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読書感想文(関田 涙)

関田 涙(せきた・なみだ)

『12人の指名打者』ジェイムズ・サーバー、ポール・ギャリコほか

アメリカ


 野球小説に外れなし。
 ……なんて偉そうにいうほど沢山読んでいるわけではなく、それどころか、積極的に買い求めることすらありません。まあ、本当のところは「小説で野球が上手く扱われていると嬉しくなってしまう」だけだったりします。
 そんな感じですから、野球小説なら手当たり次第というわけではなく、「プレイヤーやゲームより、野球の周辺」「アマチュアより、プロ」「新しいものより、懐かしいもの」が好みです。超定番ですが『ユニヴァーサル野球協会』『素晴らしいアメリカ野球』『赤毛のサウスポー』らが、とても好き。日本のものだと『野球盲導犬チビの告白』『野球殺人事件』『鈍い球音』あたりが好みです。

 それらの感想もいずれ書きたいと思いますが、今回は、野球小説のアンソロジー『12人の指名打者』を紹介します。
 これは訳者たちが独自に編んだもので、ジェイムズ・サーバーポール・ギャリコ、ジョン・オハラなど十二人の作家の一九四〇〜六〇年代の短編が収められています(それよりも古いもの、例えば『アリバイ・アイク』のリング・ラードナーなどは含まれていない)。
 正直、知らない作家も多いのですが、そんなことは全く気にせず楽しめます。僕の一番のお気に入りはデイモン・ラニアンの「ハッティのお手柄」ですが、笑えるものから泣けるものまで、バラエティに富んだ傑作揃いです(※)。

「野球は人生そのものだ」といったのは長嶋茂雄だったでしょうか。その言葉が真実なら、この短編集では十二人分の人生が語られていることになります。
 しかも、主人公のほとんどは、エリートとはほど遠い人たち。マイナーとメジャーをいったりきたりしている選手、オールドルーキー、八百長事件で球界を追放されたベテラン、草野球のへなちょこプレイヤー、さらには小人や馬までもが登場します。
 彼らにとって野球は、仕事だったり、名誉だったり、娯楽だったりしますが、共通しているのは、完全に生活の一部になっているってこと。野球なしには夜も日も明けません。
 ベースボールのためなら、どんな犠牲も厭わないというイカレ具合が、実に素敵なんですね。僕なんか何年生きたって、どうせ大したことはできません。だったら、野球に一生を捧げるのもアリかなと考えたりして……。この本には、そう思わせるだけの魅力がたっぷり詰まっています。

 また、作者だけでなく、訳者たちの野球に対する愛も十分に感じられるのが嬉しいところ。
 付け焼き刃の知識は、他の分野なら許せても、野球に関しては許容できない。例えば、フィリップ・ロスの作品には野球の話が多く登場しますが、無知な訳者による、とんちんかんな訳がときどきあり、がっかりさせられます。
 野球を題材にしてベストセラーになった日本の某児童文学作品も、作者が野球に詳しくないと聞いて、読む気が失せてしまいました。

 なお、『12人の指名打者』の発行は一九八三年五月。帯に「笑いの“Boomer”」とありますが、これは、同年、阪急ブレーブスに入団したブーマー・ウェルズにかこつけたのでしょう。僕は、大学生のとき、ブーマーを間近でみたことがありますが、そりゃあ、デカかったです。

※:サーバーの「消えたピンチ・ヒッター(You Could Look It Up)」(一九四一)(角川文庫の『マクベス殺人事件の謎』にも「調べてみればわかるよ」のタイトルで収録されている)は、何とメジャーリーグ史上最も背の低い選手を生むきっかけとなった。それが一九五一年、セントルイス・ブラウンズでたった一打席のみプレイしたエディ・ゲーデルで、身長はわずか三フィート七インチ(約百九センチ)。背番号は1/8。
「消えたピンチ・ヒッター」では、小人のパール・デュ・モンヴィルはスリーボールからバットを振ってしまいアウトになるが、ゲーデルはしっかり四球を選んだ。


『12人の指名打者稲葉明雄永井淳村上博基訳、文春文庫、一九八三

→『SEXは必要かジェイムズ・サーバー、E・B・ホワイト
→『現代イソップ/名詩に描くジェイムズ・サーバー
→『セシルの魔法の友だちポール・ギャリコ
→「ハリスおばさんシリーズ」ポール・ギャリコ
→『親友・ジョーイ』ジョン・オハラ
→『ブロードウェイの天使』デイモン・ラニアン

野球関連
→『ユニヴァーサル野球協会ロバート・クーヴァー
→『野球殺人事件』田島莉茉子
→『メジャー・リーグのうぬぼれルーキーリング・ラードナー
→『ドジャース、ブルックリンに還る』デイヴィッド・リッツ
→『ナチュラル』バーナード・マラマッド
→『シド・フィンチの奇妙な事件ジョージ・プリンプトン
→『プレーボール! 2002年』ロバート・ブラウン
→『アイオワ野球連盟』W・P・キンセラ