読書感想文(関田 涙)

関田 涙(せきた・なみだ)

『刺絡・死の舞踏他』カール・ハンス・シュトローブル

Lemuria: Seltsame Geschichten(1917)Karl Hans Strobl

 カール・ハンス・シュトローブルは、チェコで生まれた、ドイツ語を母語とするオーストリア人です。『刺絡・死の舞踏他』は、彼の我が国唯一の短編集(全七編)。
 訳者の前川道介は、森鷗外が翻訳した「刺絡」を気に入り、ドイツでシュトローブルの本を探し回りました。それで、みつけたのがこの本の復刻版だったそうです(現在では電子版が簡単に手に入る)。

 シュトローブルは、歴史小説に心血を注いだらしいのですが、それらはほぼ忘れ去られ、かろうじて怪奇・幻想小説家として記憶に留められています。
 エドガー・アラン・ポーとE・T・A・ホフマンを愛するシュトローブルは、恐怖とユーモアの融合を意識しました。どちらも現実とは別の次元に存在するものだからとのことですが、確かに恐怖は勿論、上級の笑いも日常を突き抜けたところから発生します。
 過剰なグロテスクの先にあるユーモアに触れたい方は、ぜひこの短編集をお試しください。

 なお、翻訳されているシュトローブルの短編は、『刺絡・死の舞踏他』以外だと『現代ドイツ幻想短篇集』収録の「ファン・セラノの手記」Das Manuskript des Juan Serrano(1911)のみです。
『独逸怪奇小説集成』や『ドイツ幻想小説傑作集』などに収められている短編は『刺絡・死の舞踏他』の再録なので、無理に手に入れる必要はありません。

」Der Kopf(1899)
 フランス革命においてギロチンで首を落とされた男。しかし、彼は首だけになっても意識が残っていました。民衆は切り落とされた首たちに襲いかかり、殴ったり、装飾品を奪ったり、槍に刺して汚物を投げつけたりします。また、深夜には首の頭にハンマーで釘を打ち込むといった儀式も行なわれます。
 それほどまでに憎まれた首たちは、一体何者だったのでしょうか。墓穴のなかで、女の胴体とくっついた男は、生前の悪行を知るのですが……。狂気に満ちた残虐行為がひたすら繰り広げられる、正に悪夢のような作品です。

ヨーナス・バルクとの冒険」Mein Abenteuer mit Jonas Barg(1905)
「ぼく」が会員になっている「無鉄砲クラブ」に加わったバルクは、仲間をふたり死に追いやり、さらに会員全員を古城に招待します。Bargを逆に読むとGrab(墓)であることに気づいた「ぼく」は、彼の用意した料理や酒を口にしませんでした。
 会員の無鉄砲な性質を利用して死に誘うのが見事です。バルクは「人生とは怪物の屁のようなものだ」と語っていましたが、その彼が死してなお生きることに執着したという皮肉が利いています。

ペール・ラシェーズの墓地」Das Grabmal auf dem Père Lachaise(1913)
 一年間、ひとりきりで大理石の部屋(亡き依頼人の墓)で過ごせば大金が手に入る。毎日、素晴らしい食事を運んでもらえるし、仕事をする時間はたっぷりある。科学者で美食家の「わたし」にとって最高の条件と思えたのですが……。
 上手い話には当然裏があります。それは、墓に閉じ込められた男が不安や恐怖に苛まれるのを依頼人が想像して楽しむなんて生やさしいものではありません。恐ろしくて滑稽、敵の裏をかいたと思いきや悲惨なオチが待っている……。これぞ恐怖とユーモアが融合した傑作ではないでしょうか。

死の舞踏Gebärden da gibt es vertrackte(1914)
 恋人を亡くした医学生のオスターマンは、仮面舞踏会で出会った女に惹かれます。それもそのはず、彼女は……。
 オチはすぐ読めるんですが、その後の描写がとても気持ち悪いです。

刺絡」Das Aderlassmännchen(1909)
 解剖用の遺体を手に入れてあげたのと引き換えに、修道院で刺絡を行なう医師とすり換わった悪魔。
 真っ昼間から堂々と尼僧の血を吸いまくるのが凄い。余りの残虐さに、肖像画のキリストの口が開き、悲鳴をあげようとしてしまいます。ちなみに、刺絡とは鍼で静脈を刺し、悪い血を排出させる医術のことです。

レアティーズ」Laertes(1905)
 かつてハムレットを演じ、舞台上でレアティーズ役の若者を誤って殺してしまったプリンツ。再びハムレットを演じることになるのですが、本番が近づくに連れ、レアティーズは自分を殺しにきた死神としか思えなくなります。
 オチは、いかにも恐怖小説らしい。ミステリーなら真逆になるでしょう。それにしても、普通、亡霊に苦しめられるといえばハムレットではなく、マクベスですよね。

メカニズムの勝利」Der Triumph der Mechanik(1906)
 独創的な玩具を次々に開発した天才技師が経営者と揉め、解雇されます。自分で会社を興そうとするのですが、経営者は行政と結託し、工場建設の認可を下ろさないようにしました。そこで技師は、玩具の兎を十億個、街に放つと宣言します。
 奇妙な復讐に、市長は最初大笑いしていました。しかし、「大きなダンプに轢かれてさえも(ママ)」壊れないほど丈夫で、さらに恐るべき機能を備えた兎の大群に敵うはずはありません。スラップスティックかつ人を食ったようなオチで、ほかの短編とは明らかに毛色が異なります。

『刺絡・死の舞踏他 ―シュトローブル短篇集』前川道介訳、創土社、一九七四