読書感想文(関田涙)

関田 涙(せきた・なみだ)

フランス

『おにごっこ物語』『もう一つのおにごっこ物語』マルセル・エイメ

Les Contes du chat perché(1934-1946)Marcel Aymé マルセル・エイメの『Les Contes du chat perché』には数多くの邦訳があり、邦題も様々です(『おにごっこ物語』『牧場物語』『ゆかいな農場』『猫が耳のうしろをなでるとき』など)。「chat perché」は…

『二人の女と毒殺事件』アルフレート・デーブリーン

Die beiden Freundinnen und ihr Giftmord(1924)Alfred Döblin アルフレート・デーブリーンは、最近になって叙事詩『マナス』や短編集『たんぽぽ殺し』などが刊行されるなど、日本ではちょっとしたブームになっています。しかし、何をおいても読んでおきた…

『火山を運ぶ男』ジュール・シュペルヴィエル

L'Homme de la pampa(1923)Jules Supervielle ジュール・シュペルヴィエルは、詩や短編小説の評価も高いのですが、日本では澁澤龍彦が訳した長編小説『ひとさらい』Le Voleur d'enfants(1926)が最もよく知られています。 子どもをさらってきて疑似家族を…

『授業/犀』ウージェーヌ・イヨネスコ

Eugène Ionesco 前回のスワヴォーミル・ムロージェックに続き、今回はウージェーヌ・イヨネスコの戯曲を取り上げてみます。 イヨネスコもムロージェック同様、劇作家としての方が圧倒的に有名で、白水社から「イヨネスコ戯曲全集」全四巻が発行されています…

『恋人たちと泥棒たち』トリスタン・ベルナール

Amants et voleurs(1905)Tristan Bernard 出帆社の「ユーモア文学傑作シリーズ」(※1)は、一九七五年十一月から一九七六年十月の一年間に、以下の本が出版されました。『悪戯の愉しみ』アルフォンス・アレー『ルーフォック・オルメスの冒険』ピエール・…

『数』フィリップ・ソレルス

Nombres(1966)Philippe Sollers 作家でもあり思想家でもあるフィリップ・ソレルスは、雑誌「テル・ケル」や「アンフィニ」の主催者としても知られています。 彼の作風を一言でいうと、前衛的で難解。処女長編の『奇妙な孤独』、日本では文庫化もされた『女…

『聖アントワヌの誘惑』ギュスターヴ・フローベール

La Tentation de saint Antoine(1874)Gustave Flaubert ギュスターヴ・フローベールといってすぐに思い浮かぶのは『ボヴァリー夫人』『感情教育』『サランボー』『紋切型辞典』といった作品たちでしょう。 そんな彼が何度も何度も書き直し、三十年もの歳月…

『この狂乱するサーカス』ピエール・プロ

Delirium Circus(1977)Pierre Pelot 先日、古いハヤカワ文庫を整理していたとき、「文庫創刊10周年 総点数1000点突破! ダイナマイト1000」と書かれた帯をみつけました(一九八〇年刊行のスタニスワフ・レムの『泰平ヨンの航星日記』やスタンリイ・エリン…

『完全犯罪売ります』ユベール・モンテイエ

De quelques crimes parfaits(1969)Hubert Monteilhet 僕の読書は浅くて狭いので、滅多に手を出さないジャンルが結構あります。例えば、恋愛小説、ポルノグラフィ、ミステリー、ホラーなどは余程のことがない限り読みません。 別に毛嫌いしているわけでは…

『夜鳥』モーリス・ルヴェル

Les Oiseaux de nuit(1913)Maurice Level 訳者の田中早苗(女性に非ず)は、モーリス・ルヴェルに惚れ込み、大正時代に「新青年」誌に翻訳を発表し続けました。それをまとめた本が『夜鳥』で、一九二八年に春陽堂から刊行されました。『夜鳥』というタイト…

『ヴィーナス氏』ラシルド

Monsieur Vénus(1884)Rachilde ラシルド(本名マルグリット・ヴァレット・エームリ)は、アルフレッド・ジャリ唯一の女友だちで、『超男性ジャリ』という評伝も翻訳されているせいか、日本ではジャリとの関連で語られることが多いようです。 まずは、この…

『熱い太陽、深海魚』ミシェル・ジュリ

Soleil chaud, poisson des profondeurs(1976)Michel Jeury サンリオSF文庫の特徴のひとつとして、日本人にとって馴染みの薄いフランスのSFを数多く紹介してくれたことがあげられます(※1)。 『馬的思考』アルフレッド・ジャリ 『五月革命'86』ジャ…

『大脱出』アンリ・グゴー

Le Grand Partir(1978)Henri Gougaud 前回取り上げたアンナ・ゼーガースの『第七の十字架』と同じく脱獄小説です。 けれど、共通するのはそれだけ。『第七の十字架』がナチ党の支配に抵抗した硬質な文学作品であるのに対し、こちらはアルフォンス・アレー…

『氷のスフィンクス』ジュール・ヴェルヌ

Le Sphinx des Glaces(1897)Jules Verne 以前、『ロビンソン・クルーソー』や『ドン・キホーテ』のパロディや続編をいくつか取り上げて感想を書きましたが、その第三弾として、エドガー・アラン・ポーの『ナンタケット島出身のアーサー・ゴードン・ピムの…

『でぶの悩み』アンリ・ベロー

Le Martyre de l'obèse(1922)Henri Béraud 身体的特徴(デブ、ハゲ、チビ、ブスなど)をあげつらう笑いは、最も低俗といわれます。「道徳的にけしからん」とか「差別だ」などというわけではなく、幼稚園児にもできる程度の低さと、発展性のなさがその理由…

『八時四七分の列車』ジョルジュ・クールトリーヌ

Le Train de 8 heures 47(1888)Georges Courteline ジョルジュ・クールトリーヌは、カミと並び、フランスのユーモア小説の巨匠といわれています。 いや、「巨匠」というと偉そうですね。庶民に愛された代表的な大衆作家というべきでしょうか。 日本では単…

『マダムは子供が嫌いとおっしゃる』クレマン・ヴォーテル

Madame ne veut pas d'enfant(1924)Clément Vautel 僕は、作家単位で読書するタイプなので、個人全集を揃えることはあっても、複数の作家を集めた、いわゆる「文学全集」「ライブラリー」「叢書」の類をコンプリートしたことはほとんどありません(全二十…

『リュシエンヌに薔薇を』ローラン・トポール

Four Roses for Lucienne(1967)Roland Topor 画家としてのローラン・トポールは、画集『マゾヒストたち』(澁澤龍彦編、薔薇十字社)や、映画『ファンタスティック・プラネット』(ルネ・ラルー監督)の原画等で知られています。奇妙で、ブラックな作風は…

『去年マリエンバートで/不滅の女』アラン・ロブ=グリエ

L'Année dernière à Marienbad(1961)/L'Immortelle(1963)Alain Robbe-Grillet 今年最初の更新なのに「去年」の話ってどうなんだろうと思いつつ、アラン・ロブ=グリエの『去年マリエンバートで』(写真)です。 これは書籍よりも、アラン・レネ監督の同名…

『名探偵オルメス』ピエール・アンリ・カミ

Les Aventures de Loufock-Holmès(1926)Pierre Henri Cami 前回、ピエール・アンリ・カミの『エッフェル塔の潜水夫』を取り上げたのですが、何となく心残りでした。 というのも、「あれでは、まるで『不思議な少年』のみでマーク・トウェインを語ったよう…

『エッフェル塔の潜水夫』ピエール・アンリ・カミ

Le Scaphandrier de la Tour Eiffel(1929)Pierre Henri Cami フランスのユーモア作家ピエール・アンリ・カミは、日本では主に「名探偵ルーフォック・オルメス」「機械探偵クリク・ロボット」などのシリーズものが訳されています。 彼は、ジェイムズ・サー…

『逃げ道』フランソワーズ・サガン

Les Faux-fuyants(1991)Françoise Sagan 昔からフランソワーズ・サガンが好きでした。「男の癖に……」といわれそうな気がして大きな声は出せなかったので、いわば「隠れサガン信奉者」といったところでしょうか。 世代が違うため「十八歳で文壇デビューし、…

『破壊しに、と彼女は言う』マルグリット・デュラス

Détruire, dit-elle(1969)Marguerite Duras 映画監督でもあったマルグリット・デュラスは、自作の映画化、舞台化を常に念頭に置いて小説を執筆していたそうです。 一九七三年の『インディア・ソング』には「texto-teatro-film」という言葉が付されています…

『100000000000000の詩篇』レーモン・クノー

Cent mille milliards de poèmes(1961)Raymond Queneau 全集などに購入特典をつけるのは、正直やめて欲しい。これがあると「欲しいから買った」のではなく、「買わされた」感が強くなるからです。って、水声社の「レーモン・クノー・コレクション」(全十…

『マラルメ先生のマザー・グース』ステファヌ・マラルメ

Recueil de "Nursery rhymes"(1964)Stéphane Mallarmé はっきりいって、僕には古今東西老若男女巧拙にかかわらずほとんどの詩が、まるで理解できません。形式や成り立ちには多少興味がありますが、読者としては未熟もいいところです。勿論、好きな女性に自…

『孤独な男』ウージェーヌ・イヨネスコ

Le Solitaire(1973)Eugène Ionesco ウージェーヌ・イヨネスコは『禿の女歌手』や『犀』などで有名な不条理演劇の代表的作家ですが、小説も少し書いています。 ただし、ほとんどが短編で、多くはその後、戯曲として書き直されています(逆もある)。それら…

『フライデーあるいは太平洋の冥界』『フライデーあるいは野生の生活』ミシェル・トゥルニエ

Vendredi ou les limbes du Pacifique(1967)/Vendredi ou la vie sauvage(1971)Michiel Tournier 今回から数回に亘って、ダニエル・デフォーの『ロビンソン・クルーソー』に関係する小説、いわゆるロビンソナードといわれるパロディ作品群を取りあげるつ…

『先に寝たやつ相手を起こす』ジャン=エデルン・アリエ

Le premier qui dort réveille l'autre(1977)Jean-Edern Hallier ジャン=エデルン・アリエの『先に寝たやつ相手を起こす』(写真)は、ミュリエル・スパークの『邪魔をしないで』や『ホットハウスの狂影』と同じ年(一九八一年)に、同じハヤカワ・ノヴェ…

『荒れた海辺』ジャン=ルネ・ユグナン

La Côte sauvage(1960)Jean-René Huguenin 青春小説の評価は難しいと、いつも思います。 ときが経つと、作品自体の賞味期限が切れてしまうことや、様々なフィルターがかかってしまうことがあるからです。勿論、それはどんなジャンルの小説にもいえることで…

『青い花』レーモン・クノー

Les Fleurs bleues(1965)Raymond Queneau レーモン・クノーの小説は、以前『イカロスの飛行』の感想を掲載していたのですが、アップロードに失敗してデータが消えてしまいました……。 このブログは「お気に入りの作家の紹介」でもあるので、ぜひ加えておき…