読書感想文(関田 涙)

関田 涙(せきた・なみだ)

書名一覧

絶版、品切重版未定、残部僅少、限定版、自費出版、高価な本、非売品など、少しだけ手に入れにくい本の感想文を書いています。ほとんどが海外文学、翻訳小説です。

『鏡の国のアリス』モリー・フルート

Through the Looking Glass(1976)Molly Flute この本の原題は『Through the Looking Glass』。そう、かの有名なルイス・キャロルの『鏡の国のアリス』と同じです。 しかし、共通するのはそれだけ。アリスという名の人物も登場しなければ、ワンダーランドを…

『サバイバー』チャック・パラニューク

Survivor(1999)Chuck Palahniuk 前回、初めて映画のノベライズを扱いましたが、基本的に僕はノベライズなどには手を出しません。別に軽視しているわけではなく、存在意義がよく分からないからです(メディアミックスやスピンオフなどは除く)。「映像では…

『吸血ゾンビ』ジョン・バーク

The Second Hammer Horror Film Omnibus(1967)John Burke 僕の読書は、足と肩に自信のない遊撃手のように守備範囲が狭いので、苦手なジャンルが数多くあります。なかでもホラーは小説も映画も不得意で、知識もないし面白味もよく分かりません。 恐らく、ホ…

つながる海外文学 ―初心者におすすめする連想読書法

僕は昔から、他人とかかわり合うのが苦手です。 実生活では、生きてゆくためにやむを得ずある程度のつき合いをしていますが、インターネット内では一切の交わりをやめてしまいました(昔は少しやっていた)。 ブログはコミュニケーションを取るためのもので…

『悪魔はぼくのペット』ゼナ・ヘンダースン

The Anything Box(1965)Zenna Henderson 前回ちょっと触れたゼナ・ヘンダースンは、長編を一作も書いておらず、また短編の数もそれほど多くありません。 にもかかわらず、連作短編の「ピープル」シリーズ、あるいは「スー・リンのふしぎ箱(なんでも箱)」…

『どこからなりとも月にひとつの卵』マーガレット・セントクレア

Change the Sky and Other Stories(1974)Margaret St. Clair(a.k.a. Idris Seabright, Wilton Hazzard) マーガレット・セントクレア(別名イドリス・シーブライトほか)は一九五〇〜六〇年代に活躍したSF作家で、短編集『どこからなりとも月にひとつの…

『火山を運ぶ男』ジュール・シュペルヴィエル

L'Homme de la pampa(1923)Jules Supervielle ジュール・シュペルヴィエルは、詩や短編小説の評価も高いのですが、日本では澁澤龍彦が訳した長編小説『ひとさらい(Le Voleur d'enfants)』(一九二六)が最もよく知られています。 子どもをさらってきて疑…

『ブラッド・スポーツ ―ハサヤンパ河を遡る旅』ロバート・F・ジョーンズ

Blood Sport: A Journey Up the Hassayampa(1974)Robert Francis Jones どんな趣味においても、人は経験を増すにつれ知名度の低いものを偏愛する傾向があります。知られていないものを好むのは、知識の広さを誇ったり、普通の人が評価しないものの価値を認…

『虚構の楽園』ズオン・トゥー・フォン

Những thiên đường mù(1988)Dương Thu Hương 海外文学を読む楽しみのひとつとして、その国や地域の歴史、文化、社会、生活習慣などに触れることができる点があげられます。尤もフィクションを介してですから、何となく知ったつもりになるという程度ではあ…

ミステリーっぽい短編小説2

海外の、ミステリー作家以外が書いたミステリーっぽい短編小説を紹介しています。

『ニックとグリマング』フィリップ・K・ディック

Nick and the Glimmung(1988)Philip Kindred Dick 二十一世紀になってから、フィリップ・キンドレッド・ディック原作の映画が毎年のように公開されています。今年はいよいよ『ブレードランナー2049』が封切られ、それに伴い第何次かのディックブームが…

『刺絡・死の舞踏他』カール・ハンス・シュトローブル

Lemuria: Seltsame Geschichten(1917)Karl Hans Strobl カール・ハンス・シュトローブルは、チェコで生まれた、ドイツ語を母語とするオーストリア人です。『刺絡・死の舞踏他』は、彼の我が国唯一の短編集(全七編)。 訳者の前川道介は、森鷗外が翻訳した…

『熱帯産の蝶に関する二、三の覚え書き』ジョン・マリー

A Few Short Notes on Tropical Butterflies(2003)John Murray 唐突ですが、このブログの特徴をあげると、以下のようになるでしょうか(記事の質は不問。飽くまで体裁のみ)。・海外文学、なおかつ絶版本というマイナーなものを扱っている・更新頻度が低く…

『ブレインストーム教授大あわて』ノーマン・ハンター

The Incredible Adventures of Professor Branestawm(1933)Norman Hunter ノーマン・ハンターは、一九二〇〜三〇年代に「ブレインストーム教授」シリーズなどの児童書で人気を博しました。また、マジシャンとしても活躍したそうです。 ところが、その後、…

『わが庭に幸いあれ ―紳士の国の園芸術』W・ヒース・ロビンソン、K・R・G・ブラウン

How to Make a Garden Grow(1938)William Heath Robinson, Kenneth Robert Gordon Browne 通常の書籍は著者名を先に記しますが、この本の場合、イラストレーターのウィリアム・ヒース・ロビンソンをトップに記載するのが相応しいと思います(原著の表紙も…

『キンドレッド ―きずなの招喚』オクテイヴィア・E・バトラー

Kindred(1979)Octavia Estelle Butler オクテイヴィア・エステル・バトラーは「黒人・女性・SF作家」です。 この三つの条件を満たす作家はそれほど多くなさそうです。思いつく範囲ではナロ・ホプキンスン、アンドレア・ヘアストン、N・K・ジェミシン、…

『授業/犀』ウージェーヌ・イヨネスコ

Eugène Ionesco 前回のスワヴォーミル・ムロージェックに続き、今回はウージェーヌ・イヨネスコの戯曲を取り上げてみます。 イヨネスコもムロージェック同様、劇作家としての方が圧倒的に有名で、白水社から「イヨネスコ戯曲全集」全四巻が発行されています…

『タンゴ』スワヴォーミル・ムロージェック

Sławomir Mrożek 日本で『象』『所長』『鰐の涙』という三冊の短編集(漫画も収録されている)が発行されているスワヴォーミル・ムロージェック。しかし、世界的には作家や漫画家としてより、劇作家として知られています。 実際、日本オリジナルの戯曲集『タ…

『連れていって、どこかへ』ローレン・ケリー

Take Me, Take Me With You(2004)Lauren Kelly 前回の『Gストリング殺人事件』では、ゴーストライターの話をしましたが、今回は作家の別名義についてです。『連れていって、どこかへ』のローレン・ケリーとは、ある著名な作家の別名です。 本来の作風と異…

『Gストリング殺人事件』ジプシー・ローズ・リー

The G-String Murders(1941)Gypsy Rose Lee ジプシー・ローズ・リーは、アメリカンバーレスクのストリッパー(※1)。「バーレスクの女王」と呼ばれ、映画やテレビにも数多く出演したそうです。彼女はさらに多彩ぶりをみせつけ、推理小説まで執筆しました…

『恋人たちと泥棒たち』トリスタン・ベルナール

Amants et voleurs(1905)Tristan Bernard 出帆社の「ユーモア文学傑作シリーズ」(※1)は、一九七五年十一月から一九七六年十月の一年間に、以下の本が出版されました。『悪戯の愉しみ』アルフォンス・アレー『ルーフォック・オルメスの冒険』ピエール・…

『ジェラルドのパーティ』ロバート・クーヴァー

Gerald's Party(1986)Robert Coover リチャード・ブローティガンにはかつてミステリー、ホラー、ウエスタン、ハードボイルドといった異なる形式を用いて連続して長編小説を発表していた時期がありました。 ロバート・クーヴァーは、いわばそれをずっとやっ…

『殺人者の健康法』アメリー・ノートン

Hygiène de l'assassin(1992)Amélie Nothomb フィリップ・ソレルスの『数』は、フランス語のテクストに漢字が混じっていると書きましたが、そういえば僕は、アメリー・ノートンの署名入り『殺人者の健康法』を持っています(写真)。 ノートンは、一九九六…

『ファツ・ヒバ ―楽園を求めて』トール・ヘイエルダール

Fatu-Hiva: Back to Nature(1974)Thor Heyerdahl『コン・ティキ号探検記』(一九四八)で知られるトール・ヘイエルダールはノルウェーの冒険家であり、在野の人類学者、海洋生物学者でもあります。 筏で南太平洋を漂流したり、葦の船でカリブ海やインド洋…

『数』フィリップ・ソレルス

Nombres(1966)Philippe Sollers 作家でもあり思想家でもあるフィリップ・ソレルスは、雑誌「テル・ケル」や「アンフィニ」の主催者としても知られています。 彼の作風を一言でいうと、前衛的で難解。処女長編の『奇妙な孤独』、日本では文庫化もされた『女…

『だれがコロンブスを発見したか』『そしてだれも笑わなくなった』『嘘だといってよ、ビリー』『ゴッドファザーは手持ち無沙汰』『コンピューターが故障です』アート・バックウォルド

Down the Seine and Up the Potomac With Art Buchwald(1977)/The Buchwald Stops Here(1979)/Laid Back In Washington With Art Buchwald(1981)/While Reagan Slept(1983)/You Can Fool All of the People All the Time(1986)/I Think I Don’t Re…

『絢爛たる屍』ポピー・Z・ブライト

Exquisite Corpse(1996)Poppy Z. Brite サイコサスペンス、ニューロティックスリラー、猟奇ホラーなどに分類されるような小説・映画・漫画は、毎年のように話題になる作品が現れます。僕も嫌いじゃないので色々と試してみますが、刺激に慣れてきたのか、大…

『亡き王子のためのハバーナ』ギジェルモ・カブレラ=インファンテ

La Habana para un infante difunto(1979)Guillermo Cabrera Infante ギジェルモ・カブレラ=インファンテは、処女長編の『TTT ―トラのトリオのトラウマトロジー』(Tres tristes tigres 一九六七)が二〇一四年になって、ようやく翻訳されました。 訳す…

『聖アントワヌの誘惑』ギュスターヴ・フローベール

La Tentation de saint Antoine(1874)Gustave Flaubert ギュスターヴ・フローベールといってすぐに思い浮かぶのは『ボヴァリー夫人』『感情教育』『サランボー』『紋切型辞典』といった作品たちでしょう。 そんな彼が何度も何度も書き直し、三十年もの歳月…