読書感想文(関田涙)

関田 涙(せきた・なみだ)

『インディアン・ジョー』W・P・キンセラ

The Fencepost Chronicles(1986)W. P. Kinsella

 映画『フィールド・オブ・ドリームス』の原作
シューレス・ジョー』で知られるW・P・キンセラは、野球小説だけでなく、ファーストネーション(カナダの先住民のこと。米国ではネイティブアメリカンやインディアンともいう。以降は本書に従い「インディアン」と記載する)に関する小説も数多く書いていて、日本でも二冊が翻訳されています。


 フィクションにインディアンが登場する場合、「白人の開拓の邪魔をする残忍な野蛮人」か、「白人に土地を奪われた哀れな先住民」かのどちらかが定番でした。
 ところが、キンセラは、インディアンを「間抜けな政府から補償金をぶんどって、毎日を面白おかしく過ごす陽気な者たち」として描いたのです。
 考えてみれば、ステロタイプのインディアン像が二十世紀末まで残っている方が異常です。かつてはジェイムズ・フェニモア・クーパーの小説に登場するインディアンが英国紳士のような話し方をすると批判されましたが、それと同様、画一化されたイメージは最早、笑い話にしかなりません。

 さて、『インディアン・ジョー』(写真)の原題を直訳すると「フェンスポスト年代記」となります。そのとおり、この本はフランク・フェンスポストというインディアンが登場する短編を集めたものです。
 ホッベマというインディアン居留地に住むフランクは、学がなく怠け者ですが、金儲けのアイディアを次々に思いつきます。その結果、周りを巻き込み大騒ぎに発展させるものの、誰からも憎まれないという奇特な人物です。

 フランクの周りには、巨体の女呪術師マッド・エッタや、女にもてまくるフィル・キャリー=ザ=ケトル、自分では一流のビジネスマンだと思っているが白人のカモにされるトム・クロウ=アイ酋長、フェミニストのベデリア・コヨーテ、小人プロレスラーのメルヴィン・バッド=バッファローなどユニークなキャラクターが大勢います。
 彼らのハチャメチャなエピソードを記録するのは、フランクの友人で、ホッベマで一番のインテリを自称するサイラス・アーミンスキンです。金の亡者の癖に儲からない主人公と、その友だちで被害者のコンビという点では、P・G・ウッドハウスの「ユークリッジ」シリーズに、少し似ているでしょうか。

『インディアン・ジョー』は、カナダ人によって英語で書かれた優秀なユーモア小説を対象としたリーコック・メダル(Stephen Leacock Memorial Medal for Humour)を受賞しているだけあって、とにかく楽しい一冊です。
 怠け者で、能天気で、大酒飲みで、出鱈目なインディアンを、フォークロアやほら話の手法で描いている点が、個人的にはど真んなかのストライクです。
 心の底から笑えて、何となくほっこりするユーモア小説が少ないとお嘆きの方には、熱烈にお勧めします。

真相」Truth
 フランクは、ある町で開催されているホッケートーナメントに出場しようと、にわかチームを作って、遠征しますが……。
 日本では滅多に読めないホッケー小説です。超巨大なゴーリーがゴールを完全に塞いでしまえば、相手は得点できないのではないかという疑問を抱いた人もいるでしょう。その答えが、ここにあります。

トラック」The Truck
 ルイスのおんぼろトラックを下取りに出すと、新品のトラックをもらえるというキャンペーンをしている販売店に向かうフランクたち。しかし、そこにはカラクリがありました。
 古いトラックには居留地の人々の思い出が詰まっています。赤ん坊の半分は、そのトラックで仕込まれたなんていわれるくらいです。それをあっさり手放してしまうのがドライで笑えます。

牛の大群」Beef
 百年以上前、インディアンから取り上げた土地の代わりに政府から提供されるはずだった牛をもらっていないとして、フランクは月に四百頭の牛を得るという契約を交わします。ところが、桁を間違えて四千頭の牛がホッベマに送り込まれます。
 牛の臭いや糞で居留地はパニックになりますが、したたかなインディアンたちはあっという間に牛を換金してしまいます。凡人とは違うフランクは牛を使った広告を考案するものの、上手くゆかないのはお約束です。

マネージャーたち」The Managers
 こわもての男たちが居留地に現れ、トム酋長に野球チームへの投資を持ちかけます。フランクとサイラスは球団の経営に乗り出そうとしますが……。
 詐欺であることは最初から分かるのですが、ホッベマとしては何百万ドルという政府からの予算を使い切らなくてはいけないという事情があります。そのせいで、フランクたちがとんでもない目に遭うわけです。

B・B・ボボウスキー巡査の実地教育」The Practical Education of Constable B.B. Bobowski
 インディアンの密造酒を取り締まるため、新人のボボウスキー巡査(女性)は、クージョ巡査部長(犬)とともにホッベマに乗り込んできます。
 フランクは犬を酒漬けにし、タレコミ屋を使って偽の情報を流し、ボボウスキーを窮地に陥れます。出世するより、海千山千のインディアンたちに勝つ方が何倍も難しいのです。

女王陛下との一夜」To Look at the Queen
 居留地の代表を罠に嵌め、フランクとサイラスは代わりに英国へ向かいます。酔ってバッキンガム宮殿に忍び込んだふたりは、エリザベス二世と対面します。
 闖入者によって、高貴な者の素顔が垣間みえるという古典的なストーリーですが、フランクが相変わらずメチャクチャなので、自由のない女王の生活が余計に寂しく感じられます。

インディアン民族文化交流計画」The Indian Nation Cultural Exchange Program
 政治家は選挙が近くなると、おかしな計画を立てます。そのひとつ「インディアン民族文化交流計画」によってフランクたちは、北極圏の村へ向かいます。
 極寒の地でカリブー狩りにゆき、遭難したサイラスはカリブーの腹のなかに潜り込み助けを待ちます(映画『レヴェナント』でも似たシーンがあった)。肉を与えてくれるだけでなく、命も救ってくれる動物に感謝しないと罰が当たりますね。

祭りの演しもの」The Performance
 カルガリーの祭でパフォーマンスをすることになったインディアンたち。フランクが人食い人種に扮し、小人を食うという演出を思いつきますが……。
 小人のメルヴィンを雇うものの、性格が悪くトラブルばかり起こします。案の定、本番はとんでもないことになります。メルヴィンは、フランクが可愛くみえるほどのトラブルメーカーです。

熊は山を越えて行った」The Bear Went Over the Mountain
 バンクーバーの大学から講演を頼まれたサイラス。海をみたことのないホッベマの人たちはついてゆきたがります。どうしても断れなかった人たちを連れてトラックで出発しますが……。
 エッタは、体重が重すぎてトラックのブレーキが山道で故障したり、海へゆけば鯨と間違えられグリーンピースのスタッフに海に戻されそうになったりと大活躍(?)します。肝腎の講演会には丸一日遅れてしまいます。

ダンシング」Dancing
 オーキン牧師は、教会が認めないレコードや本や衣類を燃やそうとします。
 牧師はインディアンを憎んでいて、改宗させる気などさらさらありません。いつもはフランクが悪巧みをしますが、今回はサイラスがちょっとした悪戯をします。

本物のインディアン」Real Indians
 やり手の企業家ホガース・ランニング=イーグルは、ホッベマに外国人の観光客を招き、一儲けしようとします。それにはインディアンが、インディアンらしくなければいけません。
 フランク以上に金儲けの才能があるホーガスですが、金払いが悪く威張っている彼に、フランクたちは仕返しをします。それにしても、このシリーズは誰も儲けられません。

」The Fog
 カナダを訪問中のローマ法王を取材する仕事を引き受けたサイラス。しかし、法王を乗せた飛行機は霧のため、着陸できません。
 法王がこようがこまいが、例の如くサイラスたちは、このイベントを楽しんでしまいます。しかし、無理矢理キリスト教に改宗させられ、何百マイルも旅してきたインディアンの老人たち二重に気の毒です。

インディアン・ジョー」Indian Joe
 サイラスの姉イリアナはカルガリーで白人と家庭を築いています。久しぶりに姉を訪ねたサイラスは、子どもの頃、クリスマス会でもらったインディアン・ジョーの人形をまだ大切にしていることを知ります。
 インディアンの女性が白人と結婚し、白人の社会で生きてゆくことの辛さを匂わせる好短編です。尤も、苦労や気遣いとは無縁のフランクは、イリアナの夫の会社で慣れないコンピュータをいじり大騒動を起こしてくれますが……。

『インディアン・ジョー −フェンスポスト年代記永井淳訳、文藝春秋、一九九五

→『アイオワ野球連盟』W・P・キンセラ