読書感想文(関田涙)

関田 涙(せきた・なみだ)

『冒険少女ミス・ワンダー』久松文雄


 今回は、漫画です。
 戦う少女に関しては、おたく的な興味ではなく、女の子たちにどの程度受け入れられるのか、ずっと気になっています。
 セーラームーンプリキュアなど成功例はあるにしても、青い鳥文庫の読者は、もう少し年齢が上ですし、彼女たちを対象とした漫画や小説で、単純にバトルを繰り返すようなものは、ほとんどありません。そこを追い求めていっても碌なことにはならないと思いつつ、完全には捨て切れない。
 マジストもそうでしたが、新作の『怪盗パピヨン』でも、何とかエッセンスだけでも表現できないかと考えています。

 さて、『冒険少女ミス・ワンダー』は、『リボンの騎士』や『美少女戦士セーラームーン』と同じ「なかよし」に一九六八年に連載(全五回)されました。
 変身系戦闘美少女ものの先駆作としては石川球太の『スーパーローズ』があり、人気、知名度では『リボンの騎士』に遠く及ばず、すっかり忘れられた存在ですが、なかなかどうして侮れません。

 サーカスの花形スター、ミス・ワンダーことサリーちゃん。彼女のパパは、ピエロに身をやつしていますが、実は高名な医学博士で、人類に平和を齎すウルトラホルモンローヤルXという薬を開発しました。
 しかし、それを奪おうとする、女だけの組織フクフク団に殺されてしまいます。死ぬ間際のパパから、薬の秘密が隠されたペンダントを渡されたサリーちゃんは、メイスン博士に会うためニューヨークに渡りますが……というのが、あらすじです。

 この作品の興味深いところは、敵は全員女性で、サリーちゃんを助けてくれるのは全員男性(ヒョウのオスを含む)ってこと。
 フクフク団のスローガンは「世界の権力を女性の手に」で、首領のサイケデリックメリーは「女性の力によって男性をどれいのように支配する」と宣言します。
 それに対し、当然、男どもは敵意を剥き出しにし、「いままでいちども男の子にもてたことがないんでヒステリーになってるんだ」などと幼稚な反論で対抗するわけです。
 一九六八年といえばウーマン・リブ運動真っ盛りの頃ですから、作者の憤懣やるかたない気持ちも分かりますが、「『なかよし』で、これをやるか!」というのが正直なところ……。

 ちなみに、サリーちゃんは、ムチの名手ですが、戦うのは最初だけ。その後は影がめっきり薄くなり、男対女の醜い争いを傍観しているだけになってしまいます。
 ここが、並の戦闘美少女ものとは明らかに違う点でしょう。異色というか、はっきりいってジャンルを逸脱しています(こっちが勝手に分類してるだけだけど)。

 けれど、この作品が本当に素晴らしいのは、上記のことなど全く気にならないほどサリーちゃんが可愛いこと(写真)。何もしなくても許せちゃいます。
 絵柄は、今でも全く古さを感じさせませんし、小太りで不細工な父親を「わたしのすてきなパパよ」と堂々と宣言するシーンなど涙ものです。
 やや中途半端に終わっていますから、ぜひ続編を期待したいと思います。

『冒険少女ミス・ワンダー』久松文雄作品選18、アップルBOXクリエート、二〇〇六

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