読書感想文(関田 涙)

関田 涙(せきた・なみだ)

ミステリーっぽい短編小説1


 可能であれば、ありとあらゆる本を読んでみたいのですが、人生は短く、読書にだけ時間を費やすわけにはいかないため、本を選ぶ行為がとても重要になってきます。
 趣味の読書の場合、大抵は、好みや何らかの基準に合わせて、読む本を選択していることと思います。
「仮面舞踏会」が出てくる小説ばかりを探している知人がいますが、そこまで極端でなくても、それぞれのなかに「ベストセラー」「恋愛小説」「フランス文学」「女流作家」などを好むといった傾向が自然と生まれているのではないでしょうか。
 ちなみに僕は、数年前、泣く泣く日本文学を捨てる決心をしました。そうでもしないと、主要な海外文学ですら、死ぬまでに読み終えることができないと思ったからです。

 閑話休題
 例えば、時代小説しか読まない人は、書店にいっても時代小説の棚以外はチェックしないはずです。ところが、ときには、官能小説家が時代小説を書くこともあります。
 それが長編だったら「エロスの巨匠が描く江戸人情譚!」などと宣伝され、目につくことも多いでしょう。しかし、短編集のなかの一編だったりすると、時代小説好きの読者に気づかれる可能性はぐっと低くなってしまいます。

 というわけで、今回は、いわゆる「文豪」と呼ばれる人たちが書いたミステリーっぽい短編を、年代順にご紹介したいと思います。
 有名なものばかりですが、ミステリー作家を中心に読まれている方にとっては、ひょっとすると縁のない作品たちかも知れません。

 ただし、ここでいう「ミステリー」とは「推理小説」という意味ではなく、「魅力的な謎が扱われている小説」といった程度とお考えください。
 が、だからこそ上質な素材のままであり、少し手を加えれば本格的な推理小説としても成立しうると思います。
 ……なんて偉そうなことをいうほど、僕はミステリーのことを知らないので「文学または推理小説の初心者にお勧めの短編」と思っていただければ幸いです。

 なお、今回は、ほとんどが新刊書店で入手可能です。

「ヒギンボザム氏の意外な破局ナサニエル・ホーソーン
Mr. Higginbotham's Catastrophe(1834)Nathaniel Hawthorne
 ホーソーンは、そもそも代表作『緋文字』が良質なミステリー(パールの父親は何者か?)だったりします。
 こちらの短編は、時間の使い方が上手く、ミステリーとして読んだわけではないので、見事に引っ掛かってしまいました。誤解が生まれた理由も十分納得のゆくものです。
(『ホーソーン短篇小説集』岩波文庫
→『七人の風来坊ナサニエル・ホーソーン

「狂人の手記」チャールズ・ディケンズ
A Madman's Manuscript(1837)Charles Dickens
 ディケンズは、短編においては、ホラーやミステリーを得意にしていました。これは倒叙ものの元祖といわれています。
(『ディケンズ短篇集』岩波文庫

「幽霊船(ベニト・セレノ)」ハーマン・メルヴィル
Benito Cereno(1855)Herman Melville
 巧みに真実を隠し、先を読ませない点、結末の鮮やかなどんでん返しは、さすが文学史上に名を残す傑作だけあります。
(『幽霊船 他一篇』岩波文庫、『バートルビー/ベニト・セレノ』圭書房)

「とてもパリ的なドラマ」アルフォンス・アレー
Un drame bien parisien(1890)Alphonse Allais
 ひとりだけ毛色の違う作家を混ぜてしまいました。「謎と驚き」という点からみると、この小説ほど凄いものを知らないので、ぜひ加えたくて……。とにかく、びっくりさせられ、読後にいくら考えても、謎が解けません。
(『物語における読者』ウンベルト・エーコ青土社

「トム・ソーヤーの探偵」マーク・トウェイン
Tom Sawyer, Detective(1896)Mark Twain
 法廷ミステリーです。『トム・ソーヤーの冒険』や『まぬけのウィルソン』にも法廷の場面がありましたから、こういう展開を気に入ってたのでしょうか。
 なお、トウェインのリドルストーリーとしては「恐ろしき、悲惨きわまる中世のロマンス」が最も有名ですが、そちらは別に扱う予定です。
(『トム・ソーヤーの探偵・探検』新潮文庫
→『マーク・トウェインのバーレスク風自叙伝マーク・トウェイン

「トニオ・クレーガー」トーマス・マン
Tonio Kröger(1903)Thomas Mann
 マン初期の代表的な短編です。読者に対して仕掛けた罠が凄すぎて、未だに解釈が割れています。
(『トニオ・クレエゲル』岩波文庫、『トニオ・クレーゲル ヴェニスに死す』新潮文庫、『トーニオ・クレーガー 他一篇』河出文庫

「白い象のような山並み」アーネスト・ヘミングウェイ
Hills Like White Elephants(1927)Ernest Hemingway
 よく読まないと、何の話をしているかすら分からないという意味でミステリーかな?
(『われらの時代・男だけの世界 −ヘミングウェイ全短編1』新潮文庫、『ヘミングウェイ短篇集』ちくま文庫

「エミリーにバラを」ウィリアム・フォークナー
A Rose for Emily(1931)William Faulkner
 フォークナーの最もメジャーな短編です。屋敷に閉じこもり、世間との接触を断ったエミリーと男の間に何があったのか、を読み解く楽しみがあります。
(『フォークナー短編集』新潮文庫
→『魔法の木』ウィリアム・フォークナー

「あるところに寂しげな家がありまして」フランク・オコナー
There is a Lone House(1933)Frank O'Connor
 孤独で謎の多い女性のもとに、ぶらっと現れた男が住み着く。「エミリーにバラを」と非常によく似た設定にもかかわらず、結末は真逆なところが面白いです。
(『フランク・オコナー短篇集』岩波文庫

「死とコンパス」ホルヘ・ルイス・ボルヘス
La muerte y la brújula(1942)Jorge Luis Borges
 探偵小説好きで、アドルフォ・ビオイ=カサレスと組み「ドン・イシドロ・パロディ」というミステリーシリーズを書いているボルヘスを「ミステリー作家ではない」といってしまってよいのか分かりませんが、これは特に面白かったです。
(『伝奇集』岩波文庫

 ちなみに、こちらもおすすめです。

ミステリーっぽい短編小説2