読書感想文(関田 涙)

関田 涙(せきた・なみだ)

アメリカ

『鏡の国のアリス』モリー・フルート

Through the Looking Glass(1976)Molly Flute この本の原題は『Through the Looking Glass』。そう、かの有名なルイス・キャロルの『鏡の国のアリス』と同じです。 しかし、共通するのはそれだけ。アリスという名の人物も登場しなければ、ワンダーランドを…

『サバイバー』チャック・パラニューク

Survivor(1999)Chuck Palahniuk 前回、初めて映画のノベライズを扱いましたが、基本的に僕はノベライズなどには手を出しません。別に軽視しているわけではなく、存在意義がよく分からないからです(メディアミックスやスピンオフなどは除く)。「映像では…

『悪魔はぼくのペット』ゼナ・ヘンダースン

The Anything Box(1965)Zenna Henderson 前回ちょっと触れたゼナ・ヘンダースンは、長編を一作も書いておらず、また短編の数もそれほど多くありません。 にもかかわらず、連作短編の「ピープル」シリーズ、あるいは「スー・リンのふしぎ箱(なんでも箱)」…

『どこからなりとも月にひとつの卵』マーガレット・セントクレア

Change the Sky and Other Stories(1974)Margaret St. Clair(a.k.a. Idris Seabright, Wilton Hazzard) マーガレット・セントクレア(別名イドリス・シーブライトほか)は一九五〇〜六〇年代に活躍したSF作家で、短編集『どこからなりとも月にひとつの…

『ブラッド・スポーツ ―ハサヤンパ河を遡る旅』ロバート・F・ジョーンズ

Blood Sport: A Journey Up the Hassayampa(1974)Robert Francis Jones どんな趣味においても、人は経験を増すにつれ知名度の低いものを偏愛する傾向があります。知られていないものを好むのは、知識の広さを誇ったり、普通の人が評価しないものの価値を認…

『ニックとグリマング』フィリップ・K・ディック

Nick and the Glimmung(1988)Philip Kindred Dick 二十一世紀になってから、フィリップ・キンドレッド・ディック原作の映画が毎年のように公開されています。今年はいよいよ『ブレードランナー2049』が封切られ、それに伴い第何次かのディックブームが…

『キンドレッド ―きずなの招喚』オクテイヴィア・E・バトラー

Kindred(1979)Octavia Estelle Butler オクテイヴィア・エステル・バトラーは「黒人・女性・SF作家」です。 この三つの条件を満たす作家はそれほど多くなさそうです。思いつく範囲ではナロ・ホプキンスン、アンドレア・ヘアストン、N・K・ジェミシン、…

『連れていって、どこかへ』ローレン・ケリー

Take Me, Take Me With You(2004)Lauren Kelly 前回の『Gストリング殺人事件』では、ゴーストライターの話をしましたが、今回は作家の別名義についてです。『連れていって、どこかへ』のローレン・ケリーとは、ある著名な作家の別名です。 本来の作風と異…

『Gストリング殺人事件』ジプシー・ローズ・リー

The G-String Murders(1941)Gypsy Rose Lee ジプシー・ローズ・リーは、アメリカンバーレスクのストリッパー(※1)。「バーレスクの女王」と呼ばれ、映画やテレビにも数多く出演したそうです。彼女はさらに多彩ぶりをみせつけ、推理小説まで執筆しました…

『ジェラルドのパーティ』ロバート・クーヴァー

Gerald's Party(1986)Robert Coover リチャード・ブローティガンにはかつてミステリー、ホラー、ウエスタン、ハードボイルドといった異なる形式を用いて連続して長編小説を発表していた時期がありました。 ロバート・クーヴァーは、いわばそれをずっとやっ…

『だれがコロンブスを発見したか』『そしてだれも笑わなくなった』『嘘だといってよ、ビリー』『ゴッドファザーは手持ち無沙汰』『コンピューターが故障です』アート・バックウォルド

Down the Seine and Up the Potomac With Art Buchwald(1977)/The Buchwald Stops Here(1979)/Laid Back In Washington With Art Buchwald(1981)/While Reagan Slept(1983)/You Can Fool All of the People All the Time(1986)/I Think I Don’t Re…

『絢爛たる屍』ポピー・Z・ブライト

Exquisite Corpse(1996)Poppy Z. Brite サイコサスペンス、ニューロティックスリラー、猟奇ホラーなどに分類されるような小説・映画・漫画は、毎年のように話題になる作品が現れます。僕も嫌いじゃないので色々と試してみますが、刺激に慣れてきたのか、大…

『バドティーズ大先生のラブ・コーラス』ウィリアム・コツウィンクル

The Fan Man(1974)William Kotzwinkle ウィリアム・コツウィンクルの小説のなかでは『ファタ・モルガーナ』が一番好きと書きましたが、それとは対極にありながら、別の意味で愛すべき作品が『バドティーズ大先生のラブ・コーラス』です。 いや、対極という…

『ミュンヒハウゼン男爵の科学的冒険』ヒューゴー・ガーンズバック

Baron Münchhausen's New Scientific Adventures(1915)Hugo Gernsback ヒューゴー賞は、SFの賞としては最も古く、最も知名度が高いのですが、その名の元となったヒューゴー・ガーンズバックの小説を読んだことがある人は、どれくらいいるでしょうか。 日…

『野蛮人との生活 ―スラップスティック式育児法』シャーリイ・ジャクスン

Life Among the Savages(1953)Shirley Hardie Jackson ここのところ、ちょっとしたシャーリイ・ジャクスンブームらしく、長編や短編集の新訳が出版され続けています(※)。ここ一年以内にも『絞首人』『日時計』『なんでもない一日』(全訳ではない)が新…

『決戦! プローズ・ボウル』ビル・プロンジーニ、バリー・N・マルツバーグ

Prose Bowl(1980)Bill Pronzini, Barry Nathaniel Malzberg ビル・プロンジーニは、「名無しの探偵」シリーズで有名なミステリー作家。ただし、僕は推理小説をほとんど読まないので、エラリー・クイーン編の『新 世界傑作推理12選』に収録されている「朝飯…

『明日に別れの接吻を』ホレス・マッコイ

Kiss Tomorrow Goodbye(1948)Horace McCoy ホレス・マッコイは、アメリカよりもフランスで先に評価された作家です。 実存主義の元祖としてジャン=ポール・サルトルらに絶賛され、アーネスト・ヘミングウェイ、ウィリアム・フォークナー、ジョン・スタイン…

『フォックスファイア』ジョイス・キャロル・オーツ

Foxfire: Confessions of a Girl Gang(1993)Joyce Carol Oates ノーベル文学賞の発表が近づくと、よく名前があがるのが、ジョイス・キャロル・オーツ。 何を読んでも面白い、外れの少ない作家のひとりですが、多作かつ様々なジャンル・長さの小説を書くタ…

『プレーボール! 2002年』ロバート・ブラウン

The New Atom's Bombshell(1980)Robert Browne(a.k.a. Marvin Karlins) ロバート・ブラウンの『プレーボール! 2002年』は、タイトルやカバーイラストをみると「宇宙を舞台に異星人と野球で対決するSF小説」と思われるかも知れません(寺沢武一の…

『ブロードウェイの天使』デイモン・ラニアン

Damon Runyon デイモン・ラニアンは、ジャーナリスト出身で、スラングを多用した生き生きとした語り口の短編を得意とするという意味で、リング・ラードナーと共通点があります(ふたりとも、野球の記者としての功績が認められ、J・G・テイラー・スピンク賞…

『ハンバーガー殺人事件』リチャード・ブローティガン

So the Wind Won't Blow It All Away(1982)Richard Brautigan 翻訳文学を楽しむ者にとって、リチャード・ブローティガンといえば藤本和子です。その結びつきが強すぎて、果たしてどちらを好きなのか分からなくなるくらい。一九七〇年代、本国では忘れられ…

『黄金の眼に映るもの』カーソン・マッカラーズ

Reflections in a Golden Eye(1941)Carson McCullers 今からちょうど三年前、二〇一二年最後の読書感想文がカーソン・マッカラーズの『心は孤独な狩人』でした。今年最後の更新では、彼女の次の作品である『黄金の眼に映るもの』を取り上げてみます。 まず…

『ジョン・バーリコーン ―酒と冒険の自伝的物語』ジャック・ロンドン

John Barleycorn(1913)Jack London ジャック・ロンドンは、何といっても『野性の呼び声(荒野の呼び声)』と『白い牙』の二作が有名なので、彼をよく知らない人はアーネスト・トンプソン・シートン(※)のような作家だと思っているかも知れません。 しかし…

『マーク・トウェインのバーレスク風自叙伝』マーク・トウェイン

Mark Twain's (Burlesque) Autobiography and First Romance(1871)Mark Twain 今は亡き旺文社文庫は、一九六五年に誕生し、二十二年間で約千百冊が発行されました。 サンリオ文庫より二か月早い一九八七年六月に廃刊(※1)になったのですが、『マーク・ト…

『いたずらの天才』H・アレン・スミス

The Compleat Practical Joker(1953)Harry Allen Smith メジャーリーグベースボール(MLB)では、主に新入りに対して、いたずらが仕掛けられることがあります。かつてニューヨーク・ヤンキースに在籍していた松井秀喜もその餌食となり、豹柄の仮装をさ…

『ユーモア・スケッチ傑作展〈1〜3〉』『すべてはイブからはじまった』ロバート・ベンチリー、スティーヴン・リーコックほか

このブログの「書名一覧」をみていただくと一目瞭然ですが、僕はユーモア小説に目がありません。 ミステリーや恋愛小説などは年に一冊読むかどうかであるにもかかわらず、広い意味でのユーモア文学は書棚の半分を占めるといっても過言ではないでしょう。 当…

『セシルの魔法の友だち』ポール・ギャリコ

The Day the Guinea-Pig Talked(1963)/The Day Jean-Pierre was Pignapped(1964)/The Day Jean-Pierre Went Round the World(1965)/The Day Jean-Pierre Joined the Circus(1969)Paul Gallico このブログには下書き機能があり、常時五十くらい記…

『ヒヨコ天国』P・G・ウッドハウス

Love Among the Chickens(1906)Pelham Grenville Wodehouse 僕にとってペラム・グレンヴィル・ウッドハウスは、長い間、幻の作家でした。 彼の名前を知った頃、戦前の書籍や、短編が掲載された「新青年」は入手困難で、古本以外で読めるのは雑誌やアンソロ…

『B・ガール』フレドリック・ブラウン

The Wench is Dead(1955)Fredric Brown 僕にとってSFとはフレドリック・ブラウンの小説そのものといっても過言ではありません。 特に『発狂した宇宙』と『火星人ゴーホーム』という二大傑作は、何度読み返したでしょうか。個人的には六対四くらいで『発…

『ラスベガス★71』ハンター・S・トンプソン

Fear and Loathing in Las Vegas: A Savage Journey to the Heart of the American Dream(1971)Hunter Stockton Thompson ハンター・ストックトン・トンプソンは、ゴンゾー(gonzo)ジャーナリズムの生みの親として知られています。 ゴンゾージャーナリズ…