読書感想文(関田涙)

関田 涙(せきた・なみだ)

『女になりたい』リタ・メイ・ブラウン

Rubyfruit Jungle(1973)Rita Mae Brown リタ・メイ・ブラウン(※1)は、フェミニズム作家で、公民権運動やLGBTの社会運動にもかかわってきました。テニス選手のマルチナ・ナブラチロワのかつての恋人、ボブ・ディランの「Rita May」(※2)のモデルと…

『日曜日は埋葬しない』フレッド・カサック

On n'enterre pas le dimanche(1958)Fred Kassak ミステリー作家の書いた、いわゆる普通のミステリー小説を扱うのは、フレドリック・ブラウンの『不思議な国の殺人』以来、何と二年ぶりです。 感想を書いていないだけでミステリーも読んではいるものの、ほ…

『ラブストーリー、アメリカン』

Love is Strange: Stories of Postmodern Romance(1994)Joel Rose, Catherine Texier『ラブストーリー、アメリカン』(写真)は、ジョエル・ローズとキャサリン・テクシエが編んだ恋愛アンソロジーです。 とはいえ、甘く切ない短編小説が読みたい方には全…

『魚が出てきた日』ケイ・シセリス

The Day the Fish Came Out(1967)Καίη Τσιτσέλη『魚が出てきた日』(写真)は、『その男ゾルバ』などで知られるギリシャの映画監督マイケル・カコヤニスが脚本・監督した作品で、本書はそれをケイ・シセリスがノベライズしたものです。 シセリスは両親がギ…

『黒い黙示録』カール・ジャコビ

Revelations in Black(1947)Carl Richard Jacobi カール・リチャード・ジャコビ(※)は活動期間が長い割に寡作のせいか、日本では単著がひとつしか出ていません。その貴重な一冊が『黒い黙示録』(写真)です。 短編を量産しないタイプの作家(例えば、ス…

『歯とスパイ』ジョルジョ・プレスブルゲル

Denti e spie(1993)Giorgio Pressburger ジョルジョ・プレスブルゲルはハンガリー出身なので、本名はPressburger Györgyと、姓が先になります。 彼はハンガリー動乱(一九五六年)の際、イタリアに亡命します。ジョルジョは双子で、最初のうちは兄弟のニコ…

『悪魔の収穫祭』トマス・トライオン

Harvest Home(1973)Tom Tryon ホラー小説はほとんど読まないので、偉そうなことはいえませんが、トマス・トライオンの『悪魔の収穫祭』(写真)は伝説級の傑作だと思います。 これが書かれたのは一九七三年。スティーブン・キングが『キャリー』でデビュー…

『おしりに口づけを』エペリ・ハイオファ

Kisses in the Nederends(1995)Epeli Hauʻofa エペリ・ハイオファはトンガ人の宣教師の息子としてパプアニューギニアで生まれました。彼は、トンガやフィジーの大学で社会学を教える傍ら小説を書きましたが、作品数は多くありません(フィクションより学術…

『アリスの教母さま』『アーモンドの樹』『まぼろしの顔』ウォルター・デ・ラ・メア

Walter de la Mare 詩人であり児童文学者でもあるウォルター・デ・ラ・メアの童話や絵本は、幻想的な作風のためか大人にも人気があります。 岩波少年文庫や福音館文庫といった児童文庫から刊行されているデ・ラ・メアはロングセラーなので、今でも安価で購入…

『タバコ・ロード』アースキン・コールドウェル

Tobacco Road(1932)Erskine Caldwell アースキン・コールドウェルは第二次世界大戦前に人気のあった作家で、戦後は影が薄くなってしまいました。ノーベル賞を受賞し、今なお読まれているウィリアム・フォークナーやジョン・スタインベックなどと比較すると…

『詳注版 月世界旅行』ジュール・ヴェルヌ、ウォルター・ジェイムズ・ミラー

The Annotated Jules Verne: From the Earth to the Moon(1978)Jules Verne, Walter James Miller SFの父ジュール・ヴェルヌの「大砲クラブ」三部作(※1)は、以下の作品から成っています。1 『De la Terre à la Lune』(1865)2 『Autour de la Lune…

『これは小説ではない』デイヴィッド・マークソン

This Is Not a Novel(2001)David Markson デイヴィッド・マークソンは『ウィトゲンシュタインの愛人』で注目された後、「マークソンの四部作(ノートカードカルテット)」と呼ばれる作品群を発表しました。それが以下の四作です。 『Reader's Block Dalkey…

『ヴァテック』ウィリアム・ベックフォード

Vathek(1786)William Beckford ウィリアム・ベックフォードの『ヴァテック』には、様々な翻訳本があります。 古くは春陽堂の世界名作文庫が矢野目源一訳で刊行し、後に生田耕作の補訳で奢灞都館からも出版されています。ほかにも、小川和夫による『異端者…

『プリティ・リーグ』サラ・ギルバート

A League of Their Own(1992)Sarah Gilbert『プリティ・リーグ』は一九九二年に公開された映画で、そのノベライズが本書(写真)です。「プリティ・リーグ」という言葉は日本オリジナルで、米国には現実にも虚構にもそのような固有名詞はありません。原題…

『酔いどれ列車、モスクワ発ペトゥシキ行』ヴェネディクト・エロフェーエフ

Москва — Петушки(1973)Венедикт Ерофеев ヴィネディクト・エロフェーエフの散文詩『酔いどれ列車、モスクワ発ペトゥシキ行』(写真)は一九七〇年頃に書かれ、サミズダート(地下出版)で人々に読まれていました。 正式な出版は一九七三年イスラエルにお…

『愛の果ての物語』ルイザ・メイ・オルコット

A Long Fatal Love Chase(1995)Louisa May Alcott(as A. M. Barnard) ルイザ・メイ・オルコットは、「若草物語」シリーズや『八人のいとこ』『花ざかりのローズ』など少女小説の作者として知られています。 オルコットの特徴は心温まるエピソードと明る…

『あっぱれクライトン』J・M・バリー

The Admirable Crichton(1902)J. M. Barrie 河出書房の市民文庫は、一九五一年一月から一九五四年一月までのちょうど三年間だけ存在した文庫です。 現在の文庫本より左右がやや短く、オレンジと白のツートンカラーが特徴的です。カバーはなく、パラフィン…

『トコ博士の性実験』マルコ・ヴァッシー

Mind Blower(1972)Marco Vassi マルコ・ヴァッシーは、ポルノグラフィを中心に執筆した作家です。といっても、単なる官能小説家ではなく、実験的な作品が多いため、ヘンリー・ミラーと比較されることが多い……と書くと、不吉な予感がする方もいらっしゃるで…

『夢小説』アルトゥル・シュニッツラー

Traumnovelle(1926)Arthur Schnitzler 森鷗外は、同じ年齢で、ともに医師でもあるオーストリアの作家アルトゥル・シュニッツラーに共感し、以下の七編を翻訳しています。 「短劔を持ちたる女」 「アンドレアス・タアマイエルが遺書」 「猛者」 「耶蘇降誕…

『コブラ』セベロ・サルドゥイ

Cobra(1972)Severo Sarduy キューバで医学を学んでいたセベロ・サルドゥイは、パリに留学した際、雑誌「テル・ケル」を制作していた知識人たちと出会いました。そして、一年後に奨学金が切れてもキューバに帰らず、そのままパリに残りました。 フィデル・…

『わが心の子らよ』ガブリエル・ロワ

Ces enfants de ma vie(1977)Gabrielle Roy 移民文学というジャンルのなかで、子ども(たち)を主人公にした作品は一際輝いてみえます。 主役が子どもなので、必然的に移民二世以降の物語となります。多くは作者自身をモデルにしており、貧しく、虐げられ…

『真夜中の黒ミサ』『悪夢の化身』『13人の鬼あそび』『神の遺書』

A Century of Horror Stories(1935)Dennis Wheatley「恐怖の一世紀」は、作家のデニス・ホイートリーが、一九三五年までの約百年間(※)に書かれたホラーの短編のなかから五十二編を選んだアンソロジーです。 原書から数編割愛して翻訳するなど中途半端な…

『太った女、やせた女』メアリー・ゲイツキル

Two Girls, Fat and Thin(1991)Mary Gaitskill メアリー・ゲイツキルは少女の頃、「将来は娼婦になる」と宣言して両親を驚かせた(※1)とか。その後、娼婦ではなくストリッパーになり、それ以外にも麻薬の売買、暴力事件、高校退学、家出、精神病院に入院…

『地下組織ナーダ』ジャン=パトリック・マンシェット

Nada(1972)Jean-Patrick Manchette 以前も書きましたが、暗黒小説(ノワール小説)とは、アメリカの犯罪小説(ホレス・マッコイやジェイムズ・M・ケインなど)の翻訳をきっかけに生まれたフランスの犯罪小説を指します。 広義では、フランス以外の国の犯…

『完全版ピーナッツ全集』チャールズ・M・シュルツ

The Complete Peanuts(2004-2016)Charles M. Schulz 二〇二〇年十一月の配本で、チャールズ・M・シュルツの『完全版ピーナッツ全集』全二十五巻+別巻が完結しました。 このブログでは絶版や非売品など普通の書店で入手できない本の感想を書いており、本…

『ボロゴーヴはミムジイ』『御先祖様はアトランティス人』『世界はぼくのもの』ヘンリー・カットナー

Henry Kuttner(a.k.a. Lewis Padgett) ヘンリー・カットナー(※1)は二十近い筆名を用いたことで知られています。そのせいで、知らない作家が登場すると「またカットナーの変名か」と思われたそうです。 筆名のなかには妻であるC・L・ムーアとの合作ペ…

『審判』バリー・コリンズ

Judgement(1974)Barry Collins いきなりですが、物語のさわりを記します。 第二次世界大戦中、ドイツ軍は、南ポーランドにある修道院の地下室に、ロシア軍の捕虜七人を素っ裸で閉じ込め、水も食料も与えず置き去りにします。 二か月後、ふたりの兵士が生き…

『毒物』フランソワーズ・サガン

Toxique(1964)Françoise Sagan フランソワーズ・サガンは、二十一歳のとき、自ら運転していた車で事故を起こし、重傷を負います。何とか一命は取り留めたものの、痛み止めに処方された875(パルフィウム)と呼ばれるモルヒネの代用薬の中毒に悩まされま…

『ぬいぐるみさんとの暮らし方』グレン・ネイプ

The Care and Feeding of Stuffed Animals(1983)Glen Knape 今の若い人は信じられないかも知れませんが、僕の子どもの頃は「男が少女漫画や少女向け小説を読むのは恥ずかしいことだ」という風潮がありました。 そのため、小学生のときから付録つきの少女漫…

『黄金の谷』ジャック・シェーファー

The Pioneers(1954)Jack Schaefer 以前の記事で、『新鋭社ダイヤモンドブックスの「西部小説シリーズ」(※1)は十四巻まで予告されたものの、確認できるのは六冊のみ』と書きましたが、最近になって七冊目を発見しました。 恐らく最後の配本だったであろ…