読書感想文(関田涙)

関田 涙(せきた・なみだ)

『モンスター誕生』リチャード・マシスン

Born of Man and Woman(1954)Richard Matheson

 以前、リチャード・マシスンの『奇術師の密室』の感想を書きました。
 これは晩年の長編だったので、今回は逆に処女短編集である『モンスター誕生』を取り上げることにします。

 マシスンは何でも器用にこなしますが、長編よりも短編に優れた作家だと思います。長編は間延びしていて、読むのが苦痛に感じる場合があります(『奇蹟の輝き』『アースバウンド』『闇の王国』などは辛かった)。
 一方、短編は、読みやすくて安定感があります。後世に語り継がれるような大傑作はないかも知れないけれど、読んで後悔するような外れも少ない。

 そのせいか、日本でも彼の短編集は数多く出版されています。そのなかで最も質が高いのは、間違いなく『モンスター誕生』です。
 マシスンは、ホラー寄りの作家にもかかわらず、デビュー当時は掲載誌の都合で、SF短編を主に発表していました。本意ではなかったのかも知れませんが、それらはアイディアも手法も非常に優れています。おまけに、ユーモアからシリアスまでこなすため、飽きもこず先も読めません。
『モンスター誕生』には、そうした出来のよい短編が収められています。ソノラマ文庫海外シリーズなのでちょっと手に入れにくいとはいえ、苦労に見合う価値を持った本であることは確かです(※1)。

 ただし、日本版の『モンスター誕生』には、原書の全十七編中十三編しか収録されていません。
 未収録のうちの三編はハヤカワ文庫の短編集『激突!』に、もう一編はハヤカワSFシリーズの『宇宙恐怖物語』に掲載されていたため割愛されました(後者は、後にマシスンの日本オリジナル短編集『運命のボタン』にも収録された)。
 マシスンのファンならすべて手に入れるでしょうから、こうした刊行の仕方は却って親切なのかも知れません(写真)。

 折角なので、今回は、すべての短編を原書どおりに並び替えて感想を書きます。
 緑色が『モンスター誕生』に、ピンク色が『激突!』に、青色が『運命のボタン』に収録されています。

モンスター誕生」Born of Man and Woman(1950)
 美男美女の両親から生まれた男の子は身の毛もよだつ怪物で、地下室に鎖でつながれています。
 マシスンのデビュー作であるとともに、今なお評価の高い短編です。八歳の少年が書いた日記の体裁をとった点が素晴らしい。無邪気さと不気味さが見事に融合しています。

太陽から三番目」Third from the Sun(1950)
 数年後に惑星が爆発することを知り、隣人とともに宇宙船に乗って脱出しようとする家族。実は……。
 このオチにはすっかり手垢がついてしまいましたが、発表当時は新鮮だったのかも知れません。藤子・F・不二雄の短編「流血鬼」の元ネタは『アイ・アム・レジェンド』であることがよく知られていますが、「箱舟はいっぱい」は「太陽から三番目」をヒントにしたのでしょうか(ただし、オチは全く違う)。

チャンネル・ゼロ」Through Channels(1951)
 映画館へいった少年ひとりを残し、リビングでテレビをみていた家族や知人家族が消えてしまいます。この事件を、警察による録音テープの再生という形で表現したホラーですが、今ではその手法より、テレビと恐怖を結びつけたマシスンの感覚の方が興味深い。家庭にテレビが普及し始めた一九五〇年代、テレビは大いなる娯楽であるとともに、得体の知れないものと考えられていたのでしょうか。古い娯楽である映画をみにいった少年だけが助かるというのも象徴的です。

異星の恋人クン」Lover, When You’re Near Me(1952)
「三つの月を持つ精神病棟」と呼ばれる惑星に赴任したリンデル。ほかの星の任期は二年なのに、ここだけ六か月なのも気になります。赴任者の精神がおかしくなるのは、テレパシー能力を持つグニー人のメイドのせいらしいのですが……。
 仮令、恋人であろうと想念を常に共有していたら気が狂うのもむべなるかな。グニー人の容姿は地球人からみた怪物ではなく、絶世の美女にした方が恐ろしいような気がします。

求む、ペンパ」SRL Ad(1952)
 金星に住む少女が、地球の雑誌にペンパル募集の広告を出します。冗談だと思って返事を書いた大学生の元へ、彼女が現れます。
 書簡体小説で、金星人に結婚を迫られる青年の恐怖を描いたと思いきや、意外な展開が待っています。

狂った部屋」Mad House(1953)
 小説が書けない、教授になれない、子どもがいない、妻と上手くいかない。そうした苛立ちが「もの」に蓄積され、襲い掛かってくるというオブセッションに囚われる男。
「もの」に襲われるシーンを前半に一度描いておき、クライマックスに同じシチュエーションを持ってくることで効果をあげています。

食物の誘惑」F---(1952)
 過去からタイムマシンでやってきたロバート・ウェイド博士が持ってきたのは「食べもの」でした。なぜなら、未来では食物が細菌兵器に汚染され、猥褻なものとされていたからです。
 原題は「Fuck」と「Food」を掛けているようです。ハヤカワ文庫の『リアル・スティール』に収録されている尾之上浩司訳のものは「おま★★」という邦題になっています。こちらは勿論「おまんま」と「おまん……(以下略)。

退屈すぎる日記」Dear Diary(1954)
 二十世紀と四十世紀と石器時代の少女の日記が並べられています。どの時代も内容は「全く同じ」なのが面白い。石器時代を最後に持ってきたのが効いています。

毒舌家の地獄」To Fit the Crime(1952)
 老詩人が臨終の際、家族に毒舌を吐きます。彼はその後、天国へゆくのですが、そこには彼が最も許せない「紋切り型」の神々がいました。鋭い言語感覚を持つ彼にとって、そこは正に地獄です。

魔女の戦争」Witch War(1951)
 七人の少女がライオンや象、犀といった猛獣に変身し、兵士の代わりに戦ってくれます。ただそれだけなんですけど、長編にしたら、さらに面白くなりそうです。

夕食までに帰るよ」Return(1951)
「食物の誘惑」と同じ「フォートカレッジ」ものです(※2)が、「夕食までに帰るよ」は『奇蹟の輝き』の原型といってもよいような感動のストーリーです。
 五百年後に到着したウェイド博士は、自分が不在だったため妊娠中の妻が死んだことを聞かされます。僅かな時間だけ死者を再生させられますが、魂は飽くまで亡くなった時代に戻ってしまいます……。『奇蹟の輝き』より、遥かに出来がよいです。

白絹のドレス」Dress of White Silk(1951)
「モンスター誕生」に似た短編ですが、こちらは少女の一人称で、母親の特殊な力を受け継いでいるようです。「魔女か、何らかの能力者」なのでしょうか。

旅芝居の火星人」Full Circle(1953)
 火星人の芝居の取材にいった駆け出し記者のウォルトは、看板役者である火星人にインタビューをします。劣等種族と教えられてきた火星人が、実は思慮深い生物であることに気づきます。同時に、地球人が火星を侵略し、大量の火星人を虐殺したことを知るウォルト。
 ふたりは人種を超えて兄弟のように理解し合いますが、ウォルトの記事は採用されず、彼は再び日常に埋没してゆきます。いつだって、理想は現実に勝てません……。

蒸発」Disappearing Act(1953)
 作家として全く芽が出ない男。彼の周りから少しずつ知人やものが消えてゆきます。単に消えるだけでなく、そんな人(もの)が存在したことを誰も覚えていません。やがて……。
 作家として立つことができるか否か悩んでいた若き日のマシスンの不安が「消える」ことにつながったとされています。「狂った部屋」とよく似たテーマながら、こちらは「自分を理解しない世界なんか消えてしまえ」が、「この世界にとって自分など必要でないかも知れない」に変わる恐怖を描いています。

不吉な結婚式」The Wedding(1953)
 奇妙な迷信や儀式に取り憑かれた新郎は、結婚式でも奇怪な行動で周囲を驚かせます。ところが、その甲斐もなく、新婦を抱きかかえたとき、心臓麻痺で亡くなってしまいます。果たして、悪魔の仕業なのでしょうか。
 よくできたユーモア短編です。都合が悪いことは悪魔のせいにしたくなるんですよね。特に女性は……。

わが家は宇宙船」Shipshape Home(1952)
 住宅難の時代に、広いアパートを格安で借りた夫婦。やがて、地下室に巨大なエンジンがあることが分かり、管理人の後頭部には三つ目の眼があって……。
 このアパートは異星人のロケットで、地球人のサンプルを得るため安い家賃でおびき寄せた……と思いきや、という話です。オチはもう一捻り欲しいですね。

ゴルゴダへの旅」The Traveller(1954)
 タイムマシンでイエス・キリスト磔刑の場面に向かったジェイラス教授がみたものは……。
「水をワインに変えた」「嵐を静めた」など様々な奇跡が伝わっていますが、教授はそれよりも素晴らしい奇跡を目の当たりにします。奇しくもその日は、クリスマスイヴでした。

※1:ほかの短編集を寄せ集めれば十七編中十六編は読める。「求む、ペンフレンド」のみ、ほかに翻訳がなさそう。

※2:「フォートカレッジ」ものは、「夕食までに帰るよ(帰還)」「心の山脈」「食物の誘惑(おま★★)」「旅人」の四作ある。「心の山脈」はハヤカワ文庫の『リアル・スティール』に、「旅人」は角川文庫の『リアル・スティール』に収録されている。


『モンスター誕生 ―魔女からエイリアンまで』柿沼瑛子訳、ソノラマ文庫、一九八五
『激突!』小鷹信光訳、ハヤカワ文庫、一九七三
運命のボタン伊藤典夫・尾之上浩司訳、ハヤカワ文庫、二〇一〇


→『奇術師の密室リチャード・マシスン

ソノラマ文庫海外シリーズ
→『悪魔はぼくのペットゼナ・ヘンダースン
→『吸血ゾンビ』ジョン・バーク
→『アメリカ鉄仮面』アルジス・バドリス
→『御先祖様はアトランティス人』ヘンリー・カットナー