読書感想文(関田涙)

関田 涙(せきた・なみだ)

『二日酔よこんにちは』ハッソルト・デイヴィス

Bonjour, Hangover!(1958)Hassoldt Davis

 先日、「セックス」の本(『SEXは必要か』)を取り上げたので、今回は「酒」の本を選んでみました。
 次は「煙草」の本(『あなたはタバコがやめられる』)にしようかしらん。

 ハッソルト・デイヴィスという人物については何も知りません。訳者の田村隆一によると「世界的旅行家」とのことですが、詳細は不明です。一九五九年没なので、日本版が刊行されたときは既に故人だったことになります。
 タイトルは明らかにフランソワーズ・サガンの『悲しみよこんにちはBonjour Tristesse(1954)のもじりです。当時、流行っていたので便乗したんでしょう。

 原書は、ごく薄い本のようですが、日本版は百四十二頁あり「田村隆一編訳」となっています。
 その「編」が何を指すのかというと、実はこの本、日本独自の編集がされ、二部構成になっているんです。

 第一部は「二日酔よこんにちは」の翻訳です。本書の挿画は真鍋博ですが、この部分だけイラストは原書と同じリーズ・ブラントのものを使用しています。

 第二部は「二日酔ア・ラ・カルト」と称し、日本人の著者(徳川夢声稲垣足穂犬養道子ら)による酒にまつわるエッセイと古今東西の格言がまとめられています。しかも、その下段には、アンケート(開高健植草甚一吉田健一ら)、真鍋博の漫画「動物園」、ジョーク集、動くヌード(パラパラ写真)が掲載されるという、まるでムックのような作りになっています〔田村は「じつは、あなたのために、『二日酔よ、こんにちは』(ママ)という、本のようなものを、荒地出版社と協力してつくってみようと思ったのです」と書いている。写真〕。

 年代的にも、内容的にも、壽屋サントリー)のPR冊子「洋酒天国」と、吉行淳之介編の『酔っぱらい読本』(「壱・弐・参・肆・伍・陸・漆」と七冊刊行された)の中間に位置するといったら大袈裟でしょうか。
 また、海外の著者による酒についてのエッセイということであれば、キングズリー・エイミスが有名で、邦訳も数冊出ています(『酒について』は『二日酔よこんにちは』とよく似たレイアウトである。写真)。

 前おきはこれくらいにして……といいつつ、今回は感想を書くような本ではないんですよね。この本を購入しようと思う方は、凝った装幀や編集、執筆者の魅力、稀少性などを求めるわけで、デイヴィスの原稿の出来なんて、正直どーでもいいでしょう……。
 ま、そんなことをいい出すと、何にも書けなくなってしまいますし、実際、中身について書かれた記事は多くないので、以下、簡単に内容と感想を綴ってみます。

『二日酔よこんにちは』とは、要するに「二日酔いの予防法」の紹介です。
 ほとんどは他書からの引用、転載、人から聞いた話で、それに箴言、格言、名言をちりばめつつ、ちょっとしたコメントを付しています。

 二日酔いに関しては、そのまま受け入れる、もしくは迎え酒をするタイプと、できるなら軽く抑えたいタイプとがいますが、この本は後者の立場を取っています。
 尤も、様々な対策が本当に効果的か否かは試していないので分かりません。

 寧ろ、この本は、読む薬としての価値の方が高そうです。
 大人向けのユーモア本として洒落た作りになっていますので、一杯飲みながらペラペラめくって、気になった箇所を拾い読みすれば、陰鬱な酒にもならないし、はしゃぎ過ぎることもない。
 それこそが最高の二日酔い予防法になるのではないでしょうか。

『二日酔よこんにちは』田村隆一編訳、荒地出版社、一九六〇

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