読書感想文(関田 涙)

関田 涙(せきた・なみだ)

『2018年キング・コング・ブルース』サム・J・ルンドヴァル

2018 A.D. or the King Kong Blues(1974)Sam Jerrie Lundwall

 スウェーデンのSFというと、「ミレニアム」シリーズのスティーグ・ラーソンがかつてSF雑誌の編集をしていたなんてことくらいしか思いつきませんが、サンリオSF文庫からは、こんな変な本が発行されていました。
 正直、「うっひょー! チョー面白れーっ!」というような小説ではないけれど、ちょっと珍しいので取り上げてみます。
 珍しいといっても稀少価値があるわけではなく、読んだ人が少なそうだという意味です。サンリオ文庫の場合、コレクションのため本は所持していても「詰まんなそうだから読んでない」率が非常に高いんですよね。

 なお、「キング・コング」は、内容と全く関係ありません。どうやら出版社との契約で、先にタイトルを決めてしまったせいで、おかしなことになったみたいです。
 一方、「2018年」には一応意味があります。ジョージ・オーウェルの『一九八四年』は、執筆時の一九四八年の四と八を入れ替えたものでしたが、『2018年キング・コング・ブルース』の場合は、二十一世紀の一番最初に誕生した女性(※1)を捜す話なので、彼女が妙齢に達するのが大体それくらいというわけです。
 また、スウェーデン版のタイトルは『King Kong Blues』で、それを自ら英訳した際、『キング・コング』の続編と勘違いされないようにするため、『2018 A.D. or the King Kong Blues』と改題したようです。

 ちなみに、この本はレコード付(別売)です。
 どういうことかというと、シンガーソングライターでもあるルンドヴァルが自ら作ったイメージソングがレコード化されているらしいんです(当然、ブルースなんだろうな)。
 日本版の「序」にもスウェーデンの住所が記載されており、八ドル支払えば船便でレコードが送られてくるとあります。お急ぎの方は、さらに三ドル追加すれば、エアメールにしてくれるとのこと。
 これ、日本から注文してみた人はいるんでしょうかね。聴いてみたいような、どーでもいいような……。

 さて、あらすじは、以下のとおりです。
 化粧品会社の腋窩クリームの広告のために、二十一世紀の最初に生まれた女性アンニキ・ノルジンを捜すことになります。国民の全記録は管理されているので、みつけるのは容易と思われましたが、なぜかアンニキの記録は数年前に消えていました。
 その仕事を担当したエリック・レニングは、彼女をみつけるため、スラムに向かいます。

 コンピュータで管理された社会、エネルギー危機、巨大複合企業体、刺激的な娯楽やセックスの提供、エスカレートする広告産業といったテーマは、原著刊行時の一九七四年の時点で既に古臭く、手垢がつきまくっていました。
 さらにいうと、過去のディストピア小説の範疇から一歩もはみ出していない点が二流の証という気がしてしまいます。ゆき過ぎた科学技術の対極の存在として、砂漠のベドウィン族を持ち出してくるところなんかも『すばらしい新世界』っぽいし……。
 解説者によると、スウェーデンのSF自体が米国や日本に比べ、やや遅れているせいではないかとのことです(※2)。そういえば、『ミレニアム』シリーズも詰まらなくはないけど、二番煎じ感が強く、個人的には余り評価していません。それと似た匂いがしなくもない……。

 が、刊行から四十年経った今となっては、諷刺としての機能を完全に失っており、それが却って幸いしています。目くじら立てることも興奮することも白けることもなく、穏やかな気持ちで読むことができるのです。
 果たして、そんな読書に意味があるのかはさておき、「こういうのを書くから、SFは幼稚っぽいっていわれちゃったんだよなあ」なんてタイプの懐かしさに浸れること請け合いです。

 尤も、笑えるシーンもそれなりにあります。
 石油のお陰で巨大企業の支配者になったベドウィン族の男が、まるで神かシミュレーションゲームのように会社を操ったり、レニングが不良老人(年金受給者)の集団に襲われたりするところは、なかなか楽しい。

 でも、一番おかしかったのは、ノルウェーの悪口です。
 かつてノルウェースウェーデンの一部で、スウェーデン人は貧しい隣人に優しくしてやっていた。連合解消後は、何をやってもスウェーデンには敵わなかった癖に、油田と天然ガスを掘り当てた途端、威張り出し、法外な価格で売るといいやがった。ノルウェー人を好きなスウェーデン人なんて、ひとりもいないぜ……といった調子で、ルンドヴァルは毒筆を振るっています。

 はっきりいって、その部分が最も勢いがあります。
 スウェーデン人は溜飲が下がったのかも知れませんが、日本人からすると「何だかなあ」という感じです。まあ、隣人が憎たらしいという気持ちも分からなくはないですけど……。
 いや、別にK国のことじゃありませんよ。

※1:アンニキは二〇〇一年一月一日ではなく、二〇〇〇年一月一日生まれなので、実際は「二十一世紀」ではない。

※2:解説は、トーベ・ヤンソンスウェーデンの作家と書いてたりするから、余り当てにならないが……。ヤンソンは、スウェーデン語で執筆したものの、フィンランドの作家である(スウェーデン語はフィンランド公用語のひとつ)。


『2018年キング・コング・ブルース』汀一弘訳、サンリオSF文庫、一九八一

サンリオSF文庫、サンリオ文庫
→『マイロンゴア・ヴィダル
→『どこまで行けばお茶の時間アンソニー・バージェス
→『深き森は悪魔のにおい』キリル・ボンフィリオリ
→『エバは猫の中ガブリエル・ガルシア=マルケスオクタビオ・パスほか
→『サンディエゴ・ライトフット・スー』トム・リーミイ
→『ラーオ博士のサーカス』チャールズ・G・フィニー
→『生ける屍』ピーター・ディキンスン
→『ジュリアとバズーカアンナ・カヴァン
→『猫城記』老舎
→『冬の子供たち』マイクル・コニイ
→『アルクトゥールスへの旅デイヴィッド・リンゼイ
→『旅に出る時ほほえみを』ナターリヤ・ソコローワ
→『』ロザリンド・アッシュ
→『浴槽で発見された手記スタニスワフ・レム
→『熱い太陽、深海魚』ミシェル・ジュリ
→『パステル都市』M・ジョン・ハリスン
→『生存者の回想』ドリス・レッシング
→『マラキア・タペストリ』ブライアン・W・オールディス
→『この狂乱するサーカス』ピエール・プロ
→『バドティーズ大先生のラブ・コーラス』ウィリアム・コツウィンクル
→『どこからなりとも月にひとつの卵』マーガレット・セントクレア
→『ドロシアの虎』キット・リード
→『飛行する少年』ディディエ・マルタン