読書感想文(関田 涙)

関田 涙(せきた・なみだ)

アメリカ

『怪奇と幻想』ロバート・ブロック、レイ・ブラッドベリほか

主に一九七〇年代に刊行されたホラー短編のアンソロジーは、似たようなシリーズ名が多いことで有名です。 それについては詳しく解説したサイトがあるので、ここでは特に名の知れた四つの叢書をあげるに止めます(※1)。『幻想と怪奇』全二巻、都筑道夫編、…

『フォックス・ウーマン』A・メリット、半村良

The Fox Woman(1949)A. Merritt(Ryō Hanmura fused Merritt's unfinished story in 1994) A・メリット(日本では本名の「エイブラハム・メリット」と記載されることもある)はパルプマガジン全盛期に活躍した作家です。 SFというより、幻想味の強いフ…

『トッパー氏の冒険』ソーン・スミス

Topper(1926)Thorne Smith 筑摩書房の「世界ユーモア文学全集」は十五巻+別冊三で刊行されました。それを十冊に編み直して、新装したのが「世界ユーモア文庫」です(文庫といっても、サイズは四六判)。 この巻を購入したのは勿論、P・G・ウッドハウス…

『標的ナンバー10』ロバート・シェクリイ

The 10th Victim(1965)Robert Sheckley 昨年末から、リチャード・マシスン、レイ・ラッセル、シャーリイ・ジャクスン、ジョン・コリア、ダフネ・デュ・モーリア、マルセル・エイメ、フレドリック・ブラウンの作品を断続的にですが取り上げてきました。 海…

『ミッキーくんの宇宙旅行』フレドリック・ブラウン

The Star Mouse(1942)Fredric Brown『Mitkey Astromouse』(一九七一)という本があります。 これは、フレドリック・ブラウンの短編「星ねずみ」(The Star Mouse)をアン・スペルバーが子ども向けにリライトし、ハインツ・エーデルマン(映画『イエロー・…

『こちらへいらっしゃい』シャーリイ・ジャクスン

Come Along with Me(1968)Shirley Jackson シャーリイ・ジャクスンの翻訳は『くじ』を嚆矢として、『山荘綺談』へと続くわけですが、その次が『こちらへいらっしゃい』だったのが何とも不可思議です。 というのも、この本は、遺作となった未完の小説「こち…

『インキュバス』レイ・ラッセル

Incubus(1976)Ray Russell レイ・ラッセルは、様々なジャンルの小説を書きましたが、特に評価が高いのはホラー小説です。 ただし、日本では短編集が二冊に、長編が一冊しか出版されていません。 不幸中の幸いというべきか、ニューゴシック三部作の「血の伯…

『奇術師の密室』リチャード・マシスン

Now You See It ...(1995)Richard Matheson リチャード・マシスンの小説は、数多く映画化されています(『アイ・アム・レジェンド』「激突!」『ある日どこかで』『縮みゆく人間』『奇蹟の輝き』「運命のボタン」などなど)。 また、短編も評価が高く、個…

『鏡の国のアリス』モリー・フルート

Through the Looking Glass(1976)Molly Flute この本の原題は『Through the Looking Glass』。そう、かの有名なルイス・キャロルの『鏡の国のアリス』と同じです。 しかし、共通するのはそれだけ。アリスという名の人物も登場しなければ、ワンダーランドを…

『サバイバー』チャック・パラニューク

Survivor(1999)Chuck Palahniuk 前回、初めて映画のノベライズを扱いましたが、基本的に僕はノベライズなどには手を出しません。別に軽視しているわけではなく、存在意義がよく分からないからです(メディアミックスやスピンオフなどは除く)。「映像では…

『悪魔はぼくのペット』ゼナ・ヘンダースン

The Anything Box(1965)Zenna Henderson 前回ちょっと触れたゼナ・ヘンダースンは、長編を一作も書いておらず、また短編の数もそれほど多くありません。 にもかかわらず、連作短編の「ピープル」シリーズ、あるいは「スー・リンのふしぎ箱(なんでも箱)」…

『どこからなりとも月にひとつの卵』マーガレット・セントクレア

Change the Sky and Other Stories(1974)Margaret St. Clair(a.k.a. Idris Seabright, Wilton Hazzard) マーガレット・セントクレア(別名イドリス・シーブライトほか)は一九五〇〜六〇年代に活躍したSF作家で、短編集『どこからなりとも月にひとつの…

『ブラッド・スポーツ ―ハサヤンパ河を遡る旅』ロバート・F・ジョーンズ

Blood Sport: A Journey Up the Hassayampa(1974)Robert Francis Jones どんな趣味においても、人は経験を増すにつれ知名度の低いものを偏愛する傾向があります。知られていないものを好むのは、知識の広さを誇ったり、普通の人が評価しないものの価値を認…

『ニックとグリマング』フィリップ・K・ディック

Nick and the Glimmung(1988)Philip Kindred Dick 二十一世紀になってから、フィリップ・キンドレッド・ディック原作の映画が毎年のように公開されています。今年はいよいよ『ブレードランナー2049』が封切られ、それに伴い第何次かのディックブームが…

『キンドレッド ―きずなの招喚』オクテイヴィア・E・バトラー

Kindred(1979)Octavia Estelle Butler オクテイヴィア・エステル・バトラーは「黒人・女性・SF作家」です。 この三つの条件を満たす作家はそれほど多くなさそうです。思いつく範囲ではナロ・ホプキンスン、アンドレア・ヘアストン、N・K・ジェミシン、…

『連れていって、どこかへ』ローレン・ケリー

Take Me, Take Me With You(2004)Lauren Kelly 前回の『Gストリング殺人事件』では、ゴーストライターの話をしましたが、今回は作家の別名義についてです。『連れていって、どこかへ』のローレン・ケリーとは、ある著名な作家の別名です。 本来の作風と異…

『Gストリング殺人事件』ジプシー・ローズ・リー

The G-String Murders(1941)Gypsy Rose Lee ジプシー・ローズ・リーは、アメリカンバーレスクのストリッパー(※1)。「バーレスクの女王」と呼ばれ、映画やテレビにも数多く出演したそうです。彼女はさらに多彩ぶりをみせつけ、推理小説まで執筆しました…

『ジェラルドのパーティ』ロバート・クーヴァー

Gerald's Party(1986)Robert Coover リチャード・ブローティガンにはかつてミステリー、ホラー、ウエスタン、ハードボイルドといった異なる形式を用いて連続して長編小説を発表していた時期がありました。 ロバート・クーヴァーは、いわばそれをずっとやっ…

『だれがコロンブスを発見したか』『そしてだれも笑わなくなった』『嘘だといってよ、ビリー』『ゴッドファザーは手持ち無沙汰』『コンピューターが故障です』アート・バックウォルド

Down the Seine and Up the Potomac With Art Buchwald(1977)/The Buchwald Stops Here(1979)/Laid Back In Washington With Art Buchwald(1981)/While Reagan Slept(1983)/You Can Fool All of the People All the Time(1986)/I Think I Don’t Re…

『絢爛たる屍』ポピー・Z・ブライト

Exquisite Corpse(1996)Poppy Z. Brite サイコサスペンス、ニューロティックスリラー、猟奇ホラーなどに分類されるような小説・映画・漫画は、毎年のように話題になる作品が現れます。僕も嫌いじゃないので色々と試してみますが、刺激に慣れてきたのか、大…

『バドティーズ大先生のラブ・コーラス』ウィリアム・コツウィンクル

The Fan Man(1974)William Kotzwinkle ウィリアム・コツウィンクルの小説のなかでは『ファタ・モルガーナ』が一番好きと書きましたが、それとは対極にありながら、別の意味で愛すべき作品が『バドティーズ大先生のラブ・コーラス』です。 いや、対極という…

『ミュンヒハウゼン男爵の科学的冒険』ヒューゴー・ガーンズバック

Baron Münchhausen's New Scientific Adventures(1915)Hugo Gernsback ヒューゴー賞は、SFの賞としては最も古く、最も知名度が高いのですが、その名の元となったヒューゴー・ガーンズバックの小説を読んだことがある人は、どれくらいいるでしょうか。 日…

『野蛮人との生活 ―スラップスティック式育児法』シャーリイ・ジャクスン

Life Among the Savages(1953)Shirley Jackson ここのところ、ちょっとしたシャーリイ・ジャクスンブームらしく、長編や短編集の新訳が出版され続けています(※)。ここ一年以内にも『絞首人』『日時計』『なんでもない一日』(全訳ではない)が新たに訳さ…

『決戦! プローズ・ボウル』ビル・プロンジーニ、バリー・N・マルツバーグ

Prose Bowl(1980)Bill Pronzini, Barry Nathaniel Malzberg ビル・プロンジーニは、「名無しの探偵」シリーズで有名なミステリー作家。ただし、僕は推理小説をほとんど読まないので、エラリー・クイーン編の『新 世界傑作推理12選』に収録されている「朝飯…

『明日に別れの接吻を』ホレス・マッコイ

Kiss Tomorrow Goodbye(1948)Horace McCoy ホレス・マッコイは、アメリカよりもフランスで先に評価された作家です。 実存主義の元祖としてジャン=ポール・サルトルらに絶賛され、アーネスト・ヘミングウェイ、ウィリアム・フォークナー、ジョン・スタイン…

『フォックスファイア』ジョイス・キャロル・オーツ

Foxfire: Confessions of a Girl Gang(1993)Joyce Carol Oates ノーベル文学賞の発表が近づくと、よく名前があがるのが、ジョイス・キャロル・オーツ。 何を読んでも面白い、外れの少ない作家のひとりですが、多作かつ様々なジャンル・長さの小説を書くタ…

『プレーボール! 2002年』ロバート・ブラウン

The New Atom's Bombshell(1980)Robert Browne(a.k.a. Marvin Karlins) ロバート・ブラウンの『プレーボール! 2002年』は、タイトルやカバーイラストをみると「宇宙を舞台に異星人と野球で対決するSF小説」と思われるかも知れません(寺沢武一の…

『ブロードウェイの天使』デイモン・ラニアン

Damon Runyon デイモン・ラニアンは、ジャーナリスト出身で、スラングを多用した生き生きとした語り口の短編を得意とするという意味で、リング・ラードナーと共通点があります(ふたりとも、野球の記者としての功績が認められ、J・G・テイラー・スピンク賞…

『ハンバーガー殺人事件』リチャード・ブローティガン

So the Wind Won't Blow It All Away(1982)Richard Brautigan 翻訳文学を楽しむ者にとって、リチャード・ブローティガンといえば藤本和子です。その結びつきが強すぎて、果たしてどちらを好きなのか分からなくなるくらい。一九七〇年代、本国では忘れられ…

『黄金の眼に映るもの』カーソン・マッカラーズ

Reflections in a Golden Eye(1941)Carson McCullers 今からちょうど三年前、二〇一二年最後の読書感想文がカーソン・マッカラーズの『心は孤独な狩人』でした。今年最後の更新では、彼女の次の作品である『黄金の眼に映るもの』を取り上げてみます。 まず…