読書感想文(関田 涙)

関田 涙(せきた・なみだ)

『ジェラルドのパーティ』ロバート・クーヴァー

Gerald's Party(1986)Robert Coover リチャード・ブローティガンにはかつてミステリー、ホラー、ウエスタン、ハードボイルドといった異なる形式を用いて連続して長編小説を発表していた時期がありました。 ロバート・クーヴァーは、いわばそれをずっとやっ…

『殺人者の健康法』アメリー・ノートン

Hygiène de l'assassin(1992)Amélie Nothomb フィリップ・ソレルスの『数』は、フランス語のテクストに漢字が混じっていると書きましたが、そういえば僕は、アメリー・ノートンの署名入り『殺人者の健康法』を持っています(写真)。 ノートンは、一九九六…

『ファツ・ヒバ ―楽園を求めて』トール・ヘイエルダール

Fatu-Hiva: Back to Nature(1974)Thor Heyerdahl『コン・ティキ号探検記』(一九四八)で知られるトール・ヘイエルダールはノルウェーの冒険家であり、在野の人類学者、海洋生物学者でもあります。 筏で南太平洋を漂流したり、葦の船でカリブ海やインド洋…

『数』フィリップ・ソレルス

Nombres(1966)Philippe Sollers 作家でもあり思想家でもあるフィリップ・ソレルスは、雑誌「テル・ケル」や「アンフィニ」の主催者としても知られています。 彼の作風を一言でいうと、前衛的で難解。処女長編の『奇妙な孤独』、日本では文庫化もされた『女…

『だれがコロンブスを発見したか』『そしてだれも笑わなくなった』『嘘だといってよ、ビリー』『ゴッドファザーは手持ち無沙汰』『コンピューターが故障です』アート・バックウォルド

Down the Seine and Up the Potomac With Art Buchwald(1977)/The Buchwald Stops Here(1979)/Laid Back In Washington With Art Buchwald(1981)/While Reagan Slept(1983)/You Can Fool All of the People All the Time(1986)/I Think I Don’t Re…

『絢爛たる屍』ポピー・Z・ブライト

Exquisite Corpse(1996)Poppy Z. Brite サイコサスペンス、ニューロティックスリラー、猟奇ホラーなどに分類されるような小説・映画・漫画は、毎年のように話題になる作品が現れます。僕も嫌いじゃないので色々と試してみますが、刺激に慣れてきたのか、大…

『亡き王子のためのハバーナ』ギジェルモ・カブレラ=インファンテ

La Habana para un infante difunto(1979)Guillermo Cabrera Infante ギジェルモ・カブレラ=インファンテは、処女長編の『TTT ―トラのトリオのトラウマトロジー』(Tres tristes tigres 一九六七)が二〇一四年になって、ようやく翻訳されました。 訳す…

『聖アントワヌの誘惑』ギュスターヴ・フローベール

La Tentation de saint Antoine(1874)Gustave Flaubert ギュスターヴ・フローベールといってすぐに思い浮かぶのは『ボヴァリー夫人』『感情教育』『サランボー』『紋切型辞典』といった作品たちでしょう。 そんな彼が何度も何度も書き直し、三十年もの歳月…

『バドティーズ大先生のラブ・コーラス』ウィリアム・コツウィンクル

The Fan Man(1974)William Kotzwinkle ウィリアム・コツウィンクルの小説のなかでは『ファタ・モルガーナ』が一番好きと書きましたが、それとは対極にありながら、別の意味で愛すべき作品が『バドティーズ大先生のラブ・コーラス』です。 いや、対極という…

『シェヘラザードの憂愁 ―アラビアン・ナイト後日譚』ナギーブ・マフフーズ

ليالى ألف ليلة(1981)نجيب محفوظ「古くて長い物語なら何でも受け入れるのか!」と自らに突っ込みたくなりますが、『千一夜物語』も勿論大好物です。 個々の物語も面白いけれど、何より枠組みが秀逸で、おまけに語り手のシェヘラザード自身が萌えキャラの元…

『ランゲルハンス島航海記』ノイロニムス・ノドゥルス・フリーゼル

Paralektikon - welches ist Abriß & Versuch einer umständlichen Historie von der Anlage und Umwelt der Langerhans'schen Insulae(1984)Neuronimus Nodulus Friesel「読書感想文」といいつつ、このブログは、コンプのためのリスト作りとか、中身の分…

『さあ、すわってお聞きなさい』エレン・クズワヨ

Sit Down and Listen: Stories from South Africa(1990)Ellen Kuzwayo エレン・クズワヨは、南アフリカでソーシャルワーカー、国会議員として活躍した女性です。一九八五年、七十歳を過ぎて出版した自伝『Call Me Woman』(※)が評判となり(ナディン・ゴ…

『スターシップと俳句』ソムトウ・スチャリトカル

Starship & Haiku(1981)Somtow Sucharitkul(a.k.a. S. P. Somtow) ソムトウ・スチャリトカル(S・P・ソムトウというペンネームもあり)は、タイ出身の指揮者・作曲家で、タイ王朝の血を引き、王位継承権も持っているという変わり種。SFやホラー小説…

『オルゴン・ボックス ―SFセックス・エネルギー計画』パスクァーレ・フェスタ・カンパニーレ

Conviene far bene l'amore(1975)Pasquale Festa Campanile パスクァーレ・フェスタ・カンパニーレは、処女小説『La nonna Sabella』(一九五七)が大変好評だったにもかかわらず、映画の世界の方が肌に合ったのか、その後、あまり小説を書きませんでした…

『グアヴァ園は大騒ぎ』キラン・デサイ

Hullabaloo in the Guava Orchard(1998)Kiran Desai インド出身のキラン・デサイは二〇〇六年に『喪失の響き』で、女性としては最年少(三十五歳)でブッカー賞を受賞しました。 母親のアニタ・デサイも作家で、過去に三度もブッカー賞の最終候補に残りま…

『ミュンヒハウゼン男爵の科学的冒険』ヒューゴー・ガーンズバック

Baron Münchhausen's New Scientific Adventures(1915)Hugo Gernsback ヒューゴー賞は、SFの賞としては最も古く、最も知名度が高いのですが、その名の元となったヒューゴー・ガーンズバックの小説を読んだことがある人は、どれくらいいるでしょうか。 日…

『ケストナーの「ほらふき男爵」』エーリッヒ・ケストナー

Erich Kästner erzählt(1965)Erich Kästner ほらふき男爵ことカール・フリードリヒ・ヒエロニュムス・フォン・ミュンヒハウゼンは、十八世紀のプロイセンに実在した貴族です。 ミュンヒハウゼン男爵は、ほら話が得意で、館に招いた客たちに荒唐無稽な冒険…

『野蛮人との生活 ―スラップスティック式育児法』シャーリイ・ジャクスン

Life Among the Savages(1953)Shirley Jackson ここのところ、ちょっとしたシャーリイ・ジャクスンブームらしく、長編や短編集の新訳が出版され続けています(※)。ここ一年以内にも『絞首人』『日時計』『なんでもない一日』(全訳ではない)が新たに訳さ…

『決戦! プローズ・ボウル』ビル・プロンジーニ、バリー・N・マルツバーグ

Prose Bowl(1980)Bill Pronzini, Barry Nathaniel Malzberg ビル・プロンジーニは、「名無しの探偵」シリーズで有名なミステリー作家。ただし、僕は推理小説をほとんど読まないので、エラリー・クイーン編の『新 世界傑作推理12選』に収録されている「朝飯…

『明日に別れの接吻を』ホレス・マッコイ

Kiss Tomorrow Goodbye(1948)Horace McCoy ホレス・マッコイは、アメリカよりもフランスで先に評価された作家です。 実存主義の元祖としてジャン=ポール・サルトルらに絶賛され、アーネスト・ヘミングウェイ、ウィリアム・フォークナー、ジョン・スタイン…

『カンタベリー・パズル』H・E・デュードニー

The Canterbury Puzzles and Other Curious Problems(1907)Henry Ernest Dudeney 僕は数学パズルが大好きで、ヘンリー・アーネスト・デュードニーやサム・ロイド、マーティン・ガードナーらのパズルには昔から親しんできました。 ただし、パズルは作家より…

『新カンタベリー物語』ジャン・レイ

Les Derniers Contes de Canterbury(1944)Jean Ray ジェフリー・チョーサーの『カンタベリー物語』は、古典だけあってパロディ作品も数多く存在します。 巡礼者がひとつずつ物語るという形式だけを真似たものから、ヘンリー・アーネスト・デュードニーの『…

『この狂乱するサーカス』ピエール・プロ

Delirium Circus(1977)Pierre Pelot 先日、古いハヤカワ文庫を整理していたとき、「文庫創刊10周年 総点数1000点突破! ダイナマイト1000」と書かれた帯をみつけました(一九八〇年刊行のスタニスワフ・レムの『泰平ヨンの航星日記』に巻かれていた)。 十…

『冷たい肌』アルベール・サンチェス=ピニョル

La pell freda(2002)Albert Sánchez Piñol ベルナルド・アチャーガの『オババコアック』のときにも書きましたが、アルベール・サンチェス=ピニョルの『冷たい肌』はスペイン文学(カスティーリャ語。話者数は約四億二千万人)ではなく、カタルーニャ文学(…

『かも猟』ユゴー・クラウス

De Metsiers(1950)Hugo Claus ジュリアン・グラックは二十八歳で『アルゴールの城にて』を出版し、ジャン=ルネ・ユグナンは二十四歳で『荒れた海辺』を出版しましたが、ユゴー・クラウスが『かも猟』を出版したのは二十一歳のときでした(執筆したのは十九…

『ユーラリア国騒動記』A・A・ミルン

Once on a Time(1917)Alan Alexander Milne アラン・アレクサンダー・ミルン(※1)といえば、何といっても『くまのプーさん』(一九二六)が有名ですが、『赤い館の秘密』(一九二二)といったミステリーや、P・G・ウッドハウスが「英語で書かれた最高…

『フォックスファイア』ジョイス・キャロル・オーツ

Foxfire: Confessions of a Girl Gang(1993)Joyce Carol Oates ノーベル文学賞の発表が近づくと、よく名前があがるのが、ジョイス・キャロル・オーツ。 何を読んでも面白い、外れの少ない作家のひとりですが、多作かつ様々なジャンル・長さの小説を書くタ…

『ウンブラ/タイナロン』レーナ・クルーン

Umbra: Silmäys Paradoksien arkistoon(1990)/Tainaron: Postia toisesta kaupungista(1985)Leena Krohn フィンランドの女流作家レーナ・クルーンは、日本でも人気があるらしく、沢山の訳本が出版されています。 映画『ペリカンマン』の原作である『ペリ…

『プレーボール! 2002年』ロバート・ブラウン

The New Atom's Bombshell(1980)Robert Browne(a.k.a. Marvin Karlins) ロバート・ブラウンの『プレーボール! 2002年』は、タイトルやカバーイラストをみると「宇宙を舞台に異星人と野球で対決するSF小説」と思われるかも知れません(寺沢武一の…

『ブラック・ユーモア傑作漫画集』ローラン・トポール、ロナルド・サールほか

一九七〇年に早川書房より刊行された「ブラック・ユーモア選集」は、同社の書籍の巻末広告にもよく掲載されていたので、ご存知の方も多いことでしょう(後に改訂版も発行された)。 広告には全六巻として、以下の書名が並んでいます。『幻の下宿人』ローラン…