になっていたわけですが、そもそも設計をしたのは人間というパラドックスを抱えるSFです。

《BOLO》」Bolo: The Last Command(1967)キース・ローマー

 空港を建設中、地下を何かが進行してきます。その場所は七十年前の激戦地で、放置された巨大な放射性兵器が突然、動き出したのです。人工知能を持つ兵器はまだ戦闘が続いていると思い込み、爆進しますが、このままでは街が放射能に汚染されてしまいます。
 この危機に立ち上がったのは、当時の戦争を経験した退役軍人の老人でした。パニックSFかと思いきや、ともに戦った老人とロボットの心の交流という温かいお話になってしまいます。

地球のすべての罠」All the Traps of Earth(1960)クリフォード・D・シマック

 名家に六百年仕えたロボットのリチャード・ダニエル。主人が死に、記憶を消されることになったため、逃げ出して宇宙船に密航します。辿り着いた星は……。
 人間は、ロボットが自分より長生きすることを許せず、百年に一回記憶を消去しなければいけないという法律を作ります。誇り高きリチャードにとって記憶は唯一の財産であり、それをなくすことには耐えられません。辛い時期に、楽しかった記憶を思い出すのは、幸福なのでしょぅか? それとも苦痛なのでしょうか?
→『小鬼の居留地』クリフォード・D・シマック

天使の卵 −宇宙人SF傑作選』風見潤安田均編、集英社文庫コバルトシリーズ、一九八一
『ロボット貯金箱 −ロボットSF傑作選』風見潤安田均編、集英社文庫コバルトシリーズ、一九八二


アンソロジー
→『12人の指名打者
→『エバは猫の中
→『ユーモア・スケッチ傑作展
→『怪奇と幻想
→『道のまん中のウェディングケーキ
→『魔女たちの饗宴
→『壜づめの女房
→『三分間の宇宙』『ミニミニSF傑作展
→『ミニ・ミステリ100
→『バットマンの冒険
→『世界滑稽名作集
→「恐怖の一世紀
→『ラブストーリー、アメリカン
→『ドラキュラのライヴァルたち』『キング・コングのライヴァルたち』『フランケンシュタインのライヴァルたち
→『西部の小説
→『恐怖の愉しみ
→『アメリカほら話』『ほら話しゃれ話USA
→『世界ショートショート傑作選
→『むずかしい愛
→『魔の配剤』『魔の創造者』『魔の生命体』『魔の誕生日』『終わらない悪夢
→『ラテンアメリカ五人集』