Super Star!(1983)Paul R. Rothweiler
今年もプロ野球の季節がやってきました。
春先の楽しみは何といってもルーキーの動向です。鳴り物入りで入団したにもかかわらず期待に応えられない選手がいる反面、ドラフト下位で入団した選手が思わぬ活躍をすることもあります。
二〇二二年のプロ野球では、開幕戦で対戦した楽天ゴールデンイーグルスと千葉ロッテマリーンズのスタメンキャッチャーがいずれもルーキーでした。これは2リーグ制以降初だそうです。
高卒ルーキーの松川虎生捕手は、佐々木朗希投手が完全試合を達成した際も女房役を務めており、今後の活躍が大いに期待されます。
ポール・R・ロスワイラーの『スーパールーキー』(写真)は、『赤毛のサウスポー』が日本でヒットしたことで翻訳された作品のようです。単行本刊行時は『熱狂球場』のタイトルでしたが、文庫化に当たって現タイトルに変更されました。
しかし、『スーパールーキー』という邦題では、ネイティヴアメリカンの血を引く強打のルーキーが主人公だと勘違いされてしまいます。実をいうと、この小説の真の主役は、スーパースターを襲うドラッグなのです(そういう意味では、文庫本の帯やカバーの宣伝文句はすべて嘘)。
ドラフトで指名漏れして腐っていたサム・プリンスは、自分がインディアンの血を引いていることを知ります。父のことを調べにニューヨークからニューメキシコへ向かうサム。やがて、彼は、獄中で殺された父の冤罪を晴らすため、サム・ホワイトホースとしてアメリカンリーグのジャージー・ベアーズに入団します。
サムはルーキーながらに大活躍しますが、チームは恐るべき脅威に蝕まれていました。
ロスワイラーの野球小説の特徴は、セックス、金、名声、ドラッグといった人間の欲を絡めるところです。というか、メインはそっちで、野球は飽くまで背景といった感じ。
昭和の大衆小説や映画はそういったテーマの作品が多い印象があり、彼がアメリカよりも日本で人気があった理由もその辺りにあるような気がします(※)。
『スーパールーキー』におけるドラッグは、運動能力向上薬物ではなく、麻薬のことです。スピード(アンフェタミン)、コーク、スノー(コカイン)などを試合前に用いたり、グルーピーとのセックスに使用する選手たちが数多く登場しますが、これは一九八〇年代のMLBにおける薬物汚染をやや大袈裟に描いたようです。
ロスワイラーは元々スポーツライターでしたから、その状況を見逃せなかったのでしょう。ベアーズという架空のチームを用いたことからも、ドラッグ問題をメインに描きたかったことが分かります。
生々しいのは、ミスタークリーンと呼ばれる糞真面目な強打者までもが、妻の浮気や薬の売人の色仕掛けによってドラッグを使用するようになってしまう点です。
知名度が上がれば上がるほど、群がってくる怪しい連中が増えるのは、いつの時代も、どこの国でも共通のようです。
というわけで、ルーキーのサムは途中から野球そっちのけで、売人を罠に嵌めるために活動させられます。
尤も、球界からドラッグを一掃させるアイディアを思いついたのはベアーズの監督です。ただし、こんなことで球界の三分の二に及んでいた麻薬を浄化することなどできないでしょう。それどころか、メジャーリーグは壊滅的な打撃を受け、再起は不能となるはずです。
こうした状況であれば、明るみに出ないよう必死にもみ消そうとするのが最も現実的な手段だと思います。
選手としての成長や、試合における駆け引きを楽しみたいと考えている人にとっては不満足な内容かも知れませんが、これも立派な野球小説です。
かつて存在した薬物問題を振り返るとともに、今後も起こりうる事態として予習しておくのもよいでしょう。
※:ロスワイラーは、日本向けのサービスといえる『赤毛のサウスポー〈PART2〉』を書いたが、『スーパールーキー』でもいきなりメジャーデビューしたボブ・ホーナーの話がちょこっと出てくる。とはいえ、当時、ホーナーはアトランタ・ブレーブスに在籍しており、ヤクルト・スワローズに入団するのは数年後のことである。
『スーパールーキー』二宮磬訳、集英社文庫、一九九四
野球小説
→『ユニヴァーサル野球協会』ロバート・クーヴァー
→『12人の指名打者』ジェイムズ・サーバー、ポール・ギャリコほか
→『野球殺人事件』田島莉茉子
→『メジャー・リーグのうぬぼれルーキー』リング・ラードナー
→『ドジャース、ブルックリンに還る』デイヴィッド・リッツ
→『ナチュラル』バーナード・マラマッド
→『シド・フィンチの奇妙な事件』ジョージ・プリンプトン
→『プレーボール! 2002年』ロバート・ブラウン
→『アイオワ野球連盟』W・P・キンセラ
→『赤毛のサウスポー』ポール・R・ロスワイラー
→『プリティ・リーグ』サラ・ギルバート
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