読書感想文(関田 涙)

関田 涙(せきた・なみだ)

『セシルの魔法の友だち』ポール・ギャリコ

The Day the Guinea-Pig Talked(1963)/The Day Jean-Pierre was Pignapped(1964)/The Day Jean-Pierre Went Round the World(1965)/The Day Jean-Pierre Joined the Circus(1969)Paul Gallico

 このブログには下書き機能があり、常時五十くらい記事をストックしてあります。それにちょこちょこっと手を入れ、月に三〜五ずつ公開しています(例外もあり)。
 忙しくて本が読めないときも更新が滞らないので便利ですが、難点もあります。それは用意していた本が復刊してしまうケースです。そうなると、主に絶版、品切れ、在庫僅少の本を扱っている関係上、公開するのがためらわれるのです(※)。

 ポール・ギャリコは「ハリスおばさん」シリーズ(勿論、講談社文庫の頃からのファン)を準備していたのですが、最近「復刊の復刊」がされたようです。そのため、少し待たなければならないので、今回は『セシルの魔法の友だち』を取り上げることにします。

 ギャリコの児童書というと『トンデモネズミ大活躍』がよく知られていて、あちらは陶器の鼠ですが、『セシルの魔法の友だち』の方は鼠は鼠でも「天竺鼠(モルモット)」です。
 ギャリコは猫好きの間で人気のある作家です。けれど、鼠好きにとっても無視できない存在なのです(犬好きはジェイムズ・サーバーか)。

 なお、原著は、七年かけて四冊の本として別々に刊行されました。そのことからも、このシリーズは、ギャリコにとって大切なものだったことが分かります。
『ジェニィ』や『ほんものの魔法使』のように明らかに不思議なことは起こらないし、派手さはないけれど、小さなふたりが本当に可愛いので、大人にもぜひ読んでもらいたい作品です。

 ありがたいことに、福音館書店は、四冊を一冊にまとめてくれています。その際、便宜的に『セシルの魔法の友だち』というタイトルがつけられたようです。
 ちなみに、「ジャン=ピエール、さらわれる」は『モルモットからきたてがみ』、「ジャン=ピエール、世界をめぐる」は『モルモットのびっくり旅行』として、それぞれ偕成社から一九六九年に発行されています。

 ところで、『セシルの魔法の友だち』の挿絵は太田大八ですが、本書の刊行当時八十六歳(現在九十六歳)でした。歳を感じさせないほど洒落ていて、しかも懐かしいタッチのイラストが沢山収録されており、それだけでも得した気分になれます(写真)。

セシル、ジャン=ピエールに出会う
 カンヌに住む八歳の少女セシルは、学校の途中にあるペットショップに売られているモルモットに一目惚れして、ジャン=ピエールという名前までつけてしまいます。そして、セシルは、とうとうお小遣いをはたいて、ジャン=ピエールを手に入れます。
 セシルとジャン=ピエールは、お互いに話したいことが沢山ありますが、残念ながら言葉が通じません。そんなとき、古い振り子時計が魔法をかけてくれます。十二時の鐘を打つ間だけ、ふたりが会話できるようにしてくれたのです。

 ほんの短い間に何を話そうか悩みに悩み抜いて選んだ言葉は、ふたりとも同じ「愛してる」という一言でした。
 互いの気持ちは通じ合っていても、やはり言葉にしないと不安になります。少女とモルモットがまるで恋人同士のようで微笑ましい。
 事件は何も起こらないけど、ふたりの心の動きを丁寧に描いていて、優しい気持ちになれます。

ジャン=ピエール、さらわれる
 家を留守にしている間、ほかに盗まれたものは何もないのに、ジャン=ピエールだけがさらわれてしまいます。警察も行方を探してくれますが、ジャン=ピエールは帰ってきません。
 そんなとき、古い振り子時計がヒントをくれました。ふたつの目を使って、もう一度、よく観察してごらん、と。

 見事に犯人をみつけたセシルでしたが、モルモットを盗んだ理由を聞くと、小さな嘘をついて犯人をかばってあげます。悪人がひとりも出てこないのも安心できますし、お父さんだけが事情が飲み込めないところも楽しい。ただし、ジャン=ピエールの出番はほとんどありません。

ジャン=ピエール、世界をめぐる
 毎年、夏期休暇はパリの伯母さんの家で過ごすセシル一家。今年はジャン=ピエールも連れていってあげることにしました。ところが、手違いで別の飛行機に乗せられたジャン=ピエールは、アディスアベバエチオピア)に送られてしまいます。
 そこからストやら竜巻やら暴動やらのせいで、カラチ、バンコクシンガポールシドニー、ホノルル、ニューヨークと巡って、無事にセシルの元に帰ってきます。

 今回のジャン=ピエールは、ニューヨーク、ロンドン、パリ、プラハ、ベルリン、ウィーン、ローマと冒険旅行をしたハイラム・ホリデーのようです。といっても、モルモットは言葉を喋れませんから、世界中の人が手紙や電話や電報で、セシルに報告してくれるという設定になっています。
 世界の誰からも愛され、どこへいっても人気者になるジャン=ピエールの魅力とは一体何なんでしょう。可愛らしさは勿論、「郷に入れば郷に従え」を実践し、あらゆる環境にすぐ馴染んでしまえる点が大きいのかも知れません。

 なお、ジャン=ピエールは、アビシニアンという種類のモルモットで、最初にアディスアベバに運ばれてしまったのも、ラベルに「アビシニアン」と書かれていたからです。けれど、猫のアビシニアン同様、アビシニア(現在のエチオピア)とは何の関係もありません。
 さらに面白いことに、天竺鼠という和名を持ちながら、天竺(現在のインド)には住んでいないという非常にややこしい生きものなんですね。
 ちなみに、アンゴラウサギやアンゴラヤギの「アンゴラ」は、アフリカのアンゴラ共和国(Angola)ではなく、トルコのアンカラの旧名(Angora)です。

ジャン=ピエール、サーカスに入る
 ジャン=ピエールと出会って三年が経ち、セシルは間もなく十二歳になります。ある日、セシルの家におじいさんが訪ねてきます。彼の名はフリッポ、サーカスのピエロで、シドニーのサーカス団にいたとき、ジャン=ピエールの世話をしてくれた人物でした。
 その後、すっかり落ちぶれたフリッポじいさんは、カンガルーのアンジェリークと一緒にサーカスに出て大評判だったジャン=ピエールを売って欲しいとセシルに頼みにきたのです。セシルは悩み抜いた末、泣く泣くジャン=ピエールをあげることにします。けれど、その後、フリッポじいさんからは何の連絡もありませんでした……。

 優しい気持ちにつけ込まれ、半ば無理矢理ジャン=ピエールと引き離されてしまうセシル。身勝手な大人たちに憤りを覚えるのは当然といえます。
 そんな彼女に幸運が訪れるのは嬉しいのですが、その代償が、ある人物の死という点は、最後にちょっぴり苦さを含ませるギャリコらしい。童話のなかだって、甘いだけの人生なんて存在しないのです。
 なお、今回の主役はセシルのお父さんとカンガルーのアンジェリークかも知れません。実をいうと、カンガルー好きにとってもギャリコは無視できない作家だったりするのかも。

※:最近、復刊が多いのが悩みの種。特にハヤカワ文庫からの被害が大きい。アルカジイ&ボリス・ストルガツキーの『ストーカー』、チャック・パラニュークの『ファイト・クラブ』、ジョセフ・ヘラーの『キャッチ=22』の感想文を破棄する羽目に。スタニスラフ・レムの『泰平ヨンの未来学会議』は、泰平ヨンシリーズとして扱う予定だが……。

『セシルの魔法の友だち』野の水生訳、福音館書店、二〇〇五

→『12人の指名打者
→「ハリスおばさんシリーズ」ポール・ギャリコ