前回の読書感想文を書いたとき、「何だかもっと変なものを食う小説があったなあ」とぼんやり思っていました。
バクに似たような感じで、日本にはいなそうな動物だったはずなんですが、それが何だったか、誰の、何という作品に出てきたか、さっぱり思い出せず、気持ち悪い日々を過ごしていました。
記憶にあるのは、舞台が外国だったこと、そして、その動物はやたらと美味そうだったことの二点のみ。
それから、暇をみつけては本棚を捜索していたんですけど、なかなかみつかりませんでした。というのも、外国産の動物だったので、てっきり海外文学だと思い込んでいたからなんですね。
結論からいうと、それは井上ひさしの『黄色い鼠』(1977)(写真)でした。
第二次世界大戦中のオーストラリアにおける日本人収容者たちの日常と脱走を描いた作品です。とてもユニークな小説なのですが、今回は内容について語らず、早速、問題のシーンを引用してみましょう。
以下、主人公とアボリジニの老人の会話です。
「な、なんです、その食蟻猬というのは……」
「猫ほどの大きさの動物でね、脂が多い。こいつを捕えたらまず内臓を取り出しておき、次に地上に穴を掘り、そこへこいつを埋めて水をかける。で、その上に焼いた熱い灰をかけしばらくおいておく。ころあいをみて、こいつを灰の中から引き揚げて、針をつかんで引っぱる。すると、針のついたまま皮がごっそりと剥ける。そのときはいい匂いがしてねえ」
ね。美味しそうでしょう。
なお、「食蟻猬」には当然ルビがふってあります。何と読むか、お分かりですか?
答えは次(文字を反転させてください)。
(アリクイではなく「ハリモグラ」です。
大きさは猫くらいで、針が生えていて、オーストラリアにいて、アリを食う動物といえば、これですね)
『黄色い鼠』文春文庫、一九八〇
→『井上ひさし笑劇全集』井上ひさし
戦争文学
→『騎兵隊』イサーク・バーベリ
→『虹』ワンダ・ワシレフスカヤ
→『イーダの長い夜』エルサ・モランテ
→『第七の十字架』アンナ・ゼーガース
→『ピンチャー・マーティン』ウィリアム・ゴールディング
→『三等水兵マルチン』タフレール
→『ムーンタイガー』ペネロピ・ライヴリー
→『より大きな希望』イルゼ・アイヒンガー
→『汝、人の子よ』アウグスト・ロア=バストス
→『虚構の楽園』ズオン・トゥー・フォン
→『アリスのような町』ネヴィル・シュート
→『屠殺屋入門』ボリス・ヴィアン
→『審判』バリー・コリンズ
→『裸者と死者』ノーマン・メイラー