読書感想文(関田涙)

関田 涙(せきた・なみだ)

『極短小説』

The World's Shortest Stories(1995)Steve Moss/The World's Shortest Stories of Love and Death(2000)Steve Moss, John M. Daniel

 いわゆる「タイパ」と読書は、最悪の相性です。時間効率を求めるのなら、本、特に小説なんて絶対に手にとってはいけません。
 とはいえ、今の時代にもショートショートなら通用するかも知れません。しかも、短ければ短いほどよいでしょう。

『極短小説(きょくたんしょうせつ)』(写真)と名づけられたアンソロジーは、三十年以上前に出版されました。
「まえがき」を読むと、当時すでに活字離れが進行していたことが分かりますが、人々がSNSに慣れている現代なら、なおさら広く受け入れられそうです。

 原書は、最大で五十五の単語を用いた小説(Fifty-Five Fiction: FFF)という縛りがありました(タイトルは六語以内。そうしないと、本文よりも長い題名の作品が集まってしまう)。
 短ければどんなジャンルでも構いませんが、「小説」でなければ採用されません。詩やシナリオは勿論、単なるジョークも駄目なのです(それを許すと、角川文庫の『ポケット・ジョーク』みたいになる)。

 それによって、ほとんどはオチのあるストーリーになりました。
 実をいうと、この形式の最大の利点は、読者に考える隙を与えない点です。つまり、結末まで一気に駆け抜けるため、多少陳腐なオチでも粗が目立たないのです。

 一方、意外にも多かったのが感動系のストーリーです。
 俳句や短歌とと同様、言葉が限られていることが、却って深みを生むのでしょうか。

 なお、邦訳は、一編二百文字以内で訳しています。
 一編一編に和田誠のイラストがついているのも嬉しいですね。

 過去にも、極めて短いショートショートを集めた短編集やアンソロジーはありましたが、本書の特徴は公募作品を集めた点にあります(第二集の一部は依頼原稿。例えば、チャールズ・M・シュルツ、ノーマン・リア、バーナビー・コンラッド三世など)。
 果たして、星新一の最もダメな作品と、素人の一世一代の作品のどちらがよいのでしょうか。答えを求めているのではなく、その問い自体が普遍だと思います。

 原書は二冊出版され、計二百九十一編が収録されています。
 訳本は、語呂合わせなど上手く訳せないものや、日本人には分かりにくいものを省いた百五十七編に絞られました。
 折角なので、感想にも制約を設けます。三十字以内、かつネタバレにならないように書いてみます(面白かった作品のみ)。
 ピンクの文字が第一集、緑の文字が第二集の作品です。

代役」シェリー・ペレミアー
 役を奪うのではなく、被害者にも相応しい役を与えるのがミソ。

午後の死」プリシラ・ミントリング
 描写する文字数が足りないことを見事に逆手に取っています。

夜は更けゆく」ディック・スキーン
 ルールの盲点ですが、制約を最も有効に使っているともいえます。

庭の中で」ホープ・A・トーレス
 恋人が歯の浮くような比喩を使うか、予め確認しておきましょう。

美容院にて」エリザベス・ユーラ
 例えば、山崎は、ヤマさんと呼ばれたり、ザキさんと呼ばれたり。

若い恋人たち」ディヴィッド・W・メイヤーズ
 恋人でも気持ちがひとつとは限らないので、先行は不利ですね。

第二のチャンス」ジェイ・ボーンステル
 最高の相手と、これ以上ない最悪のタイミングで出会った悲劇。

永遠の浜辺」エドワード・E・ゴトー
 いくつになっても、男が考えることなんてこんなもんです。

デザートだけ」レベッカ・L・コナー
 特殊な体質同士の奇跡の出会い。これはもう恋に落ちるしかない。

五時二十五分発の電車」マーク・コーエン
 他人の事情を無視すると嘆く本人が、同じ罠に陥っています。

感謝の気持ち」アンドルー・E・ハント
 豊かな人生とは金や名誉ではなく、これに尽きます。

絶体絶命」ダン・アンドルーズ
 具体的な描写がなくとも伝わるのは、この恐怖が万国共通だから。

空前絶後のパーティー」ディック・スキーン
 長生きより名を残すことを選んだものの、結局こんなもんです。

失われた言葉」E・カール・フォールク・ジュニア
 息子にとって年配の男性が発したのは父の言葉に相違ありません。

人は見かけ」カーン・ロウグレン
 普通はみかけで判断してもらいのですが、そうでない場合も……。

エドマンドの発見」ポール・タッカー
 死んでみたら不便なことばっかりって感じでしょうかね。

バス停留所」アンドルー・E・ハント
 平和だけど退屈な場所を、人は「天国」と呼びます。

芸術対ビジネス」ロン・バスト
 生きるために必死に編み出したものは美しくもあります。

ギター」ジョン・M・ダニエル
 オチは大したことありませんが、その過程がぶっ飛んでいます。

戦場の呼び声」ロン・バスト
 嫌なことがあったらいつでも母親の胸のなかに逃げ込みましょう。

グラップルメイヤー」シャーリー・パウエル
 長編小説を極限まで縮めたようで、想像力が刺激されます。

街頭の死」H・W・モス
 緊急の際、真偽は重要ではありません。まして突然の死の前では。

ひとり遊び」マリリー・スワーゼク
 誰かのために働いた時間が、いかに貴重だったかに気づく哀しみ。

救助員」D・レイ・ラムジー
 昭和の少女漫画のようなベタな出会いも五十五文字だと新鮮です。

延滞料」ジェニファー・セイラー
 この場所は嫌いですが、この匂いは好きです。

彼女の残した料理本」クリスチャン・フィンク
 レシピの形式で、苦い恋を描いています。

X線視力」ビリー・バストン
 鉄の男のアソコは、やはり鉄のように硬いのでしょうか。

時と金」ダグ・ロング
 いくら時間をかけようが、金を生み出せる人は限られます。

荒馬に乗る」L・ソス
 恋はふたりで分け合うことで生まれ、奪い合うことで終わります。

プランB」ドリス・パークランド
 目的は同じでも、思い描く手段が異なることはよくあります。

暗い嵐の夜だった……」チャールズ・M・シュルツ
 ピーナッツファンには説明不要。逆に知らないと意味不明かも。
→『完全版ピーナッツ全集』チャールズ・M・シュルツ

週末は予約ずみ」ローラ・ゲティング
 結婚したのと同じ理由で離婚するなんてあり得ないと思いきや。

不滅の愛」ダニエル・ヘイズ
 強引に襲うのではなく、口説くという手もあります。

遺言」ロブ・オースティン
 遺言を残しても生前の人望のなさのせいで台なしです。

ひらけ、ゴマ!」ベティー・フィニー
 シリアルキラー最強の武器は意外なものでした。

意外な犯人」ディヴィッド・クロスランド
 まさか、ミステリーマニアなら真っ先に除外する人物だったとは!

クローン・ハンター」ビル・クラウン
 クローンが皆、こんな感じだったら却って楽しい気がします。

銀の弾丸」ブラッド・D・ホプキンズ
 経営者がこんなエピソードを語ったら、眉に唾をつけられます。

臨終のメッセージ」トルーディー・フレニケン
 実は、臨終のつもりはなく、緊急のメッセージだったわけです。

主の恩寵」ローシェル・ラービン
 主は、改宗者の祈りも平等に聞いてくださいます。

現代医学」オーガスト・サレミ
 どのような形でも生かすべきか考えさせられます。

捜索」ロバート・トンプキンズ
 心理はこのようにして歪んでゆきます。

犬権GOGO」カート・ヴァヴラ
 犬は本当は人の言葉が分かるのに、喋らなくなった理由はこれ。

『極短小説』浅倉久志訳、新潮文庫、二〇〇四

アンソロジー
→『12人の指名打者
→『エバは猫の中
→『ユーモア・スケッチ傑作展
→『怪奇と幻想
→『道のまん中のウェディングケーキ
→『魔女たちの饗宴
→『壜づめの女房
→『三分間の宇宙』『ミニミニSF傑作展
→『ミニ・ミステリ100
→『バットマンの冒険
→『世界滑稽名作集
→「恐怖の一世紀
→『ラブストーリー、アメリカン
→『ドラキュラのライヴァルたち』『キング・コングのライヴァルたち』『フランケンシュタインのライヴァルたち
→『西部の小説
→『恐怖の愉しみ
→『アメリカほら話』『ほら話しゃれ話USA
→『世界ショートショート傑作選
→『むずかしい愛
→『魔の配剤』『魔の創造者』『魔の生命体』『魔の誕生日』『終わらない悪夢
→『天使の卵』『ロボット貯金箱
→『ラテンアメリカ五人集