読書感想文(関田涙)

関田 涙(せきた・なみだ)

『宇宙人のしゅくだい』小松左京


 忘れもしません。僕はこれを小学一年生のときに読みました。
 もちろん、当時、青い鳥文庫は存在せず、僕が持っていたのは、確か「少年少女講談社文庫」という単行本でした。
 後に僕は、国内外のSF小説にどっぷりはまることになりますが、それはこの小説の影響が大きかったのではないかと思っています。

『宇宙人のしゅくだい』は、子ども向けのSFショートショート集です。けれど、そのクオリティやテイストは、著者の一般向けのショートショート(僕が好きなのは「牛の首」とか「胎内めぐり」とかかな)と遜色ありません。
 いや、それどころか、大人向けとしても十分耐えうる内容を維持しつつ、七歳の少年を熱中させるのは並大抵ではないことが、自分も小説を書くようになった今では、よく分かります。
 何しろ七歳といったら、ようやく漢字が少し読めるようになったレベルではありませんか。そんな洟垂れ小僧が、挿絵は入っていたものの、ほぼ活字の力のみによって、輝かしい、あるいは悲惨な未来を想像し、遥か宇宙に思いを馳せ、夢の科学技術に心躍らせたのです。
 僕にとっては、名作というより、まさに怪物といえる一冊です。
 ま、何度読み返しても、そこに一体どんな魔法が仕掛けてあるのか分からず、ただただ呆然とするばかりなのが情けないんですけど……。

 ところで、『宇宙人のしゅくだい』には、もうひとつ忘れられない思い出があります。
 この本の面白さをひとり占めするのはもったいないと思った僕は、「チュウ」という渾名の奴(※)に「すげーから、読んでみろ」と貸してあげました。
 ところが、返ってきた本をみると、数ページにわたって、カッターナイフのようなもので切り刻まれているではありませんか。
「弟がやっちゃったんだ」というチュウのいいわけなど耳に入らず、家に帰った僕は、布団をかぶって、しばらく泣き続けたことを覚えています。
 好きなものこそ、傷つけられたり汚されたりした姿をみたくないものです。その後、僕は、この本を本棚の奥にしまい込むと、内容のみを残し、書籍の存在自体は記憶から消すように努めました……。

 傷の癒えた今は、当然、青い鳥文庫版を持っています。
 小・中学生はもちろん、大人の方にもおすすめです。
 なお、ご購入の際は「マジカルストーンを探せ!」シリーズも併せてレジにお持ちいただけると幸いです。え、そっちは聞いたこともないですって?

※:単に苗字が「荒井」だから、そんな渾名をつけられていた。ちなみに、少し調べてみると『宇宙人のしゅくだい』が発行されたのと、荒井注がドリフを脱退したのは、いずれも同じ一九七四年三月だった。僕にしか関係のない奇妙な暗合である。

『宇宙人のしゅくだい』講談社青い鳥文庫、一九八一

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