読書感想文(関田 涙)

関田 涙(せきた・なみだ)

『道のまん中のウェディングケーキ』スチュアート・ダイベック、アン・ビーティほか

The Wedding Cake in the Middle of the Road: 23 Variations on a Theme(1992)Susan Stamberg, George Garrett

 このブログでアンソロジーをほとんど扱ってこなかったのには、以下のような理由があります。
「好きな作家と嫌いな作家の差が激しいので、単著を好む」「個人短編集やほかのアンソロジーと収録作がカブるのが嫌」「短編より長編の方が好き」「編者による選択が恣意的なのが気になる」。

 しかし、単著の翻訳が期待できないユーモア短編、当たり外れが大きい恐怖短編などはアンソロジーのお世話になる機会が多くあります。
 また、大長編を読了して疲れが溜まっているときも、良質のアンソロジーは一服の清涼剤になります。
 苦手といいつつ、偏愛しているアンソロジーも少なからずあるため、今後は積極的に紹介してゆこうと考えています。

 とはいえ、『幻想と怪奇』「海外SF傑作選」「海外ロマンチックSF傑作選」「アメリカほら話」といったアンソロジーは余りにも有名になりすぎて、今更取り上げるのが少々恥ずかしいことも確かです。いわば、これから「ハリー・ポッター」の感想を書くみたいなものでしょうか。
 ま、僕のブログなんて、既に誰かが紹介していることを気にするほど大層なもんじゃありませんから、それらもそのうち臆面もなく取り上げようと思います。

 さて、一口にアンソロジーといってもテーマやジャンルは勿論、編集方針も様々です。同じ国や同じジャンルの作家を集めただけなんていう単純なものもあれば、厳しい制約を設けたものもあります。
 読者にしても、編者のこだわりを楽しむ人もいれば、珍しい短編を求める人もいます。ひたすら出来のよい短編を読みたいと考える人もいるでしょう。

 そんななか、『道のまん中のウェディングケーキ』(写真)は、テーマも作られた経緯もユニークです。
 編者のスーザン・スタンバーグラジオパーソナリティで、自分の番組でリレー小説の朗読をしてました。ところが、リレー小説は辻褄が合わなくなったり、とんでもない方向にいったりし、質の高い作品は期待できない。
 そこで「道のまん中のウェディングケーキ」という同一のイメージを元に、作家たちに短い物語を書いてもらうことにしたそうです(ラジオで朗読されたのは六編で、残りは書籍用に書かれた)。

 テーマを考えたのは、作家でもあり、大学の教員でもあるジョージ・ギャレットです。彼は、過去にも「黒いレインコートを着た女」というテーマで、プロ・アマ混じったアンソロジーを編んだことがあるとか。
 第二弾となる『道のまん中のウェディングケーキ』も前回同様、人気作家から聞いたことのない新人まで一列に並んでいます。

 一応は「書き下ろしアンソロジー」や「競作」に分類されるでしょうか。それに属するものとして最近では『FUNGI ―菌類小説選集』や『十の罪業』などがあります。
『道のまん中のウェディングケーキ』の場合、テーマの特殊性を考えると落語の三題噺に近いかも知れません。

 楽しい企画ではあるものの、ほとんどがメインストリームの文学で、なおかつウェディングケーキという素材は「結婚(離婚)」「家庭」「人生」に結びやすいため、何となく似たような印象の短編が多くなってしまったのが残念です。
 それを避けるには、様々に解釈可能な題材を選ぶか、もう少し幅広いジャンルの作家に書いてもらえばよかったのではないでしょうか。例えば、「ギターを背負った野良犬」などとして、SF、ホラー、ハードボイルド、ポルノグラフィなどが加わっていたら、より面白かったかも知れません(ミステリーだと日常の謎の競作になってしまいそうだが……)。

 折角なので、すべての短編に軽く触れようと思います。

僕はこの話を誰にもしなかった」(I Never Told This to Anyone)スチュアート・ダイベック
 僕がカービー叔父さんと縁(エッジ)に住んでいた頃、定期的に小さな花嫁花婿が訪ねてきた、という書き出しの短編。何の意なのか説明はなく、当然ながら道のまん中のウェディングケーキにも寓意がこめられています。これだけ短くても「人生」について語ってしまうのがダイベックらしい。

奇術師タンドルフォ」(Tandolfo the Great)リチャード・ボーシュ
 二十六歳の冴えない青年は、休日になると奇術師タンドルフォに変身し、ショウを行ないます。恋も仕事も手品も上手くゆかない惨めな男がカタルシスを得るためにウェディングケーキが重要な役割を果たします。ただし、プロポーズするのにウェディングケーキを買ってゆくという設定は無理がありすぎ。

ウェディング・ベル」(Bells)ジョゼフィン・ハンフリーズ
 離婚経験のある若い女性教師。精神科医ではないジェフコート先生のカウンセリングを受けており、余り有能そうではないのをいいことに、幸せであるという嘘をついていました。ある日、先生は「快方に向かっているので、もうこなくてよい」と告げます。しかも、それは彼女の嘘を承知した上での判断でした。現代の社会においては、これこそが理想的な人と人のつながりかも知れません。

なぞなぞ −秘密の名前はなに?」(To Guess the Riddle, to Stumble on a Secret Name)ジョージ・ギャレット
 ウェディングケーキに砂糖菓子でできた新郎新婦が載っていますが、なぜか花嫁ひとりに花婿がふたりいます。その謎を含めて、物語自体が謎だらけです。

」(Dogs)メアリー・リー・セトゥル
 排他的な南部の町で暮らす亡霊のような人々。ここで使われるウェディングケーキに、ほとんど意味はありません。

ふくろねずみ」(Possum)チャールズ・バクスター
 四歳下の弟を騙してお菓子やお小遣いを巻き上げていた姉。ドライブ中にウェディングケーキにぶつかったと弟に嘘をつきますが……。男は馬鹿な生きものと九歳にして悟っている姉は、ときにはしてやられることも覚えたようです。

質屋」(Pawnshop)マディソン・スマート・ベル
 男はドラッグ欲しさに怪しげな品を質屋へ持ち込みます。どこで手に入れたと問われると、トラックから落ちたと答えます。そんな馬鹿ないいわけは通じないと叱った途端、目の前の道を通ったトラックからウェディングケーキが落ちました。ま、そういうこともある……かな。

凍った電線」(Icy Wires)ベヴァリー・グッドラム
 不倫相手に旅行をすっぽかされたアリスは、友人にパーティに誘われるものの、結局出席しませんでした。何度別れようと決心しても、泥沼から抜け出せません。道に散乱したウェディングケーキに載っていた砂糖菓子の人形は花婿と、なぜかバレリーナでした。

飛ぶみたいなもの」(A Kind of Flying)ロン・カールソン
 結婚や人生の苦さを表現したものが多いなか、これは幸福な結婚を扱っています。四の五のいわずに飛んでみることが大切です。

甘美で野性的な夜」(Something Sweet and Wild)パム・ヒューストン
 満月の大晦日、恋人と雪山へゆき、シャンペンを持ってスキーをし、愛し合い、男は雪でウェディングケーキを作ってくれます。余りに自分とかけ離れすぎていて、ぐうの音も出ません。

永遠に」(Eternally Yours)ジョイ・ウイリアム
 ウェディングケーキが本ものからプラスティック製に変わり、大量に廃棄されるようになっても、人々は結婚式でケーキを飾るのをやめようとしませんでした。なぜなら、それは「希望」だからです。

本のまん中のウェディングケーキ」(The Wedding Cake in the Middle of the Book)ケリー・チェリー
 この本のちょうど真んなか十二番目にあるウェディングケーキに、洗濯鋏くらいの大きさになったあなたが登ってゆくと、そこに待っていたのは誰もが持っている「あれ」でした。

裁判」(The Trial)グレゴリー・マクドナルド
 唯一のミステリー作家で、ウェデイングケーキによって殺された事件を裁く法廷ものですが、謎解きというほどではありません。耳が遠い故、裁判中に内職をしたり、傍聴席の美女を気にしたりしている裁判長がおかしな判決を下します。笑えるような、そうでもないような……。

完璧な写真」(Picture Perfect)アン・ビーティ
「道に置いたウェデイングケーキに車がぶつかりそうになり、ギリギリで止まる」という広告写真を撮る現場での人間模様。人生のごく一部を切り取ったビーティらしいスケッチです。

ルート80」(Route 80)デイヴィッド・レヴィット
 道とウェデイングケーキと離婚。お題を与えられたとき、誰もが思いつきそうな話で、面白みがありません。

沈黙の意味」(The Quality of Silence)マリタ・ゴールデン
 離婚の危機を乗り越えた年配の夫婦と、婚約中のカップル(白人男性と黒人女性)が会食した帰り道、黒人青年にぶつかった夫が彼を侮辱します。それに対して、ほかのふたりが何もいわなかったことを黒人女性は批難します。競作で扱うには難しすぎる問題です……。ちなみに、作者のゴールデンは黒人女性です。

愛するのは今しかない」(The Time for Love)バーラティ・ムカージー
 カリフォルニアで歯科医をしているアブドゥル。彼は毎日のように、妻からバングラデシュに帰りたいと訴えられています。途中まではリアリスティックな物語だったのに、最後は妄想が暴走したようなオチに至ります。ムカージーコルカタ出身だそうです。

ありのままの僕を受け入れてくれ」(Take Me as I Am)ブライアン・クラム
 結婚式を控え、息子は父親に自分の女装趣味をカミングアウトします。結婚式はタキシードを着るというし、親戚に打ち明けるつもりもないのなら、どうしてこのタイミングで話さなくちゃいけないんでしょうか。
 そもそもウェディングケーキは結婚式当日に必要なものなので、自然に物語へ組み込むのに皆、苦労しているようです。ちなみに、結婚式の場面を現在形で描いた短編は二十三編中に一編もありません(さすがにストレートすぎると思ったのか)。

早朝の配達」(Early Delivery)ハンナ・ウィルソン
 ひとりで過ごしたくないため、まあまあの相手とデートしてセックスする少女。このまま結婚して、まあまあの人生を歩むのでしょうね。

ダーモットの夢」(Dermot's Dream)ジュディス・ゲスト
 夢のお告げどおりに人生の選択をしてきた老人が、道の真んなかにあるウェディングケーキの夢をみました。ロマンティックなラヴストーリーです。

サブリミナル・ケーキウォーク・ブレイクダウン」(The Subliminal Cakewalk Breakdown)アル・ヤング
 車の故障で立ち寄ったトラック運転手休憩所で、小さな事件に遭遇する黒人男性のお話。ホラーになりそうな設定ですが、ほんの少しだけ嫌なこととよいことが起こります。

ハット・トリック」(Hat Trick)アレン・ウイアー
 ドイツの移民をテキサスへ移送する仕事をしている男がふらりとバーへやってきます。彼らの貧しく過酷な状況を語った彼は、それでも奴らは帽子のケースでウェデイングケーキを作って、メキシコ人、黒人、ネイティブアメリカンらを呼んでパーティをするといいます。ほかとは毛色の違う短編です。

結婚の旅」(Their Wedding Journey)R・H・W・ディラード
 招待された結婚式に、子どもふたりを連れ、雪道を車で向かう熟年夫婦。ふたりはそれぞれ新婚時代に思いを馳せています。突然、妻はケーキ入刀の際、四人を乗せて吹雪のなかを走る車をみたことを思い出します。それは曲がりくねりながらも、人生の喜びに向かう道だったのです……と感慨に耽る妻の隣で、エロいことしか考えていない夫が笑えます。

『道のまん中のウェディングケーキ』柴田元幸ほか訳、白水社、一九九四

アンソロジー
→『12人の指名打者
→『エバは猫の中
→『ユーモア・スケッチ傑作展
→『ブラック・ユーモア傑作漫画集
→『怪奇と幻想