読書感想文(関田涙)

関田 涙(せきた・なみだ)

『恐怖の愉しみ』

平井呈一といえば、ある年齢以上の恐怖小説好きにとっては無視することのできない存在です。子どもが読むものと思われていた西洋の怪談を、大人の鑑賞に堪える作品として翻訳、紹介してくれた功績はとても大きい。 彼が編訳した東京創元社の『世界恐怖小説全…

『ルネサンスへ飛んだ男』マンリー・ウェイド・ウェルマン

Twice in Time(1957)Manly Wade Wellman 人づき合いが苦手な僕にとって、孤独を癒やしてくれる芸術を生み出す作家、音楽家、映画監督、漫画家などは生きてゆく上でなくてはならない存在です。 なかでも、最も感謝しているのは翻訳家かも知れません。何しろ…

『インディアン・ジョー』W・P・キンセラ

The Fencepost Chronicles(1986)W. P. Kinsella 映画『フィールド・オブ・ドリームス』の原作『シューレス・ジョー』で知られるW・P・キンセラは、野球小説だけでなく、ファーストネーション(カナダの先住民のこと。米国ではネイティブアメリカンやイン…

『ドロシアの虎』キット・リード

Tiger Rag(1973)Kit Reed(a.k.a. Kit Craig, Shelley Hyde) キット・リードはフェミニストSF作家で、過去三度アザーワイズ賞(旧ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア賞)の候補になっています。 短編に秀でたタイプ(※)とのことですが、我が国で刊行…

『鉛の夜』ハンス・ヘニー・ヤーン

Die Nacht aus Blei(1956)Hans Henny Jahnn ハンス・ヘニー・ヤーンはドイツの作家ですが、第一次世界大戦の際は入隊を避けるためノルウェーに逃げ、ナチス政権が同性愛者を迫害すると今度はデンマーク領のボーンホルム島に逃れました。 バイセクシャルの…

『死の勝利』ガブリエーレ・ダンヌンツィオ

Trionfo della morte(1894)Gabriele D'Annunzio 古本を実店舗で購入する際、これまでに数々の失敗をしてきました。「ダブって購入してしまった」「カバーと本体が違う本だった」「書き込みが沢山あった」「一部が切り取られていた」「全巻セットだと思った…

『マダム・20』ティム・クラベー

Vertraging(1994)Tim Krabbé ティム・クラベーの『マダム・20』(写真)は、オランダ推理作家協会の年間最優秀賞(Gouden Strop)を受賞していますが、邦訳は大手の出版社ではなく、今は亡き青山出版社から刊行されました。 この出版社のことは、ほとんど…

『ケンタウロス』ジョン・アップダイク

The Centaur(1963)John Updike ジェイムズ・ジョイスは、二十世紀初頭のダブリンにホメロスの『オデュッセイア』を対応させた『ユリシーズ』を執筆しました。 他方、ジョン・アップダイクは一九四〇年代のペンシルベニア州シリングトン(アップダイクの故…

『ミュータント』ルイス・パジェット

Mutant(1953)Lewis Padgett 昨年末、ヘンリー・カットナーの「ギャロウェイ・ギャラガー」シリーズ全五作を一冊にまとめた『ロボットには尻尾がない』が出版されました。未訳は一編だけだったとはいえ、一九四〇年代に書かれた変なSFを今さら刊行してく…

『西部の小説』

以前書いたとおり、古く稀少な西部小説は入手が難しい。 ヤフオクでたまに出品されても、終了間際になるとわらわらと人が集まり、あっという間に値が吊りあがってしまいます。西部小説の愛好家はそれほど多くないと思うのですけれど、一体どこに潜んでいるの…

『バリー・リンドン』ウィリアム・メイクピース・サッカレー

The Luck of Barry Lyndon(1844)William Makepeace Thackeray 産業革命の起こったヴィクトリア朝(一八三七〜一九〇一)は、イギリスの黄金時代といわれます。また、この時代は芸術が大きく花開いたことでも知られています。 文学においても、今では「文豪…

『地下街の人びと』ジャック・ケルアック

The Subterraneans(1958)Jack Kerouac ジャック・ケルアックは、紛れもなくスピードスターです。 彼の特徴は、思いついたことを一気呵成に書き上げることで、そのスタイルは「即興」と呼ばれました。 出世作の『路上(オン・ザ・ロード)』は元々、紙をつ…

『裸者と死者』ノーマン・メイラー

The Naked and the Dead(1948)Norman Mailer ノーマン・メイラーの『裸者と死者』(写真)は刊行されるや否や大反響を呼び、翌年には日本でも翻訳出版されました(改造社)。 第二次世界大戦を描いたアメリカ文学としては、ジョセフ・ヘラーの『キャッチ=2…

『ウサギ料理は殺しの味』ピエール・シニアック

Femmes blafardes(1981)Pierre Siniac 以前、フランスのミステリーや暗黒小説が好きと書きましたが、英米のそれに馴染んでいる人にとっては相当ヘンテコに思えるであろう作家がいます。そのひとりがピエール・シニアックです。 変わった作風のせいか、邦訳…

『見知らぬ島への扉』ジョゼ・サラマーゴ

O Conto da Ilha Desconhecida(1997)José Saramago『見知らぬ島への扉』(写真)は、一九九八年にノーベル文学賞を受賞したジョゼ・サラマーゴが、その前年に書いた作品です(原書はポルトガル語だが、日本語版は英語からの重訳)。 サラマーゴというと、…

『白い犬』ロマン・ガリー

Chien blanc(1970)Romain Gary 僕は文庫本が大好きなので、古書店にゆくと一目散に翻訳小説の文庫コーナーを目指します。 若い頃は、サンリオSF文庫、ハヤカワ文庫、創元文庫などに探求書が多かったのですが、それらは割と簡単にみつかりました。戦前に…

『ドラキュラのライヴァルたち』『キング・コングのライヴァルたち』『フランケンシュタインのライヴァルたち』

The Rivals of Dracula: Stories from The Golden Age of Gothic Horror(1977)/The Rivals of King Kong: A Rampage of Beasts(1978)/The Rivals of Frankenstein: A Gallery of Monsters(1977)Michel Parry ミシェル・パリー(※1)はホラー小説のア…

『イヴの物語』ペネロピ・ファーマー

Eve: Her Story(1988)Penelope Farmer トパーズプレスの「シリーズ百年の物語」は六冊しか刊行されませんでした。 ラインナップをみると、ミステリー、スリラー、SF、ファンタジーなので、ハヤカワ文庫や創元文庫に近い線を狙ったのかも知れません。実際…

『キラー・オン・ザ・ロード』ジェイムズ・エルロイ

Killer on the Road(originally published as "Silent Terror")(1986)James Ellroy ジェイムズ・エルロイの『キラー・オン・ザ・ロード』(写真)は、「ロイド・ホプキンス」三部作と「LA」四部作の間に出版されたノンシリーズの長編です。 エルロイの…

『スクリーン』バリー・N・マルツバーグ

Screen(1968)Barry N. Malzberg 以前、『決戦! プローズ・ボウル』を取り上げたときは、バリー・N・マルツバーグについてほとんど知識がなく、SF作家であることくらいしか知らなかったのですが(※1)、その後、ちょっと変な本を入手したので紹介した…

『名前のない通り』マルセル・エイメ

La Rue sans nom(1930)Marcel Aymé マルセル・エイメの『名前のない通り/小さな工場』(写真)には、長編小説『名前のない通り』と短編小説「小さな工場」が収録されています。 エイメは我が国において、短編小説(連作短編を含む)と戯曲が主に紹介され…

『ハロウィーンがやってきた』レイ・ブラッドベリ

The Halloween Tree(1972)Ray Bradbury 意外なことに『ハロウィーンがやってきた』(写真)は、レイ・ブラッドベリが初めて書いた児童向けの長編小説だそうです。 といっても、ブラッドベリは『たんぽぽのお酒』や『何かが道をやってくる』といった作品で…

『おっぱいとトラクター』マリーナ・レヴィツカ

A Short History of Tractors in Ukrainian(2005)Marina Lewycka マリーナ・レヴィツカの処女作『おっぱいとトラクター』(写真)は、ボランジェ・エブリマン・ウッドハウス賞やウェイバートン・グッドリードアワードを受賞しています。 ウッドハウス賞を…

『ピッチサイドの男』トーマス・ブルスィヒ

Leben bis Männer(2001)Thomas Brussig トーマス・ブルスィヒはドイツ民主共和国(東ドイツ)出身の作家です。 ベルリンの壁崩壊前後の東ドイツをテーマにすることが多いものの、アンナ・ゼーガースの『第七の十字架』などと異なり、ライトな作風が特徴で…

『月は地獄だ!』ジョン・W・キャンベル

The Moon is Hell!(1950)John W. Campbell ジョン・W・キャンベルはSF作家にして、SF誌の編集長でもあります。実作よりも編集の方で活躍したとのことで、日本でいうと福島正実みたいな感じでしょうか。 最も有名な作品は、映画『遊星よりの物体X』の…

『女になりたい』リタ・メイ・ブラウン

Rubyfruit Jungle(1973)Rita Mae Brown リタ・メイ・ブラウン(※1)は、フェミニズム作家で、公民権運動やLGBTの社会運動にもかかわってきました。テニス選手のマルチナ・ナブラチロワのかつての恋人、ボブ・ディランの「Rita May」(※2)のモデルと…

『日曜日は埋葬しない』フレッド・カサック

On n'enterre pas le dimanche(1958)Fred Kassak ミステリー作家の書いた、いわゆる普通のミステリー小説を扱うのは、フレドリック・ブラウンの『不思議な国の殺人』以来、何と二年ぶりです。 感想を書いていないだけでミステリーも読んではいるものの、ほ…

『ラブストーリー、アメリカン』

Love is Strange: Stories of Postmodern Romance(1994)Joel Rose, Catherine Texier『ラブストーリー、アメリカン』(写真)は、ジョエル・ローズとキャサリン・テクシエが編んだ恋愛アンソロジーです。 とはいえ、甘く切ない短編小説が読みたい方には全…

『魚が出てきた日』ケイ・シセリス

The Day the Fish Came Out(1967)Καίη Τσιτσέλη『魚が出てきた日』(写真)は、『その男ゾルバ』などで知られるギリシャの映画監督マイケル・カコヤニスが脚本・監督した作品で、本書はそれをケイ・シセリスがノベライズしたものです。 シセリスは両親がギ…

『黒い黙示録』カール・ジャコビ

Revelations in Black(1947)Carl Richard Jacobi カール・リチャード・ジャコビ(※)は活動期間が長い割に寡作のせいか、日本では単著がひとつしか出ていません。その貴重な一冊が『黒い黙示録』(写真)です。 短編を量産しないタイプの作家(例えば、ス…