読書感想文(関田涙)

関田 涙(せきた・なみだ)

『ミニ・ミステリ100』

Miniature Mysteries: 100 Malicious Little Mysteries(1981)Isaac Asimov, Martin Harry Greenberg, Joseph D. Olander

 前回に続いて、アイザック・アシモフ、マーティン・H・グリーンバーグ、ジョゼフ・D・オランダーの三人が編んだショートショートのアンソロジーを取り上げます。

『ミニ・ミステリ100』(写真)は、最初三分冊で刊行されました。
 なぜ三冊に分けたかというと、上中下巻でそれぞれ訳者が異なるからです。恐らく、ひとりで訳すと時間がかかるため、三つに分けて三人の訳者に依頼をしたのでしょう(刊行は一冊ずつ三か月連続だった)。

 その後、それらを一冊にまとめたものが刊行されました。
 最近は、分厚い文庫本を新装版にするとき、分冊される傾向にあります(当然、高くなる)が、こちらは逆のパターンですね。尤も、現在はどちらも品切れなので、古書を購入することになります。
 掲載順は異なるものの、収録作品は同じですから、どちらを入手しても結構です。

 とはいうものの、ショートショートは読む順番が案外と大切だったりします。
 似た傾向のものばかり続けて読む方がよいのか、ジャンルが異なるものを取り混ぜて読む方がよいのか。はたまた、ショートショート集でまとめて読むべきか、中・短編の箸休めが最適なのか……は意見が分かれそうです。とにかく色々なパターンを試してみて、自分に合った楽しみ方をみつけるべきかも知れません。
 個人的には、マンリー・ウェイド・ウェルマンの『悪魔なんかこわくない』のように、ショートショートと短編がセットになっているのが好きです。前振りのような、全然関係ないような、微妙な距離感がよいのでしょうね。

 さて、今回も気に入った作品のみ簡単にコメントします(ピンク字は上巻、緑字は中巻、オレンジ字は下巻)。

いたずらか、ごちそうかTrick or Treat(ジュディス・ガーナー)
 英国から米国へ引っ越してきたため、ハロウィンの行事を知らなかった夫婦。そこへ少女が現れて「トリックオアトリート」というのですが……。こんな恐ろしい伏線を張られたら、ハロウィンの風習を知らなかったとしても断れません。

しっぺ返し」An Easy Score(アル・ナスバウム)
 ふたり組の強盗に金を奪われた老婆。少額の生活補助金を取られたのに、大金を奪われたと嘘をついたのは、警察に本気で捜査させるためのほかに、もうひとつ理由がありました。老婆の作戦が見事に決まって痛快な一編です。

あるべき姿」The Way It's Supposed To Be(エルシン・アン・グラファム)
 ラストになって、少年にとっての「あるべき姿」が分かり、ゾッとします。

サーストンさん、ありがとう」Thank You, Mr. Thurston(エド・デュモント)
 抽象画が得意な画家が、そっくりな肖像画を描くということは……。

最後の微笑」The Last Smile(ヘンリー・スレッサー
 ある意味、理想的な死に方です。僕だったら、教誨よりもこっちの方がありがたい。
→『快盗ルビイ・マーチンスン』ヘンリー・スレッサー

最高の場所」The Best Place(A・F・オレシュニック)
 優秀な若手医師が、拘置所の診療室なんかに勤める理由は……。確かに最高の場所かも知れません。

」The Bell(アイザック・ローマン)
 主人公が殺そうとしているのは誰なのか、最後になって分かるという仕掛け。結局、自分が一番大切なんですね。続編の「箱」も続けて収録されています。

医師とアヘン中毒者」The Physician and the Opium Fiend(R・L・スティーヴンス)
 アヘンを求めて医師の研究室に忍び込むアヘン中毒者。アヘンは全く別の人格を生み出すと医師は諭しますが……。著者名すらパロディになっています(エドワード・D・ホックの別名)。

五番目の男」Every Fifth Man(エドワード・D・ホック)
 敵の捕虜になった二十三人。五人ごとにひとりを処刑するという命令が五回くだりますが、「わたし」は最も背が低いため、どちらから数えても五の倍数になりません。ところが、五回目に負傷していた兵士が死に、十番目になってしまいます。それでも生き残れた理由は……。

そして、今」The Way It Is Now(エレイン・スレーター)
 男と女は考えていることが、かくも異なります。だからって、それだけで殺されちゃったら堪りませんが……。

死者と機転」The Quick and the Dead(ヘレン・マクロイ)
 ベイジル・ウイリングものの本格推理短編です。吃驚はしないけど、さすがマクロイ、安定していますね。

保険の練習」An Exercise in Insurance(ジェイムズ・ホールディング)
 几帳面すぎるのが駄目というより、練習と本番の違いを明らかにしておかないといけません。

一つ編んで、二つ編んで……」Knit One, Purl Two......(トマシーナ・ウィーバー
 裁判の傍聴が趣味のおばさんたち。みかねた裁判官が注意しますが……。落ちは読めるけど、この手の話は大好きです。

父性本能」The Paternal Instinct(アル・ナスバウム)
 刑務所で雀の子を助けて、育てる受刑者。微笑ましい話と思いきや、ラストの一行が凄まじい。

しぶとい相手」Shatter Proof(ジャック・リッチー)
 妻の雇った殺し屋が現れて、絶体絶命のピンチに陥ります。咄嗟にここまで頭が働けば、どんな悪党でも生きている価値があるというものです。

ダイヤモンドで一儲け」A Deal in Diamonds(エドワード・D・ホック)
 盗んだダイヤを噴水に隠し、深夜に取りにゆくと……。木を隠すなら森のなかといいますが、それが通用しないパターンです。

猫的重罪」A Feline Felony(ラール・J・リトク)
 不思議なショートショートです。さっぱり意味が分からないけど、悪くはない。

アルマAlma(アル・ナスバウム)
 身寄りのない子どもの面倒を見続けている夫婦のもとに、アルマという少女がやってきます。『エスター』のような少女かと思いきや……。

旅の子供」Child on a Journey(フレッド・S・トビー)
 この子は大きくなったら、サキのヴェラのようになりそうです。

奇病」A Very Rare Disease(ヘンリー・スレッサー
 出張中に、ある異変に気づいた夫は……。スレッサーらしいスマートな一編です。

ミセズ・トゥイラーのお買い物」Mrs. Twiller Takes a Trip(ラール・J・リトク)
 猫たちのために万引きをしている老婦人。彼女は、ある日、とんでもないものを盗みます。やってることはひどいのに、不思議と憎めません。

お喋り野郎Big Mouth(ロバート・エドモンド・オールター)
 キャンプ中に冗談で銃撃された男。なぜ犯人が分かったかというと……。シンプルすぎて笑えます。

探偵三七五号」Operative 375(ゲイリー・ブランドナー
 通信教育で探偵学講座を開講しているインチキ経営者のところに、そこの卒業生の青年が現れ……。パーシヴァル・ワイルドの『探偵術教えます』と同様、通信講座は優秀な人材を育てるのです。

買い手が損をする」Caveat Emptor(ケイ・ノルティ・スミス)
 ハリウッドで成功したいという男が悪魔と契約しようとします。でも、彼のアイディアは借りものばかり。ということは、当然、魂も……。

複製の店」The Facsimile Shop(ビル・プロンジーニ、ジェフリー・ウォールマン)
 美術品の複製を扱う店を開いた男の元に、怪しげな男たちがやってきて品物を破壊します。警備保護協会に入会しないと、店のものがぶっ壊されるかもと脅しますが……。複製が専門ですから、当然こんなものまで……。

プロ」aaa(ロバート・H・カーティス)
 ある婦人が旅先で強盗に遭います。孤独な年配の婦人なのに、なぜ旅ばかりしているんだろうと思ったら、なるほど、そういうわけですか。

とらわれびと」The Prisoner(エドワード・ウェレン)
 宿敵がひき逃げ事故を起こすのを目撃しますが、私怨と思われるので通報できません。さらに、「とらわれびと」の彼には自由がない。囚人か何かだと思わせて、実は……というのがミソです。

スーイー・ピル」The Sooey Pill(エレイン・スレーター)
 人口過密のため、二十一歳になると、スーイー・ピルが配られます。それは自殺薬で、人々は四十歳くらいまでに自ら命を断つのです。これはショートショートというより、長編になりそうなアイディアです。しかも、ミステリーではなくSF。

『ミニ・ミステリ100』〈上〉、山本俊子訳、ハヤカワ文庫、一九八三
『ミニ・ミステリ100』〈中〉、田村義進訳、ハヤカワ文庫、一九八三
『ミニ・ミステリ100』〈下〉、佐々田雅子訳、ハヤカワ文庫、一九八三


アンソロジー
→『12人の指名打者
→『エバは猫の中
→『ユーモア・スケッチ傑作展
→『ブラック・ユーモア傑作漫画集
→『怪奇と幻想
→『道のまん中のウェディングケーキ
→『魔女たちの饗宴
→「海外ロマンチックSF傑作選
→『壜づめの女房
→『三分間の宇宙』『ミニミニSF傑作展
→『バットマンの冒険
→『世界滑稽名作集』