100 Great Science Fiction Short Short Stories(1978)/Microcosmic Tales: One Hundred Wondrous Science Fiction Short-Short Stories(1980)Isaac Asimov, Martin Harry Greenberg, Joseph D. Olander
僕が中学生の頃、ショートショートが流行していました。
短くて読みやすいため、読書を余りしない友人たちもショートショートだけは購入しており、クラスのなかで貸し借りが盛んに行なわれました。僕もどっぷり嵌った口で、SFは勿論のこと、苦手なミステリーもショートショートなら積極的に手を出したのです。
さらには、個人のショートショート集のほかに、雑誌「ショートショートランド」や『ショートショートの広場』なども購入していました。
僕のお気に入りは、国内の作家では小松左京、海外ではフレドリック・ブラウン。特にブラウンは切れ味が鋭く、ユーモアもあり、SFもミステリーも巧みにこなす点に惚れ込みましたっけ。
一方で、ショートショートの代名詞というべき星新一は肌に合いませんでした。ひたすら刺激的なものを求めていた中学生にとっては、少しもの足りなく感じたのです。
その後、ショートショートをほとんど読まなくなってしまったのは、流行り廃りもあるでしょうが、星の信者になれなかったことが大きかったような気がします。
歳を取った今であれば「読者を吃驚させるオチに特化したショートショートはすぐに飽きる。しかし、行間を読む必要がある作品は何度も楽しめる」などと考える……かというとさにあらず、いまだに「サプライズエンディング、最高!」とかいっているので全く成長していないことが分かりますね。
話を過去に戻して……。海外作家の場合はショートショート集がほとんどなかったので、アンソロジーのお世話になりました。
特に『三分間の宇宙』『ミニミニSF傑作展』(写真)『海外SFショート・ショート秀作選(全二冊)』『ミニ・ミステリ100(旧版は三分冊、新版は一冊)』『ミニ・ミステリ傑作選』『世界ショートショート傑作選(全三冊)』『吸血鬼は夜恋をする』などは非常に重宝しました。
そのなかで『三分間の宇宙』『ミニミニSF傑作展』『ミニ・ミステリ100』の三つは、アイザック・アシモフ、マーティン・H・グリーンバーグ、ジョゼフ・D・オランダーの三人が編者のアンソロジーです(前二者はSF、後者はミステリー。『海外SFショート・ショート秀作選』や『SF九つの犯罪』はアシモフ、グリーンバーグ、チャールズ・G・ウォーの三人)。
原書はいずれも百編が収録されています。日本版は収録作品に多少の違いがあり、さらに『ミニミニSF傑作展』は七十一編と大分割愛されてしまいました。それでも相当な数のショートショートが楽しめるわけで、これから読んでみようかという若い読者にもお勧めできます(※)。
というわけで、二回に分けて、アシモフほか編のショートショートアンソロジーのなかから気に入ったものを紹介します(今回はSFショートショートの姉妹編二冊、次回は『ミニ・ミステリ100』)。
なお、『三分間の宇宙』と『ミニミニSF傑作展』の特徴は、すべてのショートショートにアシモフの短いコメントが付されていることです。僕も真似をして、なるべく短いコメントを心がけます。勿論、ショートショートの命というべきオチには触れません。
『三分間の宇宙』
「そうなるといいな、そうなったらいいな」I Wish I May, I Wish I Might(ビル・プロンジーニ)
よくある「三つの願い」。でも、魔神を助けたのが、こんな人物だったら……。
→『決戦! プローズ・ボウル』ビル・プロンジーニ、バリー・N・マルツバーグ
「ミルトン・ゴムラスの運命」The Destiny of Milton Gomrath(アレクセイ・パンシン)
剣と魔法の世界で生きることを、ぼんやり想像したりすることがあります。そのときの役割は、騎士だったり魔術師だったりするわけですが……。
「害虫駆除」Bug-Getter(R・ブレットナー)
ショートショートには一定の割合で「駄洒落」オチが含まれます。馬鹿馬鹿しいけど、嫌いじゃない。
「スノッドグラス氏のタイムマシン」The Deadly Mission of Phineas Snodgrass(フレデリック・ポール)
タイムマシンで過去へゆき、歴史を変えた男。その男を殺しに別の者が過去へゆき……というのを延々繰り返したら果たしてどうなるのでしょうか。
「長い夜」The Long Night(レイ・ラッセル)
この短さなのに数多くの伏線が張ってあり、しかも効果的に使われています。
→『インキュバス』レイ・ラッセル
「不滅の詩人」The Immortal Bard(アイザック・アシモフ)
入試の問題(国語)に、自分の作品が使われた作家が、試しに解いてみたら不正解だった……なんて話を思い出しました。
「何時からおいでで」The Man from When(ダニー・プラクタ)
未来から訪れた時間旅行者。タイムトラベルと引き換えに、その時代の地球を完全に抹殺するほどのエネルギーを消費してしまったといいます。オチよりも、最後のツッコミが上手いですね。
「見落とし」Mistake(ラリー・ニーヴン)
地球からガニメデに向かう貨物船の船長の前に宇宙人が現れ……。何の捻りもない使い古されたネタなのですが、舞台を宇宙にすることで甦るのが不思議です。
「ふるさと遠く」Far From Home(ウォルター・テヴィス)
テヴィスの代表作といわれています。詩情云々より、奇跡は語り手に起こっているとは限らないというオチが面白い。
「イフサンの剣」Swords of Ifthan(ジェイムズ・サザーランド)
中世の騎士道物語に憧れるアルヴィンは、不思議な球体と契約し、騎士がドラゴンと戦うイフサンに向かいますが……。僕も妄想癖がありますが、このパターンは、さすがに思いつきませんねえ。
「宇宙の果ての標識」Sign at the End of Universe(ドゥエイン・アッカースン)
本文と、アシモフのコメントの字数が同じです(原文は不明)。ですが、もっと短い作品が『ミニミニSF傑作展』の一番最後に掲載されています。
「橋は別にして」Not Counting Bridges(ロバート・L・フィッシュ)
モータリゼーションが進み、このままゆくと人間の住める場所がごく限られてしまうかも知れないと聞かされた「わたし」が心配したことは……。かつて日本でも、駐車場まで自転車でゆくなんて話がありましたっけ(今もあるのかな)。
「給餌の時間」Feeding Time(ロバート・シェクリイ)
迷路のように入り組んだ古書店でみつけた『グリフォンの世話と給餌』という本。その本にはグリフォンの生態圏にゆく方法も載っていて……。夢のような短編ですが、ラストは……。
→『標的ナンバー10』ロバート・シェクリイ
「宇宙の中心の丸太の上に立ってしまったら、その後にすべき事は何が残っているか?」After You've Stood on the Log at the Center of the Universe, What is There Left to Do?(グラント・キャリントン)
本文を読まずとも、タイトルが語り尽くしてしまっています。
「むらさきの牛」How Now Purple Cow(ビル・プロンジーニ)
ある日、農場の牛が一匹、紫色に変わっていました……。これは案外と利口な侵略方法かも知れません。
「復活の日」Revival Meeting(ダニー・プラクタ)
未来の医療に希望を託し、遺体を冷凍してもらう男。未来で目覚めると……。ショートショートしては面白いけれど、復活させる(意識を取り戻させる)必要はない気が……。
「一九五五年のロケット」The Rocket of 1955(C・M・コーンブルース)
映画『カプリコン・1』は、これをヒントに作られたのかしら。
「息子は物理学者」My Son, the Physicist(アイザック・アシモフ)
冥王星にいる一隊が地球外生命体を発見し、地球と通信をする必要が生じました。しかし、一回のやり取りに六時間必要なため、話を終えるのには何か月もかかってしまいます。その難問を、物理学者のお母さんが、女性なら誰もが実践している方法で解決してくれました。
「最後のパラドックス」The Last Paradox(エドワード・D・ホック)
タイムマシンに乗った者が三十五年後にゆく場合、三十五歳、歳をとるという設定です。そうなると当然、生まれる前や死んだ後にはゆけないわけですが……。
→『サイモン・アークの事件簿』エドワード・D・ホック
「先駆者」The First(アントニー・バウチャー)
ナマコやホヤを最初に食べたのは誰だろうなんてことを考えますが、素材をどう料理するかも大事です。さらにその先に、料理と料理を組み合わせたカツカレーや焼きそばパンなどがあるのでしょうか。
「原稿返却票」Rejection Slip(K・W・マキャーン)
「地球最後の男」ネタも様々なパターンがありますが、ここまでくるとわけが分かりません。
『ミニミニSF傑作展』
「やすらかに眠れ……」Put Your Head Upon My Knee(ジャック・リッチー)
時間をおいて一錠ずつ飲ませると、次第に子どもに返り、最後には消えてしまう薬。しかし、二錠一度に飲ませると、その場で死んでしまいます。冷たい夫に悩んでいた妻は……。
「楽園の声」The Voice in the Garden(ハーラン・エリスン)
核戦争後に生き残った最後の男と女が出会います。後ちょっとで、完璧だったんですけどね。
「悪魔飼育法」Nellthu(アントニー・バウチャー)
悪魔と人間の駆け引きは定番ネタですが、これは論理パズルみたいで楽しい。
「世界でいちばん腕のいいハンター」The Finest Hunter in the World(ハリー・ハリスン)
怪物を退治しに金星へやってきたデブのハンター。優秀そうにはみえませんが、彼はあるテクニックを持っていました。短所を逆手に取った戦略が見事です。
「クローン待ち」A Clone at Last(ビル・プロンジーニ、バリー・N・マルツバーグ)
異性のクローンを作るという発想が面白い。結果は最悪だけど……。
→『スクリーン』バリー・N・マルツバーグ
「どんな場所?」The Nature of Place(ロバート・シルヴァーバーグ)
トーマス・マンの「幻滅」と共通する余韻が残ります。こうなってしまった後は、生きてゆくのは難しいでしょう。
「ルネッサンス人」Renaissance Man(T・E・D・クライン)
よく考えます。自分が翻訳機を持って石器時代にタイムスリップしたとして、果たして役に立つことをひとつでも教えられるのだろうかと。
「二重の死」Death Double(ウィリアム・F・ノーラン)
自分の好きな人だけがいないパラレルワールドだったら辛いですね。
「回転する円柱と宇宙の因果律破壊の可能性」Rotating Cylinders and the Possibility of Global Casuality Violation(ラリー・ニーヴン)
タイムマシンの原理を発明した数学者が皇帝に提案します。その仕組みを敵側に渡そうと。なぜなら……。タイムマシンが作れない理由は、これかも知れません。
「交通戦争」X Marks the Pedwalk(フリッツ・ライバー)
クルマ族と、アルキ族が殺し合いをします。一応、ルールを設けるのが阿呆らしい。
「疾きこと風のごとく、猛きこと獅子のごとく」Speed of the Cheetah, Roar of the Lion(ハリー・ハリスン)
消費制限時代に、隣人を圧倒しようと馬鹿でかい車に乗る男。実は……。馬鹿馬鹿しいことコントのごとく、非現実なこと漫画のごとく……といった感じ。
「新地球発見」Discovering a New Earth(ロバート・マッティングリー)
宇宙人がやってきて、精神的に優れた生物すべての代表を決めろといいます。でも、それは人類だけでなく……。宇宙人からみると、人とイルカの知性に差はないかも知れません。人魚や妖精まで出したのは、やりすぎという気がしますが……。
「真空呼吸者」Take a Deep Breath(アーサー・C・クラーク)
宇宙ステーションの事故で、数フィートの真空を渡らなくてはならなくなります。『2001年宇宙の旅』のあのシーンを思い出します。
「未来へようこそ 三題」Good Morning! This is the Future(ヘンリー・スレッサー)
「冷凍睡眠で未来に目覚めたら」というテーマでショートショートを三題書いています。三つめが特に面白かった。
→『快盗ルビイ・マーチンスン』ヘンリー・スレッサー
「過去カメラ」The Biography Project(H・L・ゴールド)
過去を写すことのできるビデオカメラを開発して、アイザック・ニュートンがなぜ晩年に錬金術に取りつかれたのか調べると……。確かに頭がおかしくなりそう。
「巡礼」Haji(ハーラン・エリスン)
コンピュータが選んだ地球の代表者を「宇宙の支配者」の元へ送ることになりますが……。仰々しい固有名詞を列挙し、さらに「巡礼」などという意味深なタイトルをつけておいて、こう落としますか。
「ミスタ・ルペスキュ」Mr. Lupescu(アントニー・バウチャー)
子ども騙しの域を超えた凝りようが、怪物を生み出してしまいます。
「時間の悪夢」Nightmare in Time(フレドリック・ブラウン)
ショートショートならではのアイディアです。長編でやったら原稿料泥棒といわれるでしょう。
→『不思議な国の殺人』フレドリック・ブラウン
→『ミッキーくんの宇宙旅行』フレドリック・ブラウン
→『B・ガール』フレドリック・ブラウン
「もしイブが妊娠しなかったら」If Eve had Failed to Conceive(エドワード・ウェレン)
この作品は、世界で二番目に短いショートショートでした。それが改訂され、世界一短いショートショートになりました。ちなみに、この本に掲載されているのは、改訂版の方です。
※:ジャック・リッチーは二十一世紀になってから日本オリジナルの短編集が刊行されるようになったが、『ミニミニSF傑作展』と『ミニ・ミステリ100』にはそれらに収録されていない短編が結構収められているので、ファンなら必携である。
『三分間の宇宙 −世界のSF作家からのおくりもの100』浅倉久志ほか訳、講談社、一九八一
『ミニミニSF傑作展』浅倉久志ほか訳、講談社、一九八三
アンソロジー
→『12人の指名打者』
→『エバは猫の中』
→『ユーモア・スケッチ傑作展』
→『ブラック・ユーモア傑作漫画集』
→『怪奇と幻想』
→『道のまん中のウェディングケーキ』
→『魔女たちの饗宴』
→「海外ロマンチックSF傑作選」
→『壜づめの女房』
→『ミニ・ミステリ100』
→『バットマンの冒険』
→『世界滑稽名作集』
→「恐怖の一世紀」
→『ラブストーリー、アメリカン』
→『ドラキュラのライヴァルたち』『キング・コングのライヴァルたち』『フランケンシュタインのライヴァルたち』
→『西部の小説』
→『恐怖の愉しみ』
→『アメリカほら話』『ほら話しゃれ話USA』
→『世界ショートショート傑作選』
→『むずかしい愛』
→『魔の配剤』『魔の創造者』『魔の生命体』『魔の誕生日』『終わらない悪夢』
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