Los pasos pérdidos(1953)Alejo Carpentier
ベッドに入った後、ふと気になることができてしまい、起き出して調べものをする、なんてことはありませんか。僕は、しょっちゅうあるんです。
それは、わざわざインターネットで検索するようなことではなく、極めて個人的なことだったり(中二のとき、××したのは誰だったっけ?)、どーでもいいようなこと(冷蔵庫のドアが閉まらなくなってパニックになる映画のタイトルは?)だったりします。といっても、一度気になり始めると眠れないので、ときには何時間もかかって解決する、ないしは諦めることになります。
で、この前、思いついたのは「バクが登場する小説ってあったっけ?」というやつ。
勿論、マジストにバクのキャラが出てくるので、こんな疑問が浮かんだのでしょう。
しかも、僕が求めたのは、夢を食うといわれる架空の生きものの獏ではなく、現実にいるバクの方。
日常生活のなかでバクと触れ合う機会がある人は、そんなにいないでしょうから、可能性としては「登場人物が動物園へゆき、そこでバクについて話す」なんてのを思いついたのですが、ここで「待てよ」と思いました。
そんなありそうでなさそうなシチュエーションを探すより、南米やアジアのジャングルを舞台にした小説なら、ひょこっとバクが出てくるのではないか、と考えたんですね。幸いラテンアメリカの小説なら数多く所持しているので、適当に本棚を当たってみたところ、割と簡単にみつかりました。
それが、時の魔術師の異名をとるキューバの大作家アレホ・カルペンティエルの『失われた足跡』(写真)です。
ここには南米の動植物がうじゃうじゃ出てくるんですが、そのなかにバクは、何と食料として登場します。撃ち止めたバクを解体して焼き、肉だけでなく臓物まで食するシーンが具体的に書かれているんですね(へえと思ったのは、首の剛毛を火にかけて肉を焼くところ)。
少しグロテスクではありますが、こうした細かい描写は絶対に必要です。
この小説、大都会に住む音楽家が、オリノコ河の上流のジャングルに理想郷をみつけるものの、いったん都会に戻ったところ、理想郷へゆくための〈しるし〉がみつからなくなってしまう、という桃源郷のような話なのですが、未開の地に住む人々の風習や価値観をリアルに感じてこそ、読者は、主人公と一緒に時間を超える旅を体験できるからです。
因みに、理想郷といっても、ぬるさは微塵もありません。
インディオに殺された神父は、心臓をえぐり出され、睾丸を抜き取られ、皮を剥がれますし、ある感染症を患った男は、少女の性器を引き裂いた罪で顔面を銃で撃ち抜かれます。
それを異様に思うどころか、ある種の興奮を齎すのは、原始への憧憬みたいなものなのかも知れません。
なお、主人公が一度都会へ戻るのは、音符を書き留めるための紙とインクがなくなったから。
これも何となく分かる気がするんですよね。無人島に漂流しても、一生分の書籍だけは欲しいですもん。
追記:イサベル・アジェンデの『神と野獣の都』にもバクを食べるシーンがあります。
追々記:二〇一四年五月、岩波文庫から復刊されました。
『失われた足跡』牛島信明訳、集英社文庫、一九九四
→『この世の王国』アレホ・カルペンティエル