読書感想文(関田 涙)

関田 涙(せきた・なみだ)

『わが庭に幸いあれ ―紳士の国の園芸術』W・ヒース・ロビンソン、K・R・G・ブラウン

How to Make a Garden Grow(1938)William Heath Robinson, Kenneth Robert Gordon Browne

 通常の書籍は著者名を先に記しますが、この本の場合、イラストレーターのウィリアム・ヒース・ロビンソンをトップに記載するのが相応しいと思います(原著の表紙もヒース・ロビンソンの名が大きく書かれている)。

 別にヒース・ロビンソンの方が有名だし格上だからというわけではなく、『わが庭に幸いあれ』がヒース・ロビンソンによるユーモアハウツーシリーズの一冊だからです。
 以下の七冊が刊行されており、イラストはすべてヒース・ロビンソンですが、文章は四巻までがケネス・ロバート・ゴードン・ブラウンが、ブラウンの死後はセシル・ハントが担当しています。
 ヒース・ロビンソンは一九四四年に亡くなっているので、生きていればもっと続いたかも知れません。

『How to Live in Flat』(1936)ブラウン著
『How to be a Perfect Husband』(1937)ブラウン著
How to Make a Garden Grow』(1938)ブラウン著
『How to be a Motorist』(1939)ブラウン著
『How to Make the Best of Things』(1940)ハント著
『How to Build a New World』(1941)ハント著
『How to Run a Communal Home』(1943)ハント著


 なぜ、シリーズ三作目に当たる『わが庭に幸いあれ』だけが訳されたかというと、筑摩書房の編集者の趣味が園芸で、この本が愛読書だったとか。
 日本版は装丁も洒落ているので、コンディションのよいものがみつかったら、プレゼントなどにも最適です。カバーを外せば洋書のようにもみえますので、居間に飾ってもよいかも知れません。
 見栄えだけでなく、中身も楽しい本なので、できれば七冊とも訳してもらいたかった。今からでも遅くないですから、改めてシリーズ七冊をすべて刊行していただけないでしょうかね。

 さて、ヒース・ロビンソンは、二十世紀初めに英国で大変人気のあったイラストレーターです。
 父(トーマス・ロビンソン)、兄ふたり(トーマス・ヒース・ロビンソン、チャールズ・ロビンソン)も画家という芸術一家の末っ子です。
 彼は、特に「単純なことを複雑にこなす非実用的な機械」を描くことで知られており、オックスフォード英語辞典(OED)はじめとする英語の辞書にも上記を表す形容詞として例文つきで掲載されています(例:The Liberal Democratic Party is a Heath Robinson contraption which defies the laws of physics)。

 勿論、『わが庭に幸いあれ』にも、そうしたイラストがふんだんに収められています。
「サボテンの刺を抜くのに便利な装置」「苗床を踏まずに雑草を取る装置」「魅力的にレイアウトされたルーフガーデン」「鳥が動かすカラスの行水式バード・バス」などなど。どれも細かいところまで描写されていて、眺めれば眺めるほど楽しくなるイラストです(写真)。

 一方、ブラウンの文章は後から加えられたようです。要するに、できあがったイラストをみながら、ジョークを交えつつ解説したり、話を膨らませているといった感じ。
 ヒース・ロビンソンもブラウンも、困ったこと(害虫や水害)があると、やたらと隣家に押しつけてしまうのが妙におかしい。まあ、迷惑な家族と怒りっぽい隣人は、世界のどこでも鉄板ネタなんでしょうね。

 園芸書としての実用的な価値はほとんどないので、絵でも文でもひたすら英国風の冗談を楽しむべきです。
 このシリーズが作られたのは、世界恐慌から第二次世界大戦と世界中に閉塞感が満ちていた時代ですから、余計に笑いが必要とされたのだと思います。ジェローム・K・ジェロームやP・G・ウッドハウス同様、浮世離れした能天気さも救いになっています。

 現代の日本、特に都心では猫の額ほどの庭さえ持つのが大変です。おまけに、近くに公園すらないなんて場合もあるでしょう。
 一応、この本にはベランダで草花を育てる方法も書かれていますが、それよりも『わが庭に幸いあれ』自体が一服の清涼剤となります。本物の庭はなくとも、ヒース・ロビンソンの描く草花や虫や鳥をみていると、気持ちが和むこと請け合いです。

 ところで、ヒース・ロビンソンが挿絵を描いている本で、もう一冊お気に入りがあります。それがノーマン・ハンターの児童書『ブレインストーム教授大あわて』です。
 こちらは次回、取り上げたいと思います。

『わが庭に幸いあれ ―紳士の国の園芸術』中尾真理訳、筑摩書房、一九九八

→『ブレインストーム教授大あわて』ノーマン・ハンター、W・ヒース・ロビンソン