読書感想文(関田 涙)

関田 涙(せきた・なみだ)

書名一覧

絶版、品切重版未定、残部僅少、限定版、自費出版、高価な本、非売品など、少しだけ手に入れにくい本の感想文を書いています。ほとんどが海外文学、翻訳小説です。

『怪奇と幻想』ロバート・ブロック、レイ・ブラッドベリほか

主に一九七〇年代に刊行されたホラー短編のアンソロジーは、似たようなシリーズ名が多いことで有名です。 それについては詳しく解説したサイトがあるので、ここでは特に名の知れた四つの叢書をあげるに止めます(※1)。『幻想と怪奇』全二巻、都筑道夫編、…

『のんぶらり島』ジャック・プレヴェール

Lettre des îles Baladar(1952)/Contes pour enfants pas sages(1947)Jacques Prévert ジャック・プレヴェールといえば、映画『天井桟敷の人々』の脚本、あるいはシャンソン『枯葉』の歌詞で有名です。 詩や児童文学でも高い評価を得ており、日本でも数…

『フォックス・ウーマン』A・メリット、半村良

The Fox Woman(1949)A. Merritt(Ryō Hanmura fused Merritt's unfinished story in 1994) A・メリット(日本では本名の「エイブラハム・メリット」と記載されることもある)はパルプマガジン全盛期に活躍した作家です。 SFというより、幻想味の強いフ…

『ティブル』イブラヒーム・アル・クーニー

التبر(1992)ابراهيم الكوني イブラヒーム・アル・クーニー(英語表記だとIbrahim al-Koni、またはIbrahim Kuni)は、サハラ砂漠の遊牧民(バダウィー、ベドウィン)であるトゥアレグ族の出身で、アラビア語のほかティフィナグ文字を用いることもあるそうで…

『おまえはケダモノだ、ヴィスコヴィッツ』アレッサンドロ・ボッファ

Sei una bestia, Viskovitz(1998)Alessandro Boffa アレッサンドロ・ボッファは、モスクワ生まれのイタリア人。ローマで育ち、大学卒業後は世界中を旅しているそうです。 大学で生物学を専攻した彼は、デビュー作の『おまえはケダモノだ、ヴィスコヴィッツ…

『トッパー氏の冒険』ソーン・スミス

Topper(1926)Thorne Smith 筑摩書房の「世界ユーモア文学全集」は十五巻+別冊三で刊行されました。それを十冊に編み直して、新装したのが「世界ユーモア文庫」です(文庫といっても、サイズは四六判)。 この巻を購入したのは勿論、P・G・ウッドハウス…

『標的ナンバー10』ロバート・シェクリイ

The 10th Victim(1965)Robert Sheckley 昨年末から、リチャード・マシスン、レイ・ラッセル、シャーリイ・ジャクスン、ジョン・コリア、ダフネ・デュ・モーリア、マルセル・エイメ、フレドリック・ブラウンの作品を断続的にですが取り上げてきました。 海…

『ミッキーくんの宇宙旅行』フレドリック・ブラウン

The Star Mouse(1942)Fredric Brown『Mitkey Astromouse』(一九七一)という本があります。 これは、フレドリック・ブラウンの短編「星ねずみ」(The Star Mouse)をアン・スペルバーが子ども向けにリライトし、ハインツ・エーデルマン(映画『イエロー・…

『力の問題』ベッシー・ヘッド

A Question of Power(1973)Bessie Head ベッシー・ヘッドは、黒人の父親と白人の母親の間に生まれたカラード(混血)です。英国人の母は黒人の馬丁との子を宿したことで精神病院に入れられ、ヘッドはそこで生まれました。 やがて母は自殺し、遺してくれた…

『おにごっこ物語』『もう一つのおにごっこ物語』マルセル・エイメ

Les Contes du chat perché(1934-1946)Marcel Aymé マルセル・エイメの『Les Contes du chat perché』には数多くの邦訳があり、邦題も様々です(『おにごっこ物語』『牧場物語』『ゆかいな農場』『猫が耳のうしろをなでるとき』など)。「chat perché」は…

『シンデレラの呪われた城』ダフネ・デュ・モーリア

Rebecca(1938)Daphne du Maurier「はて。ダフネ・デュ・モーリアに、そんなタイトルの作品があったっけ?」と思われた方もいらっしゃることでしょう。 しかし、ちょっと考えれば、答えは導き出せます。ポプラ社文庫(現:ポプラポケット文庫)の可愛らしい…

『大いなる奥地』ジョアン・ギマランエス=ローザ

Grande Sertão: Veredas(1956)João Guimarães Rosa アルフレート・デーブリーンの『ベルリン・アレクサンダー広場』がドイツ版『ユリシーズ』なら、ジョアン・ギマランエス=ローザの『大いなる奥地』はブラジル版『ユリシーズ』です(デーブリーンも、ギマ…

『ジョン・コリア奇談集』ジョン・コリア

John Collier 一九七八年に創刊されたサンリオSF文庫は、一九八三年から主流文学やノンフィクションなどを扱う「サンリオ文庫」を独立させました。 そこから新たな作品を刊行し始めたのですが、既にサンリオSF文庫にラインナップされていたものをサンリ…

『こちらへいらっしゃい』シャーリイ・ジャクスン

Come Along with Me(1968)Shirley Jackson シャーリイ・ジャクスンの翻訳は『くじ』を嚆矢として、『山荘綺談』へと続くわけですが、その次が『こちらへいらっしゃい』だったのが何とも不可思議です。 というのも、この本は、遺作となった未完の小説「こち…

『インキュバス』レイ・ラッセル

Incubus(1976)Ray Russell レイ・ラッセルは、様々なジャンルの小説を書きましたが、特に評価が高いのはホラー小説です。 ただし、日本では短編集が二冊に、長編が一冊しか出版されていません。 不幸中の幸いというべきか、ニューゴシック三部作の「血の伯…

『奇術師の密室』リチャード・マシスン

Now You See It ...(1995)Richard Matheson リチャード・マシスンの小説は、数多く映画化されています(『アイ・アム・レジェンド』「激突!」『ある日どこかで』『縮みゆく人間』『奇蹟の輝き』「運命のボタン」などなど)。 また、短編も評価が高く、個…

『二人の女と毒殺事件』アルフレート・デーブリーン

Die beiden Freundinnen und ihr Giftmord(1924)Alfred Döblin アルフレート・デーブリーンは、最近になって叙事詩『マナス』や短編集『たんぽぽ殺し』などが刊行されるなど、ちょっとしたブームになっています。しかし、何をおいても読んでおきたいのは、…

『サセックスのフランケンシュタイン』H・C・アルトマン

Frankenstein in Sussex/Fleiß und Industrie(1968)/Die Anfangsbuchstaben der Flagge. Geschichten für Kajüten, Kamine und Kinositze(1969)Hans Carl Artmann ハンス・カール・アルトマンは、数多くの言語を操ったことで知られています(その数三十…

『アリスのような町』ネヴィル・シュート

A Town Like Alice(1950)Nevil Shute 前回同様、『アリスのような町』も『不思議の国のアリス』とは無関係です。 それどころか、この小説でのアリスは人名ですらなく、オーストラリアのど真んなかにあるアリススプリングス(the Alice、ないしは単にAlice…

『鏡の国のアリス』モリー・フルート

Through the Looking Glass(1976)Molly Flute この本の原題は『Through the Looking Glass』。そう、かの有名なルイス・キャロルの『鏡の国のアリス』と同じです。 しかし、共通するのはそれだけ。アリスという名の人物も登場しなければ、ワンダーランドを…

『サバイバー』チャック・パラニューク

Survivor(1999)Chuck Palahniuk 前回、初めて映画のノベライズを扱いましたが、基本的に僕はノベライズなどには手を出しません。別に軽視しているわけではなく、存在意義がよく分からないからです(メディアミックスやスピンオフなどは除く)。「映像では…

『吸血ゾンビ』ジョン・バーク

The Second Hammer Horror Film Omnibus(1967)John Burke 僕の読書は、足と肩に自信のない遊撃手のように守備範囲が狭いので、苦手なジャンルが数多くあります。なかでもホラーは小説も映画も不得意で、知識もないし面白味もよく分かりません。 恐らく、ホ…

つながる海外文学 ―初心者におすすめする連想読書法

僕は昔から、他人とかかわり合うのが苦手です。 実生活では、生きてゆくためにやむを得ずある程度のつき合いをしていますが、インターネット内では一切の交わりをやめてしまいました(昔は少しやっていた)。 ブログはコミュニケーションを取るためのもので…

『悪魔はぼくのペット』ゼナ・ヘンダースン

The Anything Box(1965)Zenna Henderson 前回ちょっと触れたゼナ・ヘンダースンは、長編を一作も書いておらず、また短編の数もそれほど多くありません。 にもかかわらず、連作短編の「ピープル」シリーズ、あるいは「スー・リンのふしぎ箱(なんでも箱)」…

『どこからなりとも月にひとつの卵』マーガレット・セントクレア

Change the Sky and Other Stories(1974)Margaret St. Clair(a.k.a. Idris Seabright, Wilton Hazzard) マーガレット・セントクレア(別名イドリス・シーブライトほか)は一九五〇〜六〇年代に活躍したSF作家で、短編集『どこからなりとも月にひとつの…

『火山を運ぶ男』ジュール・シュペルヴィエル

L'Homme de la pampa(1923)Jules Supervielle ジュール・シュペルヴィエルは、詩や短編小説の評価も高いのですが、日本では澁澤龍彦が訳した長編小説『ひとさらい(Le Voleur d'enfants)』(一九二六)が最もよく知られています。 子どもをさらってきて疑…

『ブラッド・スポーツ ―ハサヤンパ河を遡る旅』ロバート・F・ジョーンズ

Blood Sport: A Journey Up the Hassayampa(1974)Robert Francis Jones どんな趣味においても、人は経験を増すにつれ知名度の低いものを偏愛する傾向があります。知られていないものを好むのは、知識の広さを誇ったり、普通の人が評価しないものの価値を認…

『虚構の楽園』ズオン・トゥー・フォン

Những thiên đường mù(1988)Dương Thu Hương 海外文学を読む楽しみのひとつとして、その国や地域の歴史、文化、社会、生活習慣などに触れることができる点があげられます。尤もフィクションを介してですから、何となく知ったつもりになるという程度ではあ…

ミステリーっぽい短編小説2

海外の、ミステリー作家以外が書いたミステリーっぽい短編小説を紹介しています。