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読書感想文(関田 涙)

関田 涙(せきた・なみだ)

『クローヴィス物語』サキ

イングランド

The Chronicles of Clovis(1911)Saki

 今回は珍しく新刊ですが、実をいうと書名は便宜上のものですし、作品の感想も書きません。じゃあ、何なのかというと……。

 このブログの最大の目的は、本を購入する際の参考にしてもらうことです。
 面白かった本を紹介したいという思いもありますが、それより寧ろ、「ラドヤード・キプリングの『ジャングル・ブック』は邦訳が沢山あるけど、どれを選べばよいの?」とか、「ピエール・アンリ・カミの名探偵オルメスものや、P・G・ウッドハウスユークリッジものは、どの本を買って、どの順番で読めばよいの?」といった疑問に対し、僕なりの答えを提示することの方が重要です。
 調べるのが面倒なことがネット検索で簡単に分かると、時間を無駄に使わずに済みますからね。
 ただし、刊行年も出版社も訳者もバラバラというややこしいシリーズはそれほど多くないため、合間に詰まらない感想でお茶を濁しているわけですが……。

 さて、短編の名手サキの生み出したキャラクターのなかで最も人気が高いのは、クローヴィス・サングレール(※1)といい切っても異論はないでしょう。
 みてくれはよいけど、捻くれ者で口から出任せをいう十七歳の青年の調子のよさや屈折ぶりに魅せられてしまった女性は多いと聞きます。
 レジナルドやヴェラも相当な曲者ですが、出番の多さではクローヴィスに敵いません。

 では、クローヴィスが出てくる短編は、果たしていくつあるのでしょうか。
 数えてみたところ、何と三十三編もあるんですね(わずか一行しか登場しないものも含む)。しかも、そのうち三十二編が日本語に訳されています。
 近年、白水社や風濤社から、サキの新訳が続けて刊行されています。そのお陰もあって、現在ではたった五冊で、その三十二編が読めてしまうのです。
 さらに残る一編も、今の勢いなら今後訳される可能性大です(『The Toys of Peace』が全訳されればよい)。

 ダブるのを承知で、各社から刊行されているサキの短編集を買い求めていた頃が嘘のようです。ウッドハウスといい、サキといい、諦めずに待っていれば、未訳の短編に出合えることもあるんですね。

 なお、その五冊、並びにそこに収録されたクローヴィスものは、以下のとおりです。『ザ・ベスト・オブ・サキII』以外は、新刊で入手可能です。

『クローヴィス物語』
「エズメ」(Esmé)
「月下氷人」(The Match-Maker)
トバモリー」(Tobermory)
「ミセス・パクルタイドの虎」(Mrs. Packletide's Tiger
「バスタブル夫人の逃げ足」(The Stampeding of Lady Bastable)
「名画の背景」(The Background)
「不静養」(The Unrest-Cure)
「アーリントン・ストリンガムの警句」(The Jesting of Arlington Stringham)
「エイドリアン」(Adrian)
「花鎖の歌」(The Chaplet)
「求めよ、さらば」(The Quest)
「ヴラティスラフ」(Wratislav)
「フィルボイド・スタッジ」(Filboid Sudge, The Story of a Mouse that Helped)
「聖ヴェスパルース伝」(The Story of St. Vespaluus)
「乳搾り場への道」(The Way to the Dairy)
「和平に捧ぐ」(The Peace Offering)
「タリントン韜晦術」(The Talking-Out of Tarrington)
「退場讃歌」(The Recessional)
「感傷の問題」(A Matter of Sentiment)
「セプティマス・ブロープの秘めごと」(The Secret Sin of Septimus Brope)

『けだものと超けだもの』(Beasts and Super-Beasts)
「女人狼」(The She-Wolf)
「荒ぶる愛馬」(The Brogue)
「雌鶏」(The Hen)
「テリーザちゃん」(Cousin Teresa)
「復讐記念日」(The Feast of Nemesis)
「禁断の鳥」(The Forbidden Buzzards)
「クローヴィスの教育論」(Clovis on Parental Responsibilities)

『ザ・ベスト・オブ・サキII』ちくま文庫版(※2)
「ルイズ」(Louise)
「ショック戦略」(Shock Tactics
「こよみ」(The Almanack)

『世を騒がす嘘つき男』
「運命の女神」(Fate

『四角い卵』
「クローヴィス、実務の冒険心なるものについて語る」(Clovis on the Alleged Romance of Business)

未訳
「The Oversight」

※1:Clovisは残忍な性格で多くの貴族を抹殺したといわれるフランク王国の初代国王クローヴィス1世から、Sangrailは聖なる血(Sangreal)からきているそう。

※2:サンリオSF文庫版だと1巻と2巻を買わなくてはいけないが、ちくま文庫版なら2巻だけを購入すれば済む。


『クローヴィス物語』和爾桃子訳、白水Uブックス、二〇一五
『けだものと超けだもの』和爾桃子訳、白水Uブックス、二〇一六
『ザ・ベスト・オブ・サキII』中西秀男訳、ちくま文庫、一九八八
『世を騒がす嘘つき男』英国モダニズム短篇集2、井伊順彦、今村楯夫、辻谷実貴子ほか訳、風濤社、二〇一四
『四角い卵』井伊順彦、今村楯夫ほか訳、風濤社、二〇一五