読書感想文(関田涙)

関田 涙(せきた・なみだ)

『火の娘たち』ジェラール・ド・ネルヴァル

Les Filles du feu(1854)Gérard de Nerval ジェラール・ド・ネルヴァルの『火の娘たち』(写真)は、彼が自殺する前年に刊行された最後の書籍です。また、このブログでは珍しく、誰もが知っている古典でもあります。 といって、長編でも、同一のテーマに沿…

『魔術師が多すぎる』ランドル・ギャレット

Too Many Magicians(1966)Randall Garrett ランドル・ギャレットの「ダーシー卿(Lord Darcy)」シリーズは、科学の代わりに魔術が発達したパラレルワールドを舞台にしたSFミステリーです。 長編が一編、短編が十編書かれ、日本では番外編の「The Spell …

『死んだふり』ダン・ゴードン

Just Play Dead(1997)Dan Gordon 映画『ワイアット・アープ』『告発』『ザ・ハリケーン』『アサインメント』などの脚本家として知られるダン・ゴードンの処女小説が『死んだふり』(写真)です。「中編程度のボリューム」「プレミアのついていない安価な文…

『レクトロ物語』ライナー・チムニク

Geschichten vom Lektro(1962)/Neue Geschichten vom Lektro(1964)Reiner Zimnik 美術学校出身のライナー・チムニクは「イラストも自分で描く児童文学者」というより「文章も書く画家」といった方がよいかも知れません。実際、文よりも絵の比率の方が高…

二択でみつける一万円分の海外文学

いくつかの設問に答えることで、あなたに合った一万円分の海外文学がみつかります

『黒の召喚者』ブライアン・ラムレイ

The Caller of the Black(1971)Brian Lumley ブライアン・ラムレイは、H・P・ラヴクラフトが亡くなった年(死の九か月後)に生まれた作家です。 生まれ変わりかどうかは知りませんが、彼もクトゥルフ神話に魅せられ、後に書き手となったラヴクラフティア…

『心霊博士ジョン・サイレンスの事件簿』アルジャーノン・ブラックウッド

John Silence, Physician Extraordinary(1908)Algernon Blackwood 前回の『幽霊狩人カーナッキの事件簿』に続き、オカルト探偵シリーズである、アルジャーノン・ブラックウッドの『心霊博士ジョン・サイレンスの事件簿』(写真)を取り上げます(※)。 カ…

『幽霊狩人カーナッキの事件簿』ウィリアム・ホープ・ホジスン

Carnacki, The Ghost-Finder(1913)William Hope Hodgson オカルト探偵といえば、ブラム・ストーカーのエイブラハム・ヴァン・ヘルシング、シェリダン・レ・ファニュのマルチン・ヘッセリウス、E&H・ヘロンのフラクスマン・ロウ、ロバート・E・ハワード…

『トラストDE』イリヤ・エレンブルグ

Трест Д.Е.: История гибели Европы(1923)Илья Эренбург イリヤ・グリゴーリエヴィチ・エレンブルグの『トラストDE』(写真)は、日本において、一体、何回出版されたことでしょう。 一九二九年の新潮社『世界文学全集』をはじめとして、民主評論社、修…

『道のまん中のウェディングケーキ』

The Wedding Cake in the Middle of the Road: 23 Variations on a Theme(1992)Susan Stamberg, George Garrett このブログでアンソロジーをほとんど扱ってこなかったのには、以下のような理由があります。「好きな作家と嫌いな作家の差が激しいので、単著…

『コスミック・レイプ』シオドア・スタージョン

The Cosmic Rape(1958)Theodore Sturgeon SFファンは絶賛するのにもかかわらず、「何のこっちゃ分からない」と首を傾げたくなる作家がいます(グレッグ・イーガンなどはSFファンにもよく分からないらしいから除外する。また、僕の知識はン十年前で止ま…

『魚雷をつぶせ』ジョルジュ・ランジュラン

Torpillez la torpille(1964)George Langelaan 早川書房の叢書「異色作家短篇集」で個人短編集が刊行された十七人の作家の、それ以外の書籍を取り上げようと思い立ちましたが、最も選択肢が少ないのがジョルジュ・ランジュランです(※)。 何しろ『蠅』以…

『夜の冒険者たち』ジャック・フィニイ

The Night People(1977)Jack Finney 外国語をカナ書きする際、最大の問題は、表記にばらつきが出てしまうことです。 厄介なのが固有名詞で、このブログの場合、特に人名の表記に悩まされています。「統一のため、書籍に記されている著者名とは異なる表記を…

『盲目の梟』サーデグ・ヘダーヤト

بوف کور(1937)صادق هدایت オマル・ハイヤームの『ルバイヤート』の編纂でも知られるサーデグ・ヘダーヤトは、現代ペルシア文学における最も重要な作家です。「文学イコール韻文」だったペルシアにおいて、散文を普及させた功績が讃えられています。 日本に…

『そうはいっても飛ぶのはやさしい』イヴァン・ヴィスコチル/カリンティ・フリジェシュ

Vždyť přece létat je snadné(1963)Ivan Vyskočil / Karinthy Frigyes『そうはいっても飛ぶのはやさしい』は、生まれ育った国も世代も異なるふたりの作家を抱き合わせた、非常に珍しい本です。 併録は、ボリュームのある文学全集などではよくありますが、…

『牡猫ムルの人生観』E・T・A・ホフマン

Lebens-Ansichten des Katers Murr nebst fragmentarischer Biographie des Kapellmeisters Johannes Kreisler in zufälligen Makulaturblättern(1819, 1821)E. T. A. Hoffmann E・T・A・ホフマンの「A」は、モーツァルトと同じ「アマデウス」です。そ…

『ドイツの田舎宿で』キャサリン・マンスフィールド

In a German Pension(1911)Katherine Mansfield 短編しか書かなかったキャサリン・マンスフィールドは、日本でも数多くの短編集が発行されています。原書どおりに収録したものもあれば、独自に編まれたものもあります。 例えば、文化書房博文社の『ドイツ…

『スイミング・プール』フランソワ・オゾン

Swimming Pool(2003)François Ozon フランソワ・オゾン監督の『スイミング・プール』は、ひどい映画でした。 人物造形もストーリーも滅茶苦茶で、最初から回収する気のない謎を投げっ放して終わるという質の悪さが目立ちます。「どう解釈しようが自由」な…

『アイオワ野球連盟』W・P・キンセラ

The Iowa Baseball Confederacy(1986)W. P. Kinsella W・P・キンセラは、二〇一六年に、カナダにおける安楽死法で自ら死を選びました(『かも猟』のユゴー・クラウスも合法的な安楽死だった)。 彼は、一九八〇年代以降の代表的な野球小説の書き手である…

『砂塵の町』マックス・ブランド

Destry Rides Again(1930)Max Brand マックス・ブランドは多作な作家でしたが、ウエスタン小説は日本で売れないというジンクス(事実?)があるせいか、訳本は僅か二冊のみ。 しかも、代表作の『砂塵の町』(写真)は一九八五年になって、ようやく翻訳され…

『ポルの王子さま』カジノ=リブモンテーニュ

Le petit prince(1972)Kazino Ribumontênyu モリー・フルートの『鏡の国のアリス』は、原題が同じというだけで名作と全く同じ邦題にしてしまった悪しき例ですが、カジノ=リブモンテーニュの『ポルの王子さま』(写真)は違います。原題は『Le petit prince…

『消されない月の話』ボリス・ピリニャーク

Повесть непогашенной луны(1925)Борис Пильняк 春陽文庫というと、探偵小説、時代小説、大衆小説などを思い浮かべる人もいると思いますが、戦前は「春陽堂文庫」という名で、国内外の文学作品を刊行していました(春陽堂文庫、日本小説文庫、世界名作文庫…

『笑ガス』P・G・ウッドハウス

Laughing Gas(1936)P. G. Wodehouse このブログで、P・G・ウッドハウスを取り上げるのは三回目となります。 ウッドハウスは二〇〇五年に突如、数多くの書籍が翻訳されました。あれよあれよという間に本棚がウッドハウスで埋まり、欣喜雀躍しました。 し…

『世界珍探検』ピエール・アンリ・カミ

La famille Rikiki(1928)/Cami-Voyageur ou Mes aventures en Amérique(1927)Pierre Henri Cami このブログで取り上げる三冊目のピエール・アンリ・カミは、『世界珍探検』(写真)(※1)です。 ブログの書名一覧をみていただくと分かるとおり、僕は「…

『英雄たちと墓』エルネスト・サバト

Sobre héroes y tumbas(1961)Ernesto Sabato エルネスト・サバトの『英雄たちと墓』(写真)は、世界の目がラテンアメリカ文学に注がれるきっかけとなったといわれるほど重要な作品です。 処女作の『トンネル』から十三年をおいて発表されただけあって、質…

『トンネル』エルネスト・サバト

El túnel(1948)Ernesto Sabato ふと気づくと、昨年、一昨年とアルゼンチン文学を一冊も扱っていませんでした。重要な作家を数多く輩出している国の文学に、二年以上も触れなかったことに自分でも驚いています(感想を書いていないだけで読んではいるけど)…

『フェリシアの旅』ウィリアム・トレヴァー

Felicia's Journey(1994)William Trevor 前回同様、短編小説の名手とされる作家の「長編小説」を取り上げてみます。 ウィリアム・トレヴァーは、訳本の多くが短編集(日本オリジナル編集を含む)で、アンソロジーや雑誌にも数多くの作品が収録されています…

『鏡よ、鏡』スタンリイ・エリン

Mirror, Mirror on the Wall(1972)Stanley Ellin 優れた短編の書き手として知られるスタンリイ・エリン(※1)。 ところが、彼はデビューした一九四八年から一九七八年までの三十年間に、たった三十五の短編しか書きませんでした(※2)。しかも、そのほと…

『オズワルド叔父さん』ロアルド・ダール

My Uncle Oswald(1979)Roald Dahl ロアルド・ダールほどの人気作家になると、絶版の本を選ぶのが大変です……。 が、彼も「異色作家短篇集」つながりなので、取り上げざるを得ません。「困ったなあ」と思いつつインターネットで検索すると、何と現在、『オズ…

『ニグロ民話集』リチャード・ドーソン

American Negro Folktales(1967)Richard Dorson 米国民間伝承の父といわれる民俗学者のリチャード・ドーソンは、フィールドワークで数多くの民話を集めました。 また、「都市伝説(Urban Legend)」「フェイクロア(Fakelore:捏造された民話)」という概…