読書感想文(関田 涙)

関田 涙(せきた・なみだ)

『力の問題』ベッシー・ヘッド

A Question of Power(1973)Bessie Head ベッシー・ヘッドは、黒人の父親と白人の母親の間に生まれたカラード(混血)です。英国人の母は黒人の馬丁との子を宿したことで精神病院に入れられ、ヘッドはそこで生まれました。 やがて母は自殺し、遺してくれた…

『おにごっこ物語』『もう一つのおにごっこ物語』マルセル・エイメ

Les Contes du chat perché(1934-1946)Marcel Aymé マルセル・エイメの『Les Contes du chat perché』には数多くの邦訳があり、邦題も様々です(『おにごっこ物語』『牧場物語』『ゆかいな農場』『猫が耳のうしろをなでるとき』など)。「chat perché」は…

『シンデレラの呪われた城』ダフネ・デュ・モーリア

Rebecca(1938)Daphne du Maurier「はて。ダフネ・デュ・モーリアに、そんなタイトルの作品があったっけ?」と思われた方もいらっしゃることでしょう。 しかし、ちょっと考えれば、答えは導き出せます。ポプラ社文庫(現:ポプラポケット文庫)の可愛らしい…

『大いなる奥地』ジョアン・ギマランエス=ローザ

Grande Sertão: Veredas(1956)João Guimarães Rosa アルフレート・デーブリーンの『ベルリン・アレクサンダー広場』がドイツ版『ユリシーズ』なら、ジョアン・ギマランエス=ローザの『大いなる奥地』はブラジル版『ユリシーズ』です(デーブリーンも、ギマ…

『ジョン・コリア奇談集』ジョン・コリア

John Collier 一九七八年に創刊されたサンリオSF文庫は、一九八三年から主流文学やノンフィクションなどを扱う「サンリオ文庫」を独立させました。 そこから新たな作品を刊行し始めたのですが、既にサンリオSF文庫にラインナップされていたものをサンリ…

『こちらへいらっしゃい』シャーリイ・ジャクスン

Come Along with Me(1968)Shirley Jackson シャーリイ・ジャクスンの翻訳は『くじ』を嚆矢として、『山荘綺談』へと続くわけですが、その次が『こちらへいらっしゃい』だったのが何とも不可思議です。 というのも、この本は、遺作となった未完の小説「こち…

『インキュバス』レイ・ラッセル

Incubus(1976)Ray Russell レイ・ラッセルは、様々なジャンルの小説を書きましたが、特に評価が高いのはホラー小説です。 ただし、日本では短編集が二冊に、長編が一冊しか出版されていません。 不幸中の幸いというべきか、ニューゴシック三部作の「血の伯…

『奇術師の密室』リチャード・マシスン

Now You See It ...(1995)Richard Matheson リチャード・マシスンの小説は、数多く映画化されています(『アイ・アム・レジェンド』「激突!」『ある日どこかで』『縮みゆく人間』『奇蹟の輝き』「運命のボタン」などなど)。 特に短編の評価が高く、個人…

『二人の女と毒殺事件』アルフレート・デーブリーン

Die beiden Freundinnen und ihr Giftmord(1924)Alfred Döblin アルフレート・デーブリーンは、最近になって叙事詩『マナス』や短編集『たんぽぽ殺し』などが刊行されるなど、ちょっとしたブームになっています。しかし、何をおいても読んでおきたいのは、…

『サセックスのフランケンシュタイン』H・C・アルトマン

Frankenstein in Sussex/Fleiß und Industrie(1968)/Die Anfangsbuchstaben der Flagge. Geschichten für Kajüten, Kamine und Kinositze(1969)Hans Carl Artmann ハンス・カール・アルトマンは、数多くの言語を操ったことで知られています(その数三十…

『アリスのような町』ネヴィル・シュート

A Town Like Alice(1950)Nevil Shute 前回同様、『アリスのような町』も『不思議の国のアリス』とは無関係です。 それどころか、この小説でのアリスは人名ですらなく、オーストラリアのど真んなかにあるアリススプリングス(the Alice、ないしは単にAlice…

『鏡の国のアリス』モリー・フルート

Through the Looking Glass(1976)Molly Flute この本の原題は『Through the Looking Glass』。そう、かの有名なルイス・キャロルの『鏡の国のアリス』と同じです。 しかし、共通するのはそれだけ。アリスという名の人物も登場しなければ、ワンダーランドを…

『サバイバー』チャック・パラニューク

Survivor(1999)Chuck Palahniuk 前回、初めて映画のノベライズを扱いましたが、基本的に僕はノベライズなどには手を出しません。別に軽視しているわけではなく、存在意義がよく分からないからです(メディアミックスやスピンオフなどは除く)。「映像では…

『吸血ゾンビ』ジョン・バーク

The Second Hammer Horror Film Omnibus(1967)John Burke 僕の読書は、足と肩に自信のない遊撃手のように守備範囲が狭いので、苦手なジャンルが数多くあります。なかでもホラーは小説も映画も不得意で、知識もないし面白味もよく分かりません。 恐らく、ホ…

つながる海外文学 ―初心者におすすめする連想読書法

僕は昔から、他人とかかわり合うのが苦手です。 実生活では、生きてゆくためにやむを得ずある程度のつき合いをしていますが、インターネット内では一切の交わりをやめてしまいました(昔は少しやっていた)。 ブログはコミュニケーションを取るためのもので…

『悪魔はぼくのペット』ゼナ・ヘンダースン

The Anything Box(1965)Zenna Henderson 前回ちょっと触れたゼナ・ヘンダースンは、長編を一作も書いておらず、また短編の数もそれほど多くありません。 にもかかわらず、連作短編の「ピープル」シリーズ、あるいは「スー・リンのふしぎ箱(なんでも箱)」…

『どこからなりとも月にひとつの卵』マーガレット・セントクレア

Change the Sky and Other Stories(1974)Margaret St. Clair(a.k.a. Idris Seabright, Wilton Hazzard) マーガレット・セントクレア(別名イドリス・シーブライトほか)は一九五〇〜六〇年代に活躍したSF作家で、短編集『どこからなりとも月にひとつの…

『火山を運ぶ男』ジュール・シュペルヴィエル

L'Homme de la pampa(1923)Jules Supervielle ジュール・シュペルヴィエルは、詩や短編小説の評価も高いのですが、日本では澁澤龍彦が訳した長編小説『ひとさらい(Le Voleur d'enfants)』(一九二六)が最もよく知られています。 子どもをさらってきて疑…

『ブラッド・スポーツ ―ハサヤンパ河を遡る旅』ロバート・F・ジョーンズ

Blood Sport: A Journey Up the Hassayampa(1974)Robert Francis Jones どんな趣味においても、人は経験を増すにつれ知名度の低いものを偏愛する傾向があります。知られていないものを好むのは、知識の広さを誇ったり、普通の人が評価しないものの価値を認…

『虚構の楽園』ズオン・トゥー・フォン

Những thiên đường mù(1988)Dương Thu Hương 海外文学を読む楽しみのひとつとして、その国や地域の歴史、文化、社会、生活習慣などに触れることができる点があげられます。尤もフィクションを介してですから、何となく知ったつもりになるという程度ではあ…

『ニックとグリマング』フィリップ・K・ディック

Nick and the Glimmung(1988)Philip Kindred Dick 二十一世紀になってから、フィリップ・キンドレッド・ディック原作の映画が毎年のように公開されています。今年はいよいよ『ブレードランナー2049』が封切られ、それに伴い第何次かのディックブームが…

『刺絡・死の舞踏他』カール・ハンス・シュトローブル

Lemuria: Seltsame Geschichten(1917)Karl Hans Strobl カール・ハンス・シュトローブルは、チェコで生まれた、ドイツ語を母語とするオーストリア人。『刺絡・死の舞踏他』は、彼の我が国唯一の短編集(全七編)(写真)です。 訳者の前川道介は、森鷗外が…

『熱帯産の蝶に関する二、三の覚え書き』ジョン・マリー

A Few Short Notes on Tropical Butterflies(2003)John Murray 唐突ですが、このブログの特徴をあげると、以下のようになるでしょうか(記事の質は不問。飽くまで体裁のみ)。・海外文学、なおかつ絶版本というマイナーなものを扱っている・更新頻度が低く…

『ブレインストーム教授大あわて』ノーマン・ハンター

The Incredible Adventures of Professor Branestawm(1933)Norman Hunter ノーマン・ハンターは、一九二〇〜三〇年代に「ブレインストーム教授(※1)」シリーズなどの児童書で人気を博しました。また、マジシャンとしても活躍したそうです。 ところが、そ…

『わが庭に幸いあれ ―紳士の国の園芸術』W・ヒース・ロビンソン、K・R・G・ブラウン

How to Make a Garden Grow(1938)William Heath Robinson, Kenneth Robert Gordon Browne 通常の書籍は著者名を先に記しますが、この本の場合、イラストレーターのウィリアム・ヒース・ロビンソンをトップに記載するのが相応しいと思います(原著の表紙も…

『キンドレッド ―きずなの招喚』オクテイヴィア・E・バトラー

Kindred(1979)Octavia Estelle Butler オクテイヴィア・エステル・バトラーは「黒人・女性・SF作家」です。 この三つの条件を満たす作家はそれほど多くなさそうです。思いつく範囲ではナロ・ホプキンスン、アンドレア・ヘアストン、N・K・ジェミシン、…

『授業/犀』ウージェーヌ・イヨネスコ

Eugène Ionesco 前回のスワヴォーミル・ムロージェックに続き、今回はウージェーヌ・イヨネスコの戯曲を取り上げてみます。 イヨネスコもムロージェック同様、劇作家としての方が圧倒的に有名で、白水社から「イヨネスコ戯曲全集」全四巻が発行されています…

『タンゴ』スワヴォーミル・ムロージェック

Sławomir Mrożek 日本で『象』『所長』『鰐の涙』という三冊の短編集(漫画も収録されている)が発行されているスワヴォーミル・ムロージェック。しかし、世界的には作家や漫画家としてより、劇作家として知られています。 実際、日本オリジナルの戯曲集『タ…

『連れていって、どこかへ』ローレン・ケリー

Take Me, Take Me With You(2004)Lauren Kelly 前回の『Gストリング殺人事件』では、ゴーストライターの話をしましたが、今回は作家の別名義についてです。『連れていって、どこかへ』(写真)のローレン・ケリーとは、ある著名な作家の別名です。 本来の…

『Gストリング殺人事件』ジプシー・ローズ・リー

The G-String Murders(1941)Gypsy Rose Lee ジプシー・ローズ・リーは、アメリカンバーレスクのストリッパー(※1)。「バーレスクの女王」と呼ばれ、映画やテレビにも数多く出演したそうです。彼女はさらに多彩ぶりをみせつけ、推理小説まで執筆しました…