読書感想文(関田涙)

関田 涙(せきた・なみだ)

『夢織り女』ジェイン・ヨーレン

Dream Weaver(1979)/The Moon Ribbon And Other Tales(1976)/The Hundredth Dove and Other Tales(1977)Jane Yolen

 ハヤカワ文庫といえば、若い頃はSFやHMよりも寧ろFTのお世話になりました。
 創刊されたのが一九七九年で、古い文庫(ロード・ダンセイニの『ペガーナの神々』やハンス・ファラダの『あべこべの日』)の巻末広告をみると、初期の配本をかなり持っていることが分かります。僕がSFやファンタジーを読み始めた頃と重なっているので、飢えを癒やすかの如く購入したのでしょう。本を読むのが一番楽しかった時期です。

 僕は、いわゆるハイファンタジー、それもヒロイックファンタジーよりは、児童文学や童話に近いものが好みでした。
 要するに、ゲームや漫画、アニメーションなどでお馴染みの、異世界において仲間とともに敵を倒しつつ成長してゆく物語ではなく、児童文学や絵本の世界といえば分かりやすいでしょうか。戦ったり欺いたりせず、善人に囲まれてまったりと暮らし、問題が起こっても平和に解決するといったタイプで、このブログで取り上げたものでいうと『ユーラリア国騒動記』や『オズの魔法使い』のような作品になります。

 しかし、ジェイン・ヨーレンは、それらほど呑気でも甘くもありません。
 いや、寧ろピリッと辛いのが特徴です。ゼナ・ヘンダースンなどもそうですが、女性の作家は優しい作風ながらも現実の厳しさをきちんと伝えることが多いような気がします。
 勿論、その方が子どもにとっては有用でしょう。のんびりしすぎてしまうと、僕のようにだらしない大人になってしまいますので……。

 ヨーレンというと、めるへんめーかーがイラストを描いた『三つの魔法』(※)も捨てがたいのですが、お気に入りは何といっても『夢織り女』(写真)です。
 これは原書で三冊の本を一冊にまとめたもので、お得感がある一方、カラーイラストをふんだんに使ったハードカバー版もあればよかったかも、と大人になった今では思います。

 数多くの物語が収められていますが、登場人物がバラエティに富んでいる(特に主人公の職業が多彩)ので、全く飽きません。
 一編一編がごく短いため、小学生でも読めると思います。小さなお子さんには読み聞かせをしてあげてもよいですね。

『夢織り女』
 大寺院の石段に座る盲目の老婆は、一ペニーもらえば夢を織ってくれます。依頼人の希望に沿うこともあれば、聞き手がピンとこない場合もあります。しかし、物語のなかには必ず依頼人の人生が隠されているのです。

一番目の夢 ブラザーハート」Brother Hart(1978)

 森の奥に住む兄妹。妹は小屋に残り、兄は鹿の姿になって森を駆け回るのが日課となっています。ある日、兄は血塗れで小屋に戻り、その後、猟師が現れます。妹は兄を救うため、猟師と仲よくしますが……。
 女と鹿の両方を手に入れようとすると、こういうことになります。

二番目の夢 岩の男、石の男」Man of Rock, Man of Stone(1979)
 働き者の石工クレイグ。彼の妻は子どもが欲しいのですが、クレイグは断固拒否します。妻にうるさくいわれた彼は石を削り、息子を作りますが……。
 これは、年配の夫婦のために織った夢です。妻は納得しますが、夫は馬鹿馬鹿しいと怒ります。男と女の違いをよく表しています。

三番目の夢 木の女房」The Tree's Wife(1978)
 暴力的な夫が亡くなり、未亡人となったドルシラの元に、大勢の求婚者がやってきます。ドルシラは、困っているとき知らん顔をしていた彼らではなく、白樺の木を再婚相手に選びます。やがて、彼女は妊娠し……。
 この夢は、男の子を連れた貧しい未亡人に聞かせました。夢の結末に背中を押されたのか、母は亡き夫の親戚に子どもを預ける決心をしたようです。けれど、少年にとってそれは悲しい夢なのです。

四番目の夢 猫の花嫁」The Cat Bride(1979)
 息子と猫を同じくらい可愛がっている老婆は、息子に猫と結婚するようにいいます。すると、猫は美しい娘の姿になって……。
 明るい三人姉妹のために紡いだ夢だけあって、陽気で、オチのあるお話になっています。

五番目の夢 死神に歌をきかせた少年」The Boy Who Sang for Dead(1979)
 七人兄弟の末っ子のカール。可愛がってくれた母親が亡くなると、母を返しにもらいに死神のもとへ向かいます。彼の武器は、素敵な歌だけです。
 常連客のためにふた通りの結末を用意した夢織り女。僕はふたつめの方が好きです。

六番目の夢 石心臓姫」Princess Heart O'stone(1979)
 石の心臓を持つお姫さまは孤独に苦しんでいます。彼女を救うよう動物たちに頼まれた美貌の木樵が城にやってきます。木樵が姫の心臓を背負うと、彼女は明るさを取り戻しますが、木樵には背中に大きなコブができてしまいます。
 結婚を約束している若いカップルがこの夢を聞き、「愛する人のためなら自分だって同じことをする」と考えます。しかし、その気持ちがいつまで続くのでしょうか。

七番目の夢 壺の子」The Pot Child(1979)
 年老いた陶工が焼き上げた壺の絵から少年が抜け出してきました。しかし、少年には魂がありません。やがて、老人は亡くなり、遺灰を壺に入れると……。
 最後は、夢織り女自身のための夢です。魂のない少年のように、老婆の織物には絵も模様もありませんでした。けれど、話を聞いた人の心のなかでは、いつまでも鮮やかに輝いているのです。

『月のリボン』
月のリボン」The Moon Ribbon

 父が亡くなり、継母と姉たちに虐められるシルヴァ。母親が遺してくれた月のリボンが、彼女を夢の世界に導いてくれます。そのリボンがあれば、夢の世界から宝石を持ち帰れると考えた継母たちは……。
『シンデレラ』のような設定ですが、月のリボンはもっと残酷です。

蜂蜜と薪の少年」The Honey-Stick Boy
 蜂の巣の精に子どもを授けて欲しいと祈る老夫婦。けれど、それが叶えられず、おばあさんは薪と蜜で人形を作ります。人形は優しい子になりましたが、おじいさんを助けるため川に入り、溶けてしまいます。
 老夫婦は再びふたりきりの生活に戻ってしまいます。とはいえ、大事な夫を亡くさずに済み、さらに楽しい思い出まで残ったのですから幸せと思わなければいけません。

バラの子」Rosechild
 どうやっても育たない薔薇の子でしたが……。決め手はやはり愛情ですね。

サン・ソレイユ」Sans Soleil
 日の光を浴びると死んでしまうと予言された王子サン・ソレイユ。ヴァイガという美貌の娘だけはそれを信じません。彼女は王子と結婚した後、国中の雄鶏を隠し、朝がきたことを知らせずに日光に当てて、王子を殺してしまいます。
 ヴァイガが得た「信じる方が真実より強い」という教訓は、全く逆の意味を持つかも知れないところが面白い。果たして「日光に当たると死ぬ」というのは真実だったのでしょうか。それとも、思い込みだったのでしょうか。

いつか」Somewhen
 若者が夢を叶えるには、途轍もない時間と苦労が必要です。だから、老人は「どこへゆけばよいか」尋ねられ、「いつか」と答えるのです。

月の子」The Moon Child
 太陽を崇める国にある黒の森は人々に恐れられていました。そこで生まれたモナという少女は、ひとりぼっちでした。ようやく友だちができたと思いきや……。
 大人の偏見が不幸を招く悲しいお話です。

『百番めの鳩』
百番めの鳩」The Hundredth Dove(1977)

 ヒューという鳥撃ちが王さまに呼ばれます。そこに美しい婦人がいて、彼女との結婚式のために百羽の鳩を捕まえろといわれます。百羽目に白く美しい鳩を捕まえますが、ヒューはそれが王の花嫁であることに気づきます。
 王の命令に従うか、それとも鳩を逃してやるかでヒューは揺れますが、結局、忠誠心が勝ってしまいます。ヒューは悪人ではなく、それどころか模範的な忠臣といえますが、お伽噺のなかでは批難されても仕方がないキャラクターです。

炎の乙女」The Maiden Made of Fire(1977)
 孤独な炭焼きの青年が火の燃えさしに話しかけているうち、炎の少女が現れます。ほかの者にはみえないのですが……。
 恋人と一緒なら何が起こっても悲劇ではありません。

風の帽子」The Wind Cap(1977)
 船乗りになりたい百姓の青年ジョンは、亀を助けたお礼に風の帽子をもらいました。これによって船乗りにとって最も大切な風を操ることができるようになったのです。ところが、この帽子は人間の力では脱ぐことができません。
 亀を助けたことから始まった物語だけあって、ジョンは半分船乗りで、半分百姓というユニークな存在になりました。

白アザラシの娘」The White Seal Maid(1977)
 孤独な漁師のマードックは、ある晩、アザラシが皮を脱ぎ捨て、女性の姿になるのを目撃します。すると、岸には沢山のアザラシが集まってきて、皆女性に変わりました。マードックは最初の女性セルと結婚し、彼女は七人の息子を生みますが……。
「セルは正体をみられたため、やむを得ずマードックの嫁になったんだな」なんて思っていると、意外なオチが待っています。

約束」The Promise(1977)
 将来結婚する約束をした少年ケイと少女ケイヤ。魔法使いに鯉にされてしまったケイは、ケイヤのいる修道院の池に送られ、魔法使いとケイヤの結婚式に料理されることになります。
 キスによって人間に戻るという設定は「かえるの王さま」や『紅の豚』などファンタジーの定番ですが、この物語では人間に戻ったケイは口がきけなくなります。けれども、愛するふたりに言葉は不要でした。

昔、善良な男が」Once a Good Man(1977)
 善良な男のもとに天使がやってきて、望みをひとつ叶えてあげるといいます。男は「それでは、天国と地獄をみせて欲しい」と頼みます。まず、訪れた地獄では、テーブルに山ほどのご馳走がありますが、椅子に座っている者たちは痩せこけていました。よくみると、彼らは鉄のバンドで縛られ、目の前のご馳走を食べることができないのです。次に向かった天国は、地獄と全く同じ状況にもかかわらず、皆血色がよく、楽しそうです。なぜなら……。
 よくできたアメリカンジョークのようなお話です。

人魚に恋した乙女」The Lady and the Merman(1976)
 船長の娘は醜く、それを責められた妻は儚くなってしまいます。船長も余り家に帰ってこなくなり、孤独な娘は男の人魚に恋をします。
 喋ることのできない人魚は、娘を愛したのでしょうか。死へ誘ったとも読めますが……。この物語に限らず、優しさと残酷さが隣り合わせになっているところがヨーレンの魅力です。

※:『三つの魔法』の第四部「ガチョウの兄妹」は、『オズの魔法使い』によく似ている。旅の途中で仲間になった者たちと悪い魔法使いをやっつけるお話である。だが、結末はちと苦い。

『夢織り女』村上博基訳、ハヤカワ文庫、一九八五