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読書感想文(関田 涙)

関田 涙(せきた・なみだ)

『プレーボール! 2002年』ロバート・ブラウン

アメリカ

The New Atom's Bombshell(1980)Robert Browne(a.k.a. Marvin Karlins)

 ロバート・ブラウンの『プレーボール! 2002年』は、タイトルやカバーイラストをみると「宇宙を舞台に異星人と野球で対決するSF小説」と思われるかも知れません(寺沢武一の『コブラ』に出てくるラグ・ボールみたいな)。しかし、その期待は裏切られます。
 というのも、この作品は、近未来を舞台にした真面目な(?)野球小説だからです。

 シカゴの二流大学の助教授であるマット・パラダイスは、メジャーリーグのシカゴ・アトムズのオーナーと知り合いになります。オーナーの死後、マットは遺産の受取人に指名されます。その遺産とは、二〇〇二年のシーズン、アトムズのオーナー兼投手となれば百万ドル手に入れられるというものでした。
 素人のマットは、大学時代の恩師でコンピュータの権威であるノーバート博士に相談し、チームにコンピュータを導入し、膨大なデータに基づいた作戦でアメリカンリーグ東地区(※)に旋風を巻き起こします。

 悪くいうと、古い漫画のような設定です。
 ミシガン湖のなかから突如マッシュルーム型のドーム球場が浮かび上がってきたり、宇宙服のようなユニフォームを着てプレーしたり、ヘルメットにはスピーカーが仕込んであり、そこから博士の指示が聞こえたり、ガマガエルのようなノックマシーンで練習したり……、今なら子ども向け漫画でも滅多にみられないでしょう。

 にもかかわらず、白けるどころかワクワクしてしまうのは、中島徳博の『アストロ球団』とか、ゴッセージの『マウンドの稲妻』といった異様な迫力のある野球漫画が大好きだったからかも知れません。
 マットは野球経験のほとんどない素人にもかかわらず、遺言によってローテーションに加わらなければならず、彼を勝たせるために集められるメンバーがとにかくヘンテコなのです。精神病院の患者で蠅取りの達人とか、音楽家とか、ナースとか、日本からきた強打者とか。
 なかでも一番の変わり者は、ノーバート博士です。彼は、研究に専念するため、自らの目を潰し盲目になったり、子どもを作らなくて済むようパイプカットしたりしている真のマッドサイエンティストで、アトムズを勝たせるため奇抜な作戦を考え出します。それ故、個性的な選手といえど博士の操り人形に過ぎません。

 実際、ペナントレースは、博士の思惑どおり進むのですが、最後の最後にマットは、博士(コンピュータ)に対して反乱を起こします。
 勝った方が地区優勝というヤンキースとの最終戦、宇宙服のようなユニフォームを脱ぎ捨て、自らの頭で考えた野球をするのです。そして、一点ビハインドの九回裏二死、代打に送ったのは、愛する恋人でした。

 当時流行し、現在も持て囃されているセイバーメトリクス等に一石を投じるという意図もあったようです。要するに「勝つためにはデータも必要かも知れねえけどさ、俺たちが好きなのは、投手が思いっ切り投げた球を、打者が思いっ切り引っ叩く野球なんだよ」という野球ファンが共通して持っている熱い思いを形にしたといえます。

 ……とまあ、こう書くと、荒唐無稽かつベタな展開とはいえ、よくできたエンタメ小説と思われるかも知れません。
 が、この作品の最大の欠点は、序盤に撒かれた数々の疑問が、結局ひとつも回収されない点にあります。
 亡くなったオーナーは、なぜ一度しか会ったことのないマットに一年間だけオーナーを代行させたのか、どうして彼をローテーションに加えたのか、なぜマットの正体を隠させる必要があったのか。
 こうした魅力的な謎を提示し、読者にそれが解かれる期待でページをめくらせておきながら、一切触れずに幕を閉じるというのは、エンタメとしてやはり反則ではないでしょうか。
 誰もが納得のゆく答えが用意されていれば、この作品は野球小説の傑作として歴史に名を残したかも知れないだけに、とても残念です。

 なお、ブラウンはベースボールプレイヤーでもあるそうで(解説では、プロを目指しているとあるが、どの程度の実力なのか定かではない)、クライマックスに面白いルールを持ち出します。
 それは「野手に触れない打球が、投手板に当たり、リバウンドして本塁一塁間または本塁三塁間のファウル地域に出て止まった場合には、ファウルボールである」という規則です。これって、野球ファンにも意外と知られていないかも。

※:現実にはシカゴのチームは東地区にならない。ブラウンは、単にヤンキースと戦わせたかったのではないか。なお、この小説内では現実のチームと架空のチームが入り混じっている。

『プレーボール! 2002年』広瀬順弘訳、ハヤカワ文庫、一九八一

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