読書感想文(関田 涙)

関田 涙(せきた・なみだ)

『現代イソップ/名詩に描く』ジェイムズ・サーバー

Fables for Our Time and Famous Poems Illustrated(1940)James Thurber

 前回の『SEXは必要か』の注で簡単に記載したジェイムズ・サーバーの『現代イソップ/名詩に描く』ですが、訳本は主に二種類あり、どちらを買ってよいか悩む人もいると思いましたので、目立つようにひとつの記事として残しておくことにします。

 まず、原著の話から。
 この本は『現代イソップ』と『名詩に描く』のふたつの作品をひとつにしたもので、両者は特につながりはありません。両方とも大した頁数がありませんから、合わせて一冊分にしたのでしょう。
 いずれもサーバー自身のイラストが豊富に収められており、大人の絵本といった趣があります。

「現代イソップ」は、その名のとおり、現代版イソップ物語です。主に動物を主人公とした寓話で、全部で二十八編あります(※)。
 物語の終わりに、分かったような分からないような教訓がついていて、それがまた笑えます。

「名詩に描く」の方は、ヘンリー・ワーズワースロングフェローウォルター・スコットアルフレッド・テニスンらの詩に、サーバーがイラストをつけたもので、全九編が収められています。
 彼のとぼけた味わいのあるイラストが加わることで、元の詩の印象がガラッと変わるのが醍醐味です。

「現代イソップ」の方は、サーバーの短編と同じトーンで、例えば「庭さきの一角獣」は「ツグミの巣ごもり」によく似ていたりします。面白いけれど、意外性は余りありません。
 一方、「名詩に描く」は、他に類をみない不思議な作品で、実はこっちの方がお勧めです。いっちゃ悪いけど、大詩人の作品に恥ずかしげもなくヘタクソな絵をつけるなんて発想はなかなか湧いてきませんから。
 花嫁をさらう騎士ロッキンバーも、「より高く!」と叫ぶ青年も、どことなく間が抜けていて憎めません(写真)。

 次に訳本の話に移ります。
 一九五〇年に万有社より『現代イソップ/名詩に描く』(福田恆存訳)が刊行されました。「現代イソップ」は雑誌「文藝春秋」に連載されたものを集めたのですが、全部で二十四編しか収められていません。
 あとがきには、次のように書かれています。
「なほ「現代イソップ」は「文藝春秋」の一月號から三月號にかけて連載したものである。單行本にするにあたつて二、三つけくはえたが、なほ四篇ばかり省略してある。時事的な問題の讀みこみがあつて、われわれ日本人には理解できないからである」
 福田は『SEXは必要か』でも同じようなことを書いていました。たった四編なんですから、余計な気遣いをせず掲載してしまえばよいと思うのですが……。

 さて、それから四十二年が経ち、文藝春秋より『福田恆存飜譯全集』が刊行され、その第一卷に『現代イソップ/名詩に描く』が収められました。これは未訳の四編を含んだ完全版です。
 カバーイラストが収録されていないのが残念ですが、サーバーファンなら全てが読めるこちらを入手した方がよいと思います。

 また、もう少し手軽に楽しみたい方は、講談社文庫の『空中ブランコに乗る中年男』にも「現代イソップ」が十六編収められていますので、これを手に入れてもよいでしょう。
 ただし、イラストはほとんどカットされています。サーバーの場合、文章とイラストは同等の価値があるので、こういう編集はやめて欲しいのですが……。
 なお、ハヤカワ文庫の『サーバーのイヌ・いぬ・犬』にも、犬の話が二編だけ収録されています。

※:サーバーは一九五六年に『Further Fables for Our Time』という「現代イソップ」の続編を出しているが、残念ながら邦訳はない。

福田恆存飜譯全集〈第一卷〉』、文藝春秋、一九九二

→『12人の指名打者
→『SEXは必要かジェイムズ・サーバー、E・B・ホワイト
→『ユーモア・スケッチ傑作展〈1〜3〉』『すべてはイブからはじまった