読書感想文(関田涙)

関田 涙(せきた・なみだ)

アメリカ

『キンドレッド』オクテイヴィア・E・バトラー

Kindred(1979)Octavia E. Butler オクテイヴィア・E・バトラーは「黒人・女性・SF作家」です。 この三つの条件を満たす作家はそれほど多くなさそうです。思いつく範囲ではナロ・ホプキンスン、アンドレア・ヘアストン、N・K・ジェミシン、タナナリヴ…

『連れていって、どこかへ』ローレン・ケリー

Take Me, Take Me With You(2004)Lauren Kelly 前回の『Gストリング殺人事件』では、ゴーストライターの話をしましたが、今回は作家の別名義についてです。『連れていって、どこかへ』(写真)のローレン・ケリーとは、ある著名な作家の別名です。 本来の…

『Gストリング殺人事件』ジプシー・ローズ・リー

The G-String Murders(1941)Gypsy Rose Lee ジプシー・ローズ・リーは、アメリカンバーレスクのストリッパー(※1)。「バーレスクの女王」と呼ばれ、映画やテレビにも数多く出演したそうです。彼女はさらに多彩ぶりをみせつけ、推理小説まで執筆しました…

『ジェラルドのパーティ』ロバート・クーヴァー

Gerald's Party(1986)Robert Coover リチャード・ブローティガンにはかつてミステリー、ホラー、ウエスタン、ハードボイルドといった異なる形式を用いて連続して長編小説を発表していた時期がありました。 ロバート・クーヴァーは、いわばそれをずっとやっ…

『だれがコロンブスを発見したか』『そしてだれも笑わなくなった』『嘘だといってよ、ビリー』『ゴッドファザーは手持ち無沙汰』『コンピューターが故障です』アート・バックウォルド

Down the Seine and Up the Potomac With Art Buchwald(1977)/The Buchwald Stops Here(1979)/Laid Back In Washington With Art Buchwald(1981)/While Reagan Slept(1983)/You Can Fool All of the People All the Time(1986)/I Think I Don’t Re…

『絢爛たる屍』ポピー・Z・ブライト

Exquisite Corpse(1996)Poppy Z. Brite サイコサスペンス、ニューロティックスリラー、猟奇ホラーなどに分類されるような小説・映画・漫画は、毎年のように話題になる作品が現れます。僕も嫌いじゃないので色々と試してみますが、刺激に慣れてきたのか、大…

『バドティーズ大先生のラブ・コーラス』ウィリアム・コツウィンクル

The Fan Man(1974)William Kotzwinkle ウィリアム・コツウィンクルの小説のなかでは『ファタ・モルガーナ』が一番好きと書きましたが、それとは対極にありながら、別の意味で愛すべき作品が『バドティーズ大先生のラブ・コーラス』(写真)です。 いや、対…

『ミュンヒハウゼン男爵の科学的冒険』ヒューゴー・ガーンズバック

Baron Münchhausen's New Scientific Adventures(1915)Hugo Gernsback ヒューゴー賞は、SFの賞としては最も古く、最も知名度が高いのですが、その名の元となったヒューゴー・ガーンズバックの小説を読んだことがある人は、どれくらいいるでしょうか。 日…

『野蛮人との生活』シャーリイ・ジャクスン

Life Among the Savages(1953)Shirley Jackson ここのところ、ちょっとしたシャーリイ・ジャクスンブームらしく、長編や短編集の新訳が出版され続けています(※)。ここ一年以内にも『絞首人』『日時計』『なんでもない一日』(全訳ではない)が新たに訳さ…

『決戦! プローズ・ボウル』ビル・プロンジーニ、バリー・N・マルツバーグ

Prose Bowl(1980)Bill Pronzini, Barry N. Malzberg ビル・プロンジーニは、「名無しの探偵」シリーズで有名なミステリー作家。ただし、僕は推理小説をほとんど読まないので、エラリー・クイーン編の『新 世界傑作推理12選』に収録されている「朝飯前の仕…

『明日に別れの接吻を』ホレス・マッコイ

Kiss Tomorrow Goodbye(1948)Horace McCoy ホレス・マッコイは、アメリカよりもフランスで先に評価された作家です。 実存主義の元祖としてジャン=ポール・サルトルらに絶賛され、アーネスト・ヘミングウェイ、ウィリアム・フォークナー、ジョン・スタイン…

『フォックスファイア』ジョイス・キャロル・オーツ

Foxfire: Confessions of a Girl Gang(1993)Joyce Carol Oates ノーベル文学賞の発表が近づくと、よく名前があがるのが、ジョイス・キャロル・オーツ。 何を読んでも面白い、外れの少ない作家のひとりですが、多作かつ様々なジャンル・長さの小説を書くタ…

『プレーボール! 2002年』ロバート・ブラウン

The New Atom's Bombshell(1980)Robert Browne(a.k.a. Marvin Karlins) ロバート・ブラウンの『プレーボール! 2002年』(写真)は、タイトルやカバーイラストをみると「宇宙を舞台に異星人と野球で対決するSF小説」と思われるかも知れません(寺…

『ブロードウェイの天使』デイモン・ラニアン

Damon Runyon デイモン・ラニアンは、ジャーナリスト出身で、スラングを多用した生き生きとした語り口の短編を得意とするという意味で、リング・ラードナーと共通点があります(ふたりとも、野球の記者としての功績が認められ、J・G・テイラー・スピンク賞…

『ハンバーガー殺人事件』リチャード・ブローティガン

So the Wind Won't Blow It All Away(1982)Richard Brautigan 翻訳文学を楽しむ者にとって、リチャード・ブローティガンといえば藤本和子です。その結びつきが強すぎて、果たしてどちらを好きなのか分からなくなるくらい。一九七〇年代、本国では忘れられ…

『黄金の眼に映るもの』カーソン・マッカラーズ

Reflections in a Golden Eye(1941)Carson McCullers 今からちょうど三年前、二〇一二年最後の読書感想文がカーソン・マッカラーズの『心は孤独な狩人』でした。今年最後の更新では、彼女の次の作品である『黄金の眼に映るもの』(写真)を取り上げてみま…

『ジョン・バーリコーン』ジャック・ロンドン

John Barleycorn(1913)Jack London ジャック・ロンドンは、何といっても『野性の呼び声(荒野の呼び声)』と『白い牙』の二作が有名なので、彼をよく知らない人はアーネスト・トンプソン・シートン(※1)のような作家だと思っているかも知れません。 しか…

『マーク・トウェインのバーレスク風自叙伝』マーク・トウェイン

Mark Twain's (Burlesque) Autobiography and First Romance(1871)Mark Twain 今は亡き旺文社文庫は、一九六五年に誕生し、二十二年間で約千百冊が発行されました。 サンリオ文庫より二か月早い一九八七年六月に廃刊(※1)になったのですが、『マーク・ト…

『いたずらの天才』H・アレン・スミス

The Compleat Practical Joker(1953)H. Allen Smith メジャーリーグベースボール(MLB)では、主に新入りに対して、いたずらが仕掛けられることがあります。かつてニューヨーク・ヤンキースに在籍していた松井秀喜もその餌食となり、豹柄の仮装をさせら…

『セシルの魔法の友だち』ポール・ギャリコ

The Day the Guinea-Pig Talked(1963)/The Day Jean-Pierre was Pignapped(1964)/The Day Jean-Pierre Went Round the World(1965)/The Day Jean-Pierre Joined the Circus(1969)Paul Gallico このブログには下書き機能があり、常時五十くらい記…

『ヒヨコ天国』P・G・ウッドハウス

Love Among the Chickens(1906)P. G. Wodehouse 僕にとってP・G・ウッドハウスは、長い間、幻の作家でした。 彼の名前を知った頃、戦前の書籍や、短編が掲載された「新青年」は入手困難で、古本以外で読めるのは雑誌やアンソロジーに収録された短編か、…

『B・ガール』フレドリック・ブラウン

The Wench is Dead(1955)Fredric Brown 僕にとってSFとはフレドリック・ブラウンの小説そのものといっても過言ではありません。 特に『発狂した宇宙』と『火星人ゴーホーム』という二大傑作は、何度読み返したでしょうか。個人的には六対四くらいで『発…

『ラスベガス★71』ハンター・S・トンプソン

Fear and Loathing in Las Vegas: A Savage Journey to the Heart of the American Dream(1971)Hunter S. Thompson ハンター・S・トンプソンは、ゴンゾー(gonzo)ジャーナリズムの生みの親として知られています。 ゴンゾージャーナリズムがどんなものか…

『あなたはタバコがやめられる』ハーバート・ブリーン

How to Stop Smoking(1951)Herbert Brean 前回の『二日酔よこんにちは』で、田村隆一がハーバート・ブリーンの『あなたは酒がやめられる』(1958)から引用していましたが、これは二匹目の泥鰌です。 先に評判になったのは『あなたはタバコがやめられる』…

『二日酔よこんにちは』ハッソルト・デイヴィス

Bonjour, Hangover!(1958)Hassoldt Davis 先日、「セックス」の本(『SEXは必要か』)を取り上げたので、今回は「酒」の本を選んでみました。 次は「煙草」の本(『あなたはタバコがやめられる』)にしようかしらん。 ハッソルト・デイヴィスという人物…

『アメリカの果ての果て』ウィリアム・H・ギャス

In the Heart of the Heart of the Country(1968)William H. Gass 前回の『石の女』の原題は『In the Heart of the Country』。そして、この短編集の原題は『In the Heart of the Heart of the Country』です。Heartが二度繰り返される分だけ、奥の奥とい…

『現代イソップ/名詩に描く』ジェイムズ・サーバー

Fables for Our Time and Famous Poems Illustrated(1940)James Thurber 前回の『SEXは必要か』の注で簡単に記載したジェイムズ・サーバーの『現代イソップ/名詩に描く』ですが、訳本は主に二種類あり、どちらを買ってよいか悩む人もいると思いました…

『SEXは必要か』ジェイムズ・サーバー、E・B・ホワイト

Is Sex Necessary?: or Why You Feel the Way You Do(1929)James Thurber, E. B. White ジェイムズ・サーバーは、とても好きな作家のひとりですが、困った点は訳本の多くが傑作選だということ。 傑作選ということは、当然ながら収録作の重複が多くなります…

『勇気ある追跡(トゥルー・グリット)』チャールズ・ポーティス

True Grit(1968)Charles Portis メジャーリーグベースボールとロックンロールは若い頃と変わらず親しんでいますが、以前に比べ鑑賞する量が圧倒的に減ったのが西部劇です。十代の頃は、映画やテレビ、小説において、西部劇が頻繁に目に飛び込んできたもの…

『にわとりのジョナサン』ソル・ワインスタイン、ハワード・アルブレヒト

Jonathan Segal Chicken(1973)Sol Weinstein, Howard Albrecht いわずもがなですが、リチャード・バックの『かもめのジョナサン』Jonathan Livingston Seagull(1970)のパロディです。「かもめ」の方は五木寛之の訳で知られており、二〇一四年には、新た…